最近読んだ本と『ナイトランド』のこと

4582828795太古の呼び声
ジャック ロンドン Jack London
平凡社 1994-11

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ジャック・ロンドン『太古の呼び声』(辻井栄滋訳 平凡社)
 原始時代に生きる少年の成長と戦いを描いた作品です。ロンドンらしく、主人公の前には過酷な生存競争が待っています。しかし終始絶望が続くのではなく、生命に対する強い賛歌が感じられます。
 欧米には「先史もの」とでも呼ぶべき作品があって、僕もいくつか読みましたが、このジャンルの中では飛びぬけて素晴らしい作品かと思います。だいたい過去を舞台にして小説が書かれるとき、登場人物の考え方や人物像があまりに現代人に近すぎると、違和感を覚えるものですが、ロンドン作品では、そのあたりのバランスが上手いのです。



43092730843秒
マルク=アントワーヌ・マチュー 原 正人
河出書房新社 2012-02-24

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マルク=アントワーヌ・マチュー『3秒』(原正人訳 河出書房新社)
 サッカー界を舞台にした事件をめぐって展開されるコミックなのですが、物語の構成が前代未聞というべき形式で描かれています。すべてのシーンが、鏡や金属、水たまりなど光の反射によって進んでいくのです。ある場所に映った映像の中の物にさらに映った映像の中の物にさらに映った…というように、合わせ鏡のようにめまぐるしくシーンが展開するのです。
 本の中にあるパスワードで、特設サイトのデジタル版が見れるのですが、映像で見ると、さらにすごいですね。



4840145067エムブリヲ奇譚 (幽ブックス)
山白朝子
メディアファクトリー 2012-03-02

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山白朝子『エムブリヲ奇譚』(メディアファクトリー)
 旅に出れば必ず道に迷い、不思議な体験をするという道中記作者、和泉蝋庵。ふとしたころから、蝋庵のお供をすることになった男の奇妙な冒険行を描く連作短篇集です。
 胎児を拾った男の奇妙な冒険を描く冒頭の『エムブリヲ奇譚』から、度肝を抜かれます。人間の残酷さを描く『〆』『あるはずのない橋』『地獄』といった作品も面白いですが、なんと言っても、生まれ変わりを描く『ラピスラズリ幻想』が素晴らしいです。それを持った状態で死ぬと、もう一度自分の人生をやり直せるという、不思議な石を手に入れた女性の生涯を描いた作品です。単純な願望充足物語にならず、予想だにしない結末に至るまで、間然するところのない傑作。
 前作『死者のための音楽』を正調の幻想小説とするなら、今作は、黒い笑いに満ちた、まさに奇譚です。幻想小説、怪奇小説ファンなら必読でしょう。



NL01.jpg
トライデント・ハウス(発行元 黒田藩プレス)から刊行予定だった、ホラー&ダーク・ファンタジー専門誌『ナイトランド』。出版社直販の雑誌ということで、一般販売はないようなので、定期購読を申し込もうかなと思っていたのですが、一部の書店で取り扱いもありとのことなので、とりあえず創刊号を見てからにしようかと考えました。
 というわけで、ジュンク堂書店池袋本店に行ってきました。文芸書の階に怪奇幻想関係のコーナーがあるのですが、そこで発見しました。パラパラとめくった後、購入決定です。コラムやエッセイがもう少し多いといいのですが、やはり翻訳短編が多く載っているのが魅力ですね。
 以下のアドレスに、取扱い書店が記されていますので、ご参考まで。
 http://www.trident.ne.jp/j/NL/faq/post-1.html

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

「ナイトランド」、私も、書店で、本日購入。
創刊号は、ご祝儀買い、というか、売れそうな気がしますけど、
勝負は第2号でしょうね。
ラヴクラフト色ちょっと強すぎ、という感じがしました、
クトゥルー神話ファンの私が言うのもなんですが。
【2012/03/18 20:14】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
『ナイトランド』、確かにラヴクラフト色が強いですね。カバーアートからしてクトゥルーっぽいです。
それにしても、2号以降の特集予定も渋いですよね。刊行が続く限り購読していきたいと思っているのですが、長く続いてくれることを祈ってます。
【2012/03/18 22:13】 URL | kazuou #- [ 編集]


「3秒」、買わせていただきましたが、コマ撮りアニメーションの各々の画を見るような、それだけでなくズーム自在の画の移ろいを見ているのがとても楽しい作品でした。微妙に時間が変わっているので、元に近い位置からの象になった時に事件の推移が分かるという。。。
それだけといえばそれだけなんですけれど・・・、でも楽しめました!

謎については・・・・ まぁ狙撃の内容、というメインの仕掛けを楽しませてもらったのでそれで十分なのですが、それ以上は、あまり過度の期待を持たせるようなものでもないかなぁという気も・・・
登場人物の名前が誰とかのアナグラムであるとかは、ディープなサッカーファン以外どうでもよい気が。。(まぁそれを言っちゃぁおしまいでしょうが・・)何故か別所で同時発生する大事件については、どうもメインの件と何の関係もないようだったり(交通事故程度は同時発生してもいいんですが… ただ、これはもしかすると私が関連を読み解けなかっただけかもしれないですね。。)・・・
ただ、チケットの謎についてはこの手もあったか、と。 (でもそれだけを読み解くために内容を隅々までチェックするという気には・・・)

ナイトランドは実は未読で・・・仕掛け人があの黒田藩プレスの方だというのに驚きましたが、内容的には旧来の怪奇幻想マニア向けのものと、そんなには変わりなさそうな気がして・・・手をつけていません。
もうちょっとジャンルの幅を広げているような、仕掛けあるいは目の付けどころの違いみたいなものを打ち出してくれると気を引かれるのですが・・・・ 翻訳されている作家さんの名前などを見るとあんまりその辺、変わり映えしないというか、漁りつくされたところをまた漁っているような印象を受けてしまいますが、その辺り読まれたkazuouさんとしてはどうでしたでしょうか。。。

・・・まぁ、荒俣さんの話ではないですが、そこをあえて読む、とか買い支える、のがファンの務めかもしれませんが、そうなってしまったら私はファンではないのかも・・・・・

山白朝子さんが某作家さんの変名だというのは、書店の平積みコーナーをぼんやり見ていて初めて知りました(明示してあった訳ではありません・・・帰ってから調べたという・・・)
某作家さんは処女作だけ読んで、後を追いかけてはいないのですが、とても成長しておられるのでしょうかね。いかにも日本人的にまとまった作品を書く人になっていなければいいなぁ・・・(なっていそうな気がするので追いかけてはいない・・・のですが)
【2012/07/17 03:46】 URL | Green #- [ 編集]

>Greenさん
『3秒』は、内容よりも、技法だけでもう満足してしまう作品ですよね。正直、事件の謎はどうでもいいというか…。

『ナイトランド』は、ある意味すごくオーソドックスな怪奇小説誌ですね。はじめからマニア気質の人を対象にしているような気がします。個人的には好きなんですが。

某作家は、デビュー作以来、ずっと腕を上げていると思います。最近は、新作が出るたびに買っていますが、ほとんど失望したことがないですね。
【2012/07/17 21:30】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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