残虐への郷愁  真野倫平編訳『グラン=ギニョル傑作選』

4891768088グラン=ギニョル傑作選―ベル・エポックの恐怖演劇
真野 倫平
水声社 2010-11

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 グラン=ギニョル(ギニョール)とは、19世紀末から20世紀にかけて、フランスで流行した残酷劇の通称です。もとは特定の劇場の名前でしたが、その劇場で演じられるような、血みどろで、残酷な劇ジャンルを表すようになったものだそうです。
 邦訳されている、フランソワ・リヴィエール、ガブリエル・ヴィトコップ 『グラン=ギニョル―恐怖の劇場』(未来社)という研究書以外は、「怪奇幻想映画」もしくは「幻想文学史」に関する本などで、散発的に言及されることはあったものの、グラン=ギニョル作品は、実作としては紹介されていませんでした。
 そんなグラン=ギニョル作品としては、本邦初となる邦訳作品集が、真野倫平編訳『グラン=ギニョル傑作選――ベル・エポックの恐怖演劇』(水声社)です。
 もともと舞台劇なので、作品は全て戯曲の形になっています。ただ、戯曲といっても、もともと扇情的なスリラーやショッカーを目指しているジャンルですので、読みやすさは抜群です。
 収録作品からいくつかご紹介します。
 モーリス・ルヴェル『闇の中の接吻』は、恋人に硫酸をかけられ二目と見られぬ顔になった男の復讐劇。アンドレ・ド・ロルド、アンリ・ボーシェ『幻覚の実験室』は、事故にあった妻の情夫を治療することになった医師の悪魔的な所業を描く作品です。
 『悪魔に会った男』(ガストン・ルルー)は、悪魔との契約により、あらゆる賭けに勝つようになってしまった男の家に、たまたま泊まることになった数人の男女を描く作品。「悪魔に会った男」がメインテーマではなく、たまたま家に泊まった男女の不倫をめぐる心理劇がテーマになっているという異色作です。小説版も邦訳されているので、読み比べてみるのも一興ですね。
 『怪物を作る男』(マクス・モレー/シャルル・エラン/ポル・デストク)は、動物を改造して作った「怪物」をサーカスの見世物にしている男が登場します。団長の妻に思いを寄せている男は、引き抜きをあきらめる代わりに、妻をよこせと要求しますが…。集中では、もっともグロテスクな要素のある作品です。
 グラン=ギニョル作品の特徴としては、その恐怖の源泉が「人間の肉体」から来ている、ということが挙げられます。解説にもありますが、悪魔や幽霊や吸血鬼など、ひっくるめて言えば「超自然」的な要素はほとんど現れず、人間の肉体的・心理的な恐怖が主にとりあげられています。人間が人間に行う肉体的な拷問や心理的な圧迫など、「人間の怖さ」が描かれるのが特徴といえるでしょうか。
 読み終えて思ったのは、江戸川乱歩や「新青年」時代の探偵小説を彷彿とさせるなあ、ということ。これは当時一世を風靡したモーリス・ルヴェルの影響などもあるのでしょうね。
 本書には、実作のほかに『グラン=ギニョル主要作品紹介』として、主要作品のあらすじが紹介されています。これが数十作品も紹介されていて驚きます。面白そうな作品が多く、それらも読みたくなってきますね。
 解説・解題も詳細で、これ一冊でグラン=ギニョルの全体像がつかめる構成になっています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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