欧米の怪奇小説をめぐって  フランスの怪奇小説 その1
怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫) フランス幻想小説傑作集 (白水Uブックス (71)) 45734.jpg 14.jpg e5805d6cde.jpg

 怪奇小説の本場といえば、イギリスとアメリカ。いわゆる英語国が突出しています。とはいえ、他の国にもその国独自の怪奇小説が存在します。その点で、フランスの怪奇小説はとくにユニークだと言えます。
 フランスの怪奇小説の特徴は、とにかく「明るい」こと! 「明るい」というと、語弊がありますが、このジャンルにつきものの、陰惨さや陰湿さが少ないと言えばいいでしょうか。非常にカラッとした作品が多いのです。
 ただ裏を返せば、怪奇小説の魅力のひとつである「雰囲気」の弱さ、「神秘性」の少なさ、という点にもつながります。例えばブラックウッドやM・R・ジェイムズなどのようなタイプの作家は、フランスには非常に少ないといえます。
 とはいっても、フランスの怪奇小説には、この国ならではの魅力があります。抑制の利いた語り口。明晰なストーリー。軽妙さと、そしてエスプリ。英米型の怪奇小説とはまた違ったジャンルとして、フランスの怪奇小説は楽しむべきでしょう。
 そんなわけで今回は、フランスの怪奇小説を紹介してきたいと思います。
 まずアンソロジーから。いくつかのアンソロジーがありますが、筆頭に挙げるべきは間違いなく、『怪奇小説傑作集4巻 フランス編』(澁澤龍彦編 創元推理文庫)です。過去に何度も言及していますので、細かい紹介は省略しますが、これ一冊で、一通りフランス作品についての理解は得られるでしょう。
 マルキ・ド・サドやシャルル・ノディエといった、このジャンルの先駆的な作家たちから始まり、ネルヴァル、ゴーチェといったロマン派の作家をはさみ、アポリーネールやアンリ・トロワイヤといった20世紀の作家まで、バランスよく配分した傑作集です。
 歴史順に代表的作家を並べるだけという教科書的な編集ではなく、シャルル・クロス、アルフォンス・アレなどといった、特色あるマイナー作家をまぎれこませるレイアウトが見事ですね。
 『フランス幻想文学傑作選』(全3巻)(窪田般彌、滝田文彦編 白水社)は、18世紀から現代までのフランスの主要作家の幻想文学、怪奇小説を網羅した大アンソロジーです。
 1巻は、18世紀から19世紀半ばごろの作品を収録しています。ノディエの『トリルビー』やゴーチェの『オニュフリユス』といった、このジャンルの「名作」よりも、前半に収められた先駆的な作品の方が、物語としては面白く、楽しめます。ルイ=セバスチャン・メルシエのSF的な掌編や、ヴォルテールのコント、なかでもレチフ・ド・ラ・ブルトンヌの『ルソーのからっぽの墓』『フランスのダイダロス』の面白さが半端ではありません。この二編は長編の抜粋なのですが、飛行機械を発明した主人公が山の上にユートピアを作ってしまうという、SF的な作品です。完訳も出ています(植田祐次訳『飛行人間またはフランスのダイダロスによる南半球の発見』創土社)ので、こちらもオススメしておきます。
 2巻は、主にロマン派の時代の作品を集めています。収録作家も馴染みのある作家名が増えてきますね。ペトリュス・ボレル、フローベール、ネルヴァル、ユゴー、ボードレール、リラダンなど。マイナーポエットである、グザヴィエ・フォルヌレやシャルル・クロスのナンセンス作品も収録されています。
 他には、エルクマン=シャトリアン『降霊師ハンス・ヴァインラント』、アレクサンドル・デュマ『サン=ドゥニの墓』などが面白いですね。
 3巻は、現代に近い年代の作品が集められています。このアンソロジーの中では、もっとも「怪奇小説らしい」巻なので、この巻から読むのもありかと思います。ジュール・バルベー=ドールヴィイ、ジョルジュ・サンド、モーパッサン、マルセル・シュウォッブ、アンリ・ド・レニエ、アポリネールなど。
 J・H・ロニー兄の『吸血美女』、ガストン・ルルー『悪魔に会った男』、モーリス・ルナールの二編『リズロ氏の奇妙な思い出』『歌姫』あたりは、明確に怪奇小説を指向している作品ですね。
 残念ながら、この三巻のアンソロジーは現在入手困難になっているようです。好著なので、ぜひ復刊していだきたい本です。
 さて、『フランス幻想文学傑作選』よりも新しい年代の作品を集めたものとして、『現代フランス幻想小説』(マルセル・シュネデール編 清水茂ほか訳 白水社)があります。収録作家は、ジュール・シュペルヴィエル、マルセル・ブリヨン、ジョルジュ・ランブール、マンディアルグ、アラン・ロブ=グリエ、ジャン・フェリー、ジャック・ステルンベール、マルセル・ベアリュ、ジュリヤン・グリーンなど。
 じつはこのアンソロジー、白水社から出た国別の『現代幻想小説』シリーズの一冊なのですが、このシリーズ中では、かなり読みやすい部類に入ります。というのも、このシリーズ、硬派な「幻想小説」を集めていて、かなり純文学に接近した作品を多く収録しているため、エンタテインメントとして読むには、非常にきついものがあります。イギリスやアメリカの巻でさえ、かなり難物なのですが、中ではフランスの巻は、比較的読みやすくなっています。これはこの巻だけ、フランス人であるシュネデールの編集になっているせいもあるんでしょうね。
 さて脱線していまいましたが、内容としては、シュペルヴィエルに始まる幻想コントがとても魅力的です。アンリ・ミショー『犬の生活』、ベアリュ『首輪・まどろむ乗客』、ジャン・フェリー『虎紳士』など、どれも軽妙で幻想的なイメージに富む掌編です。あとは、『ジョワイユーズの泉』(ジャン=ルイ・ブーケ)が、着想がドイツの怪奇作家H・H・エーヴェルスの作品と酷似していると話題になった作品だそうですが、怪奇味が強く、楽しめる佳作です。
 タイトルの似た『フランス幻想小説傑作集』(窪田般彌、滝田文彦編 白水uブックス)というのもあります。これは『フランス幻想文学傑作選』『現代フランス幻想小説』から抜粋した一巻本アンソロジーです。入手しやすいので、この本から読むのもありでしょう。
 『フランス怪談集』(日影丈吉編 河出文庫)は、河出文庫の怪談集シリーズのフランス編として編まれたアンソロジー。ネルヴァル、ゴーチェ、メリメ、アナトール・フランス、レミ・ド・グールモン、マルセル・エイメなど。おそらく作品としての完成度と美しさを優先した編集なのでしょう、かなりオーソドックスな作品を集めています。
 特筆すべきは、残酷譚で知られたモーリス・ルヴェルの作品『或る精神異常者』が収録されていること。今では、創元推理文庫でルヴェルの短編集が読めますが、当時としてはルヴェルの作品が読める数少ない本だったのです。アンソロジーとしては、それほど刺激的な本とはいえませんが、基本図書として押さえておきたい本ではあります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/469-1a6cd7b9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する