よりぬき『バベルの図書館』
ヤン川の舟唄 (バベルの図書館 26) 死神の友達 (バベルの図書館 28) 死の同心円 (バベルの図書館) 輝く金字塔 (バベルの図書館 21) 祈願の御堂 (バベルの図書館 27) パラケルススの薔薇 (バベルの図書館 (22))
 8月に新装復刊される、ボルヘス編の世界文学アンソロジー『バベルの図書館』(国書刊行会)。個人セレクションの世界文学全集という、当時としては珍しいコンセプト、そして何より編者ボルヘスの趣味が発揮された独自のセレクションが魅力的なシリーズです。
 今回はそのシリーズ中、魅力的な巻をいくつか紹介したいと思います。
 まずは全巻の目次を紹介しておきます。

『アポロンの眼』G・K・チェスタートン
『無口になったアン夫人』サキ
『人面の大岩』ナサニエル・ホーソーン
『禿鷹』フランツ・カフカ
『死の同心円』ジャック・ロンドン
『アーサー・サヴィル卿の犯罪』オスカー・ワイルド
『ミクロメガス』ヴォルテール
『白壁の緑の扉』H・G・ウェルズ
『代書人バートルビー』ハーマン・メルヴィル
『聊斎志異』蒲松齢
『盗まれた手紙』エドガー・アラン・ポオ
『ナペルス枢機卿』グスタフ・マイリンク
『薄気味わるい話』レオン・ブロワ
『友だちの友だち』ヘンリー・ジェイムズ
『千夜一夜物語 -バートン版』
『ロシア短篇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス編
『声たちの島』ロバート・ルイス・スティーヴンスン
『塩の像』レオポルド・ルゴーネス
『悪魔の恋』ジャック・カゾット
『アルゼンチン短篇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス編
『輝く金字塔』アーサー・マッケン
『パラケルススの薔薇』ホルヘ・ルイス・ボルヘス
『ヴァテック』ウィリアム・ベックフォード
『千夜一夜物語 -ガラン版』
『科学的ロマンス集』C・H・ヒルトン
『ヤン川の舟唄』ロード・ダンセイニ
『祈願の御堂』ラドヤード・キップリング
『死神の友達』 ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン
『最後の宴の客』ヴィリエ・ド・リラダン
『逃げてゆく鏡』ジョヴァンニ・パピーニ

 とりあえず、シリーズ全体を通しての特徴をはじめに挙げておきます。 
 まず、いくつかの例外を除いて、基本的には各巻短めの構成になっています。1巻当たり、読むのにそんなに時間は要しません。例えば、チェスタートンやポオの巻は、短編5編の収録です。それぞれ、ボルヘスの解説がつきます。
 収録作品の傾向としては、いわゆるボルヘス好みの作品が収められています。広義の幻想小説といっていいでしょうか。そのため、世界文学全集に必ず入るようなメジャー作家の巻でも、珍しい作品が入っていたりします。
 そして、ある意味、収録作品以上に、このシリーズの魅力として挙げられるのが、装丁画です。今回もその装丁を再現するのかどうかはわかりませんが、旧シリーズを持っている人が今回の新版を購入するかどうかは、ここがポイントなのではないでしょうか。
 さて、内容の方ですが、今回は「よりぬき」ですので、僕個人が面白かった巻を紹介していきます。

 『人面の大岩』ナサニエル・ホーソーン  ホーソーンの短編には、いわゆる「奇妙な味」に類する作品が多くあります。妻を残して数十年近くの家に隠れ住む男を描いた『ウエイクフィールド』や、突如黒いベールをかぶりはじめる牧師を描く『牧師の黒いベール』など、寓話としても魅力的な作品が収録されています。

 『死の同心円』ジャック・ロンドン  収録作品中の目玉として、影と光それぞれに憑かれた科学者の戦いを描く『影と光』があるのですが、近年ロンドンの邦訳短篇集が刊行され、この作品も手軽に読めるようになりました。

 『アーサー・サヴィル卿の犯罪』オスカー・ワイルド  『幸せの王子』などの童話がいくつか収録されていますが、これらは他の本でも読めます。いちばんの目玉作品は、スラップスティックなゴーストストーリー『カンタヴィルの幽霊』でしょう。

 『ミクロメガス』ヴォルテール  これはシリーズ中でも屈指の面白い巻です。風刺の効いたユーモア短編が収められています。ヴォルテールを教科書的な哲学者としてしか認識していない読者の目からうろこが落ちること必定の好短篇集です。痛快な冒険小説『バビロンの王女』がオススメ。
 
『白壁の緑の扉』H・G・ウェルズ  収録作品としては、現役で出回っている短篇集に収録されているものが多いので、コストパフォーマンスとしてはあまりよくないのですが、セレクションは文句のつけようがありません。中では、実験中の事故で別次元に飛ばされてしまう男を描いた『プラットナー先生綺譚』が珍しいでしょうか。

 『聊斎志異』蒲松齢  『聊斎志異』は、岩波文庫版、平凡社版など、他にも多く邦訳が出ていますが、どれもお話自体が非常に面白いという意味でオススメです。
 
 『薄気味わるい話』レオン・ブロワ  ブラック・ユーモアに満ちた短篇集です。あまりに皮肉が利きすぎて読むのがつらくなってくるほど。街を離れようとしても離れられない夫婦を描く不気味な短編『ロンジュモーの囚人たち』が魅力的です。
 
 『声たちの島』ロバート・ルイス・スティーヴンスン  スティーヴンスンの短編は怪奇と冒険に満ちた、何より物語として面白い作品が目白押しです。何でも願いがかなう壜をめぐる物語『壜の小鬼』、良心と罪をテーマにした分身小説『マーカイム』、本格的な怪奇小説『ねじれ首のジャネット』など。

 『塩の像』レオポルド・ルゴーネス  猿に言葉を教える科学者を描く『イスール』、知恵をつけた馬を描く『アブデラの馬』など、風変わりで面白い短編が収められています。

 『悪魔の恋』ジャック・カゾット  悪魔が化けた娘と青年の恋を描く、ゴシック・ロマンスの先駆け的な作品です。怪奇小説的な味付けはともかく、恋愛小説部分が今読んでも面白いです。

 『アルゼンチン短篇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス編  アルゼンチン作家の作品を集めたアンソロジーです。ほとんど≪異色作家短篇集≫といっていいですね。SF的な『烏賊はおのれの墨を選ぶ』(アドルフォ・ビオイ=カサレス)、一読唖然とするシュールな作品『チェスの師匠』(フェデリコ・ペルツァー)など。

 『輝く金字塔』アーサー・マッケン  文学全集にマッケンが入っていることに驚きますが、『怪奇クラブ』収録の挿話が多く、ファンには物足りないですね。

 『ヤン川の舟唄』ロード・ダンセイニ  河出文庫から≪ダンセイニ幻想短篇集成≫が出る前までは、数少ない貴重なダンセイニの邦訳でした。

 『死神の友達』 ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン  収録作品は、『背の高い女』『死神の友達』の二編。『背の高い女』はオーソドックスな怪談ですが、『死神の友達』が凄いです。死神が見えるようになった自殺志願の青年を描く作品ですが、後半、19世紀に描かれたとは思えないような怒涛のスケールで話が展開していくのに唖然とします。

 『逃げてゆく鏡』ジョヴァンニ・パピーニ  「幻想文学」らしいといえば、このパピーニの巻がいちばんそれらしいでしょう。かっての自分と出会った男描くグロテスクな話『泉水のなかの二つの顔』、若いころに自分の時間を貸した老婦人が、年をとってから「若さ」を返済してもらうという物語『返済されなかった一日』など、どれも魅力的です。

 やはり他に邦訳のほとんどない、あっても少数のマイナー作家の巻が印象に残っていますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
国書刊行会!
国書刊行会40周年記念フェアが9月から始まりますね。楽しみです。
妻はけっこう国書本買い込んでましたが、私は無縁でした。この機会に、漁ってみようかなと。
お題のシリーズだと、『人面の大岩』だけ、図書館で借りて読みました。こんなの手にすると、紙の本は廃れっこないよなあ、と感じます。
【2012/08/05 12:41】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
>迷跡さん
早川、創元と並んで、国書刊行会には随分お世話になってます。フェアも楽しみです。
ハードカバーも以前と比べると、全体にかなり軽装なつくりになってきましたが、国書の単行本は、今でも「物」としても魅力的な本作りをしてますね。
書店で手にしたときに、手元に置いておきたい!と思わせるのが「物」としての本の魅力でしょう。
『バベルの図書館』は内容自体も魅力的ですが、自分だったら、あの作家、あの作品を入れたいな、というようなことを考えさせてくれるという点でも啓発されるところがあります。
【2012/08/05 18:05】 URL | kazuou #- [ 編集]

今日は
はじめまして☆ルゴーネスで検索していて辿り着きました。
先日丸の内までフェア行って来ましたが、思ったよりチンマリやっててちとガッカリでした。しかし記念小冊子がすばらしく、読むとあれもこれも欲しくて困ります(笑)こちらのバベル~のレビューを読んで、死神の友達が無性に読みたくなりました。私は家で本を読めないタイプなので、このシリーズって持ち歩きにくいのが難点ですね。他も参考にさせて頂きますね。
【2012/09/18 15:13】 URL | hoshinoya #mQop/nM. [ 編集]

>hoshinoyaさん
hoshinoyaさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

『死神の友達』は、このシリーズの中でも屈指の面白さなので、ぜひ読んでいただきたいです。
ルゴーネスやパピーニなども、これ以外では読めないと思いますが、もっと邦訳してほしい作家です。

僕は神保町の三省堂まで足を運んだのですが、国書フェアのコーナーはかなり広くとってありましたよ。あれだけ国書の本をまとめて見たのは初めてかも。
小冊子は、ずいぶん読みでがありました。国書の本に対する執筆者たちの愛情が感じられるところがいいですね。
【2012/09/18 21:32】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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