バラード短編強化月間
時の声 (創元SF文庫) 溺れた巨人 (創元SF文庫) 時間都市 (創元SF文庫) 永遠へのパスポート (創元推理文庫 629-7)
 最近続けて読んでいるのが、J・G・バラードの短篇集。雑誌やアンソロジーに訳載されたものは、ちょこちょこ読んでいたのですが、短編集単位で読んだのは、じつは『ウォー・フィーバー』(福武書店)のみ。
 『ウォー・フィーバー』は、面白く読んだ覚えがあるので、他の作品集も読んでみようと思い立ちました。積読の本の山を探してみたら、創元社の短篇集が5冊出てきました。というか、創元社から出ている短篇集は揃ってました。
 バラードと言えば、「ニューウェーブSF」の代名詞的存在。「難解」とか「意味がわからない」という評価もちらほら聞かれます。
 ですが、読んでいて思ったのは、意外にオーソドックスな作品が多いな、ということ。確かにシュールな設定や展開の話が多いのですが、今現在読むと、そこまで意味がわからなくはありません。現代の一部の純文学や、マジック・リアリズム作品だと言われれば、納得してしまうような感じです。
 あと、初期の作品には、センス・オブ・ワンダーの感じられる作品があったのも、意外な収穫でした。
 印象に残った短編を挙げてみると、以下のようなものになるでしょうか。

『音響清掃』(創元SF文庫『時の声』収録 )
『マンホール69』(創元SF文庫『時の声』収録)
『至福一兆』(創元SF文庫『時間都市』収録)
『静かな暗殺者』(創元SF文庫『時間都市』収録)
『最後の秒読み』(創元SF文庫『時間都市』収録)
『九十九階の男』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
『アルファ・ケンタウリへの十三人』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
『逃がしどめ』(創元SF文庫『永遠へのパスポート』収録)
『ゴダード氏最後の世界』(創元SF文庫『時間の墓標』収録)
『溺れた巨人』(創元SF文庫『溺れた巨人』収録)

 『マンホール69』は、実験的に「睡眠」を奪い、一日中意識を保てるようになった男たちを描く作品です。覚醒し続ける男たちの意識の変容を描いているのですが、この展開が異様で、まるでホラー作品。
 『至福一兆』は、人口が増大した近未来が舞台、土地や家が極端に少なくなり、一定以上の広さの家に住むことが不可能になっています。ふとしたことから、アパートの隠れ部屋を見つけた主人公たちは…。
 よくあると言えば、よくあるテーマですが、バラードの手にかかると、妙な雰囲気の作品になりますね。
 『静かな暗殺者』は、かっての恋人の死を防ごうと、未来から暗殺者としてやってきた男が陥ったジレンマを描く作品。ずいぶん派手になりそうなテーマなのですが、終始淡々と話が進むのはバラードならではでしょうか。
 『最後の秒読み』、これが今回一番驚いた作品ですね。保険会社の社員である主人公は、上司への不満をノートにつづっていました。ある日ふと、上司が死ぬという記述を書き加えたところ、実際に上司が死を遂げてしまったのです。ノートに書き込んだ人物を殺す能力に気づいた主人公は、邪魔者を次々消していきますが…。
 これ、漫画『デスノート』にそっくりな設定なんですよね。主人公が傲慢でサイコパス的な人物なのもあって、かなり派手な作品になっています。
 『九十九階の男』は、わりとシンプルなクライム・サスペンス、『アルファ・ケンタウリへの十三人』は、「世代間宇宙船」に乗船した人間たちがどう行動するのかを確かめるため、地球上で宇宙船に似た施設を作る実験に参加した医師を描く作品。
 『逃がしどめ』テレビを眺めていた男は、突然同じ番組が繰り返されているのに気づきます。しかし妻は、そんなことはないと言い張ります。自分だけが短い時間のループに巻き込まれている気づいた男は、時間の繰り返しから脱出しようとしますが…。
 「タイム・ループ」ものです。解決があっさりしていますが、面白いですね。
 『溺れた巨人』浜辺に打ち上げられた巨人の死体を眺める人々。やがて彼らは浜辺を去って行きます…。「巨人の死体」という魅力的な題材を扱っていながらも、ただただ静かな情景が展開されていくという、異色の作品。バラードの魅力はこういうところにあるんでしょうね。

 短篇集単位で言うと、『時間都市』がいちばん物語性が強い作品が収められていて、異色短編好きには楽しめると思います。次に『時の声』『永遠へのパスポート』でしょうか。バラードを読みたいと思っている方には、上の順番で読んでみることをオススメしておきます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

おっと、今どきバラード(笑)
短編だと「溺れた巨人」、長編だと『狂風世界』ですね、印象が強いのは。
ベストとは違いますけど。
お勧めの三短編集、全く同感。
【2012/06/17 00:36】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
バラードって、正直、以前は退屈に思っていたんですけど、今回とても面白く読みました。短編をまとめて読んでみて、バラードの短編はいまだ価値を失っていないな、というのが感想です。
長編は、いまいち印象が薄いのですが、やはり『結晶世界』でしょうか。
【2012/06/17 07:15】 URL | kazuou #- [ 編集]

バラードなので
バラードが出てきたので久々にお邪魔いたします(笑)。
いつも楽しく読まさせていただいておりますよ。
バラードの短篇ってよくも悪くも淡々としているのでひっかかりがないと感じる人もいると思うんですよね。ユーモアに欠けるというか、あっても独特なブラックジョーク的なものなのも親しみにくく感じさせるんじゃないかなあなんて思っています。高層ビルとか病院とか時間とか繰り返されるモチーフを手がかりにするとだんだん面白くなってきます。なかでも初期短篇は伝統的なSFらしいアイディア・ストーリーが多くて読みやすいですよね。
そういえば亡くなったブラッドベリをバラードは高く評価していましたね。実は初期短篇なんかのイメージ喚起力には通じるところもあるような。
【2012/06/17 10:13】 URL | さあのうず #- [ 編集]

>さあのうずさん
そうなんですよね。「淡々」としているのが、とっつきにくさにつながっているんだと思います。バラード固有のテーマやコンセプトに馴染みが出てくると、面白くなってくるんですけどね。
初期の伝統的なSF作品でも、変に「淡々」としてるのが、今読むと逆に面白い感じがしますね。
【2012/06/17 18:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


ニューウェーブの作家では、バラードと山野浩一が好きですね。
読みやすく、世界が想像しやすいのかもしれません。
で、いまでも印象が強いのは、「ヴァーミリオン・サンズ」かな。
【2012/06/24 01:09】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

>kennさん
昔は全然受け付けなかったのですが、最近になってバラード作品が肌になじんできたような気がします。やっぱり「読み時」というものがあるんでしょうか。
『ヴァーミリオン・サンズ』シリーズも独特ですよね。
【2012/06/24 08:33】 URL | kazuou #- [ 編集]

ブラッドベリもでしたが・・
バラードもやはり初期短編により魅力が感じられた作家ですね。。
でもどの辺りに魅力があったのか説明するのがブラッドベリより難しい感じです。
必ずしもイメージの鮮烈さに惹かれていた訳でもなかったような・・・
忘れかけているので再読せずに書くと嘘を書いてしまいそうですが、
「精神世界の変容」をネタにしているもの(目前の"風景"を含めて)が面白かったのかなぁなどと。

「ハイ-ライズ」やら「クラッシュ」など、長編にも結構挑戦したのですが、こちらにはあまり乗れなかったので、私の中ではやはりバラードは短編作家です。
幻想的なイメージ自体はこの辺も結構強烈だったはずなのですが。
ただ、未読の「太陽の帝国」はいつかチャレンジしてみようかなぁ、という気持ちはまだあります。

(関係ないですが、ブラッドベリの書き込みで触れようと思って忘れていたのですが、絵本作家のモーリス・センダックも先日亡くなっていたんですね。。幻想世界の先達がまた一人。)
【2012/06/24 09:21】 URL | Green #- [ 編集]


たしかに、バラード作品の魅力というのは言葉にしにくいですね。ブラッドベリを人に勧めようと思ったら、何となく言葉にできそうですが、バラードはとりあえず読んでみてくれ、としかいえないような…。
「精神世界の変容」に魅力がある、というのは同感で、心理小説的なものに佳作が多かったように思います。
【2012/06/24 13:41】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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