謎が謎を呼ぶ  紀田順一郎編『謎の物語』
4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02-08

by G-Tools

 結末を明示せず、読者の想像力に委ねる…という物語。いわゆる「リドル・ストーリー」には何ともいいようのない魅力があります。作品を読む読者によって、それぞれの結末を考えることができる…という点で、読者が物語づくりに参加できるような感触を持てるからでしょうか。
 紀田順一郎編『謎の物語』(ちくま文庫)は、そんな「リドル・ストーリー」を集めたアンソロジーです。かって、ちくまプリマーブックスの一冊として出ていましたが、今回ちくま文庫より復刊になりました。文庫化にあたり、おまけが少しはあるのかなと思っていたら、予想以上の面目一新!ほとんど別アンソロジーといってもいいほどの増補がされていました。

 収録作品を挙げておきます。
マーク・トウェイン『恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス』
フランク・R・ストックトン『女か虎か』
フランク・R・ストックトン『三日月刀の督励官』
ジャック・モフィット『女と虎と』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード 続』
バリイ・ペロウン『穴のあいた記憶』
ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』
小泉八雲『茶わんのなか』
O・ヘンリー『指貫きゲーム』
ハックスリー『ジョコンダの微笑』
ロード・ ダンセイニ『野原』
サキ『宵やみ』
ラドヤード・キプリング『園丁』
ディーノ・ ブッツァーティ『七階』

 あらすじを述べると、興をそいでしまう恐れのあるジャンルなので、内容に関しては詳説は避けることにしますが、やはりストックトン作品のインパクトは別格です。続編での続け方も人を煙に巻くようなやり方で、さすがに古典になるだけのことはあります。読者の求めるところを心得ているなという出来です。
 あとは、クリーヴランド・モフェット『謎のカード』の続編の収録が嬉しいところです。本編は人を煙に巻くような、典型的な「リドル・ストーリー」なのですが、続編は完全に「種明かし」になっています。
 「種明かし」が、ミステリというよりは、ほとんどホラーになっていてびっくりしました。これはこれで面白いのですが、真相がわかってしまうと、やはり「普通」の小説になってしまいますね。ストックトンとモフェットの、それぞれの続編の書き方を較べると、「リドル・ストーリー」の本質というか魅力といったものに関して見えてくるものもあるかと思います。
 さて、ついでに旧版(ちくまプリマーブックス版)の収録作品も紹介しておきます。

フランク・R・ストックトン『女か虎か』
クリーヴランド・モフェット『謎のカード』
バリイ・ペロウン『穴のあいた記憶』
ディーノ・ ブッツァーティ『なにかが起こった』
小泉八雲『茶わんのなか』
ナサニエル・ホーソーン『ヒギンボタム氏の災難』
木々高太郎『新月』
上田秋成『青頭巾』
ウォルター・デ・ラ・メア『なぞ』
稲垣足穂『チョコレット』
ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』

 新版では、ブッツァーティ作品が差し替えられていますが、彼の作品は、その多くが「リドル・ストーリー」に分類しても差し支えない類のものなので、よしとしましょう。
 デ・ラ・メアの『なぞ』や稲垣足穂『チョコレット』は他の本でも読めると思うのでいいのですが、新版でおちてしまった中では、唯一、ハーヴィー・ジェイコブズ『おもちゃ』が惜しいです。荒俣宏編訳『魔法のお店』(ちくま文庫)にも収録されていますが、こちらも絶版のようです。簡単に内容紹介しておきましょう。
 中年男性の主人公が、ふと骨董店のウィンドウに目を留めます。そこにあったのは、自分が二十年も前に持っていたおもちゃでした。懐かしくなった男が店の中に入ると、そこにあったのは自分が持っていたおもちゃばかりだったのです…。
 「リドル・ストーリー」というとちょっと違う感触の作品ですが、とても味のある作品なので、これも収録してほしかったですね。
 とにかく『謎の物語』は「リドル・ストーリー」を扱ったアンソロジーとしては、質量ともに圧巻のアンソロジーといっていいかと思います。読んでいる最中、また読み終わってからも、そういえば過去に読んだあの作品も「リドル・ストーリー」だよな…と思い浮かんできたりもして、そういう点でもとても楽しめる作品集になっています。
 「リドル・ストーリー」の章として5編を収録しているアンソロジー『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』 (角川文庫)と合わせると、「リドル・ストーリー」の全体像をつかめるかと思いますので、こちらもオススメしておきましょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

詳細なご報告ありがとうございます。
旧版読んでますが、新版とっても楽しみです。
【2012/02/12 19:41】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ここまで面目を一新しているとは思いませんでした。
リドル・ストーリー・アンソロジーの決定版といっていいかと思います。
【2012/02/12 20:36】 URL | kazuou #- [ 編集]


 この本、まだ書店で見ていません。ただの文庫化と思っていましたが、そうではなかったのですね。
 作品異同がなくても買うつもりでした。こんなに増補されているとわかると、買う気倍増です。
 ご紹介、ありがとうございました。
【2012/02/13 11:58】 URL | 高井 信 #nOdkmSi2 [ 編集]


みなさん書いてますが、私もただの文庫化だと思って油断してました(笑)。これは買うしかないですね。
【2012/02/14 00:00】 URL | sugata #8Y4d93Uo [ 編集]

>高井さん、sugataさん
あらすじだけは知っていたトウェイン作品も面白かったですし、まさか、モフェット『謎のカード』の続編が読めるとは。
久々に、すごく良いアンソロジーを読んだ感じがします。
【2012/02/14 22:24】 URL | kazuou #- [ 編集]


kazuouさん>
書店で本日ゲットして参りました。
もうわくわくしてます。
【2012/02/16 19:14】 URL | fontanka #- [ 編集]

「女か虎か」の変形だったと思うのですが・・・
「女か虎か」の変形だと思うのですが、王女が「侍女」になりすまして、箱に入る・・・という話ありませんでしたっけ?
(どこかで読んだ気がする→今、見つからない)
kazuouさんならご存知かと思い、質問させていただきます。

突然、そんな話を読んだきがするということに思い至りましたです。
【2012/02/19 19:01】 URL | fontanka #- [ 編集]

読んだ気はするんですが…
すいません。僕もなんとなく読んだ気はするんですが、タイトルは思い出せません。『女か虎か』のオマージュやトリビュート作品はたくさんありますし。
【2012/02/19 19:31】 URL | kazuou #- [ 編集]


王女が箱に入る→自己解決しました。2011年3月のミステリマガジンに異版 女か虎か でした。
【2012/03/05 21:12】 URL | fontanka #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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