あれは何だったのか?  マレー・ラインスター『ガス状生物ギズモ』
4488621023ガス状生物ギズモ
マレー・ラインスター
東京創元社 1969-06

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 SF黎明期の作家マレー・ラインスター。「ファースト・コンタクト」テーマをはじめ、彼の発案になるというSF的アイディアは数知れません。今回は、そんなラインスターのモンスターSF『ガス状生物ギズモ』(永井淳訳 創元SF文庫)を紹介します。
 野生動物の異常な死が頻発するのを受けて、狩猟専門誌のライター、ディック・レーンは、山中でフィールドワーク中の学者ウォレン教授に会いに出かけます。しかしその途中、奇妙なものを見つけます。それは二、三十匹ほどのウサギの死骸の山でした。その直後ディックは得体のしれないものに襲われるのです。

 なにかが顔にぴったりとはりついて、鼻孔と口をふさいだ。額のあたりにもなにかがそっと押しつけられた。その感じは顔全体と咽喉のあたりをすっぽり覆い、まるで目に見えないクモの巣にとらわれたようだった。

 目に見えない謎の生物に窒息させられそうになったディックは、からくも逃げ出します。ようやくウォレン教授に会えたディックでしたが、教授との話の最中、犬がほえ出します。また例の生物に襲われると考えたディックは、教授とその姪キャロルとともにトレーラーハウスに逃げ込みます。教授はそのガス状の生物をギズモと呼び、古来から人間が悪魔や悪霊と呼んできたのはギズモなのではないかと考えます。
 そこへ突如、トレーラーに入り込んだギズモがキャロルを襲います。ディックはギズモをシーツに包み込み、殺すことに成功しますが、ほっとしたのもつかの間、トレーラーはギズモに包囲されてしまうのです! 一匹では非力な彼らも集団を組み、トレーラーへの進入を開始します。
 一方、各地で家畜や動物が死んでいくことを疫病だと勘違いした人々が、街を封鎖したことにより、さらなる混乱が引き起こされてしまうのですが…。
 ディックたちはギズモを撃退できるのでしょうか? そして人類の運命は?
 目には見えないというガス状の生物ギズモと人類の戦いを描くパニックSF! なのですが、このギズモ、かなり弱いので拍子抜けしてしまいます。袋に閉じ込めて、つぶされれば死んでしまうし、ライターの火を近づけただけでも死んでしまいます。後半にはニンニクや煙草にも近づけないという弱点が明らかにされます。とはいえ、何万という数で襲撃してくるギズモの攻撃には、さすがにインパクトがあります。
 ストーリー展開もかなりストレートなのが気になります。ギズモによって危機に陥った人類が、ディックたちの行動により、ギズモを撃退する、というお約束どおりの展開になります。しかし危機に陥るといっても、何千何万と死んでいくとかいう絶望的なレベルではなく、数人が死ぬ程度の規模なので、あまり危機感は感じられません。
 主人公ディックが非常な熱血漢であり、ウォレン教授やキャロルなどの仲間も積極的、行動的なので、人類が危機に陥る前に解決されてしまうのです。主人公たちは、かなりあっさりとピンチを切り抜けてしまうので、その点ひねりがないと感じられるかもしれません。
 中盤でディックが仲間に加える男がいるのですが、この男が主人公たちの足を引っ張ります。ここで仲間割れでも起これば、サスペンスが増すのですが、この男もどうも影が薄く、大した興味を惹きません。
 1958年発表の作品なのですが、今となってはちょっと物足りないかも。SF的なアイディアはともかく、小説としては完成度が高いとはお世辞にも言えません。これはこれで、古き良きパニックホラーとして楽しむべきものでしょう。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

「ひ弱な謎の生命体」というのは笑えますね。もし宇宙からはるばるやってきたのなら、いったい地球に何をしにきたのでしょう?
私の記憶が正しければ、映画「グレムリン」にもギズモが登場したように思います。水(何時以降からは水を与えることが禁止されていた)を浴びて変身する前は弱かった。光も苦手だったかな?
「ギズモ」という名前には何か意味があるんでしょうか?
【2006/03/21 11:58】 URL | 加納ソルト #- [ 編集]

懐かしやギズモ
SF入門は創元推理文庫だったので、ギズモも興奮して読みました。私にとってSFは基本的にアイディア・ストーリィですから、どうしてもそのテーマで最初に読んだ作品に愛着が湧いてきますね。ギズモは人類家畜テーマというんでしょうか。同時期に読んだ作品だと、人に取り付く異星人テーマのF・ブラウン著『73光年の妖怪』(しかしこの邦題はなんだろう?)なんかも印象に残っています。
【2006/03/21 13:13】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


>加納ソルトさん
今ではギズモといえば『グレムリン』のイメージが先行しちゃいますね。英語のGizmoというのは「ガジェット」と同じような使われ方をしているらしいです。仕掛けとか、からくりとかいった意味でしょうか。SF的な使い方としては、BEM(ベム=異星人の総称)とほぼ同義といった感じです。
今現在のモンスター的なイメージからすると、確かにこの作品のギズモはやたらとひ弱なのですが、それが今読むと逆に新鮮なのかも。

>迷跡さん
そうですね、たぶん人類家畜テーマに分類されるんでしょうか。『ギズモ』はその最初期の例なんだと思いますが、考えたらラヴクラフトなんかも一種の人類家畜テーマですよね。
確かに最初に読んだ作品が、刷り込まれて愛着があるというのはあります。それで言うと『73光年の妖怪』よりは、僕はハインライン『人形つかい』の方が印象が強いですね。
【2006/03/21 13:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


名作、傑作といわれる作品を読むときには、結構、肩に力が入ってかまえてしまうものですが、いわゆるB級作品て単純に娯楽作品として楽しめますよね。これは読んでみたいです。
【2006/03/21 20:54】 URL | てん一 #- [ 編集]

ラインスターは…
名作は、読む前から先入観があったりしますもんね。その点ラインスターはB級まっしぐらなので、単純に楽しめます。はっきり言ってラインスターはアイディアで勝負してるので、小説としてはかなり落ちます。短編ではそのボロが出る前に終わるのですが、長編では、プロットの構築力の弱さがもろに出てしまうように思います。とはいえ『ギズモ』も割り切って読む分には、かなり面白いですよ。読みながらツッコミを入れるのも愉しいでしょう。
ところでラインスターの短編はどれもセンス・オブ・ワンダーに満ちていて面白いです。そのうち紹介しようかと思ってるんですが…。
【2006/03/21 22:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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