マイナー幻想小説まとめ読み
 レオ・ペルッツの翻訳などで知られる翻訳家の垂野創一郎さんが、自費出版しておられる翻訳同人シリーズ、≪ビブリオテカプヒプヒ≫。古書肆マルドロールさんで、委託販売されているのを、まとめて購入しました。
 このシリーズ、本当に珍しい幻想小説を集めていて、正直、商業出版ではちょっと難しいだろうな、というようなマニアックな作品を選んでいます。ヨーロッパ系の作品が中心というのも、うれしいところです。以下読んだものをいくつか紹介していきましょう。

ヴィリ・ザイデル『世界最古のもの』
 主人公の青年は、ふとしたことから中国人の科学者に出会い、その魅力にとらえられます。博士の研究を手伝うことになった青年でしたが、その研究とは、古代からの邪悪な意思を復活させようとするものでした…。
 「マッド・サイエンティストもの」といっていいのでしょうか。邪悪な力を持つ博士に囚われた青年の運命を描く作品。いささか大時代的な感はありますが、オールドSF好きには楽しめます。 
 
モーリス・サンド『迷路』
 数百年にわたって続く名家マクティーム家の城には、不思議な慣習が受け継がれていました。城主は妻帯しないのです。子供がいないため、後継者は、代々甥が受け継いできました。
 前当主の死により、城を受け継いだジェラルドは、相愛の仲だった婚約者キティとの婚約を突如解消します。それに激怒したジェラルドの幼馴染エディスは、ジェラルドの真意を探ろうとしますが…。
 雰囲気たっぷりのゴシック小説。かなりシリアスに進行するにもかかわらず、結末に至って、その真相に驚かされます。個人的には楽しめましたが、これ大真面目にやってるんでしょうか。

H・W・ツァーン『ヴァルミュラーの館』
 経済的に成功した男バーネルは、列車の中で乗り合わせた女子学生の影響で、ふと青春時代をすごした街に降り立ちます。酒場で出会ったのは青年時代の親友であるノースでした。
 夢想家のノースは、放浪途中で偶然見つけた広告を見て、故郷にあるヴァルミュラー邸を購入しようと決心したのだと話します。怪しい噂のたえない邸に乗り込んだ二人が体験したものとは…?
 正統派の幽霊屋敷小説。ドイツ作家ということもあり、やはり英米のものとは、感触が違いますね。超自然というよりも、神秘主義的・秘教的なトーンが強いです。

グスタフ・マイリンク『標本 マイリンク疑似科学小説集』
 マイリンクのSF的な作品を集めた短篇集です。『標本』『蝋人形展覧室』は、同じ人物が登場する連作もの?でしょうか。ペルシャ人の悪魔的科学者ダラシェコが行う猟奇的な犯罪を描く作品。どこか江戸川乱歩風ですね。
 ある日突然土星の輪が増えるという『土星の輪』もかなりトンデモ系の作品ですが、それにも増して『菫色の円錐』のぶっとび加減が素晴らしいです。冒険家ロジャー卿は、チベット人の間に伝わるという魔術の話を聞き、耳の聞こえない助手を連れ、奥地へと向かいます。そこで出会ったチベット人たちは、何やら呪文のようなものを唱えますが、その瞬間ロジャー卿の体は、菫色の円錐に変わっていました…。
 魔法の言葉が世界を滅亡に導く…という、破滅SF作品。題材自体はかなりバカらしいものながら、臆面もなくそれで話を展開してしまうのが楽しい作品です。
 マイリンクの短編はもっと読んでみたいですね。
 あと購入したものの、未読なのがルートヴィヒ・ティーク『青い彼方への旅』。これも楽しみです。

 今回紹介した作品は、古書肆マルドロール(http://www.aisasystem.co.jp/~maldoror/)さんで購入できます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
いつもながら・・・
いつもながら、こんなマイナーなものをよくぞ、と思う訳ですが
(思ってすぐに書き込みできませんでしたが…)
ご紹介された作品だけをみると、お、何としても買わねば、と思うより
・・・やっぱりちょっとB級よりかな? という感が強かったです。
(・・・という理由で買ってません、すみません。。。古典系とは相性がちょっと…)

サンド『迷路』はサスペンスと雰囲気さえしっかりしていれば、
結構ラストまでは楽しめそうですね…
(因みに古典ゴシックでは、『マンク』は意外に結構いけたクチです。
あと、たぶんあの辺の時代のものとして、『万霊節の夜』はとても相性が良く楽しく読めました。)
他の作品は、展開が読めたときにそれでも楽しめるのかが不安ですね。。。

何とか錐が出てくるマイリンクの作品は他にもあったような…
『輝く金字塔』とか『怪奇クラブ』の作品中にも円錐だか三角錐だかが出てきた気が…
(勘違いでなければですが)個人的なオブセッションなんでしょうか・・・
変身シーンを想像するに、チープなSF(テレビ)映画が連想されて楽しいです。
マイリンクは、傑作『ゴーレム』や「輝く金字塔」その他で良いイメージがあるので、
微妙にチャレンジしてみたい気持ちもありますが・・

古典嫌いといえば、『チリの地震』、意外に楽しめました。
ドイツものとは更に相性が悪いので、古典っぽいオープニングにいやな予感がしたのですが、
何と予想外に冒頭の「チリの地震」が面白く読め(焦点が登場人物の運命で、
その成り行きが予測がつかなかったのがこの場合の勝因かと・・・)、
他の話も最後には「善が勝つ」ようなタッチではあったものの「チリの地震」の成り行き不明の余波で
結構楽しく読めました。(「拾い子」の成り行きも案外予測不能。こちらも苛烈さの印象だけが後に残ります…)
私の場合、先行きが分かってしまうと、
(内面描写が少ないせいか・・・)どうしても仰々しい事実の羅列だけ、みたいに感じられてしまうのですが、
こういう場合は面白く感じるものだというのは、結構新鮮な発見でした。(でもロマン派のよく分からない話もやや苦手)
なお、有名な「ロカルノの女乞食」はあまり・・でした
【2012/01/01 04:56】 URL | Green #- [ 編集]

>Greenさん
このシリーズ、さすがにマニアックすぎて、幻想小説ファンでないと愉しめないかもしれません。
上に紹介しているなかでは、一番マイリンクが一般読者向けでしょうか。「風刺的」というか、タッチが軽くて読みやすいので、「異色短編」好きにはオススメです。
ちなみに、『輝く金字塔』とか『怪奇クラブ』は、アーサー・マッケンですよね?

「苛烈」というのは同感で、『チリの地震』は、今でいうところの「ハードボイルド」タッチが、この時代の作品としてはすごく斬新だったのではないかな、と思っています。
【2012/01/05 19:39】 URL | kazuou #- [ 編集]

あらら・・・
これは・・本当ですね!!!
何か初笑い・・というか初苦笑を提供してしまったようですが、
それにしても、マッケンを誰かと取り違える怪奇ファンなんてもぐりですよね・・
あー、恥ずかしい・・・・

『輝く金字塔』は、マイリンクの『ナペルス枢機卿』も共に、ボルヘスの「バベルの図書館」
に入っているので、そこでの取り違えでしょうが、
勢いで「怪奇クラブ」をマイリンクと言ってしまったのは取り返しがつかない…
他にも「夢の丘」も「白魔」も読んでるし、『白い粉薬の話』は自分の中でも傑作なのに。
どうしてこうなった・・・

ただマッケンは・・・よい作品とは思っても、苦労して、苦労して読んで、その結果、
何かいやな感じの体験をする、という感じなので、あまり好きな作家とは言い難いですね・・・
(白魔はそうでもなかったか・・個人的に読むのに苦労するのは変わらないですけど・・)
因みにマイリンクは「ゴーレム」が自分の中では大傑作!という印象だったのですが、
そのくせ話の内容は、もうほぼ覚えていません (もう一度読みたいです)。
国書の幻想文学大系の「西の窓の天使」は読んでいないし、
バベルの「ナペルス枢機卿」もあまり印象に残っていないという・・・・

「チリの地震」がハードボイルドだというのは、なるほどそうかと、そして面白い見方だなと。
ハードボイルドと聞いて、チャンドラーやマクドナルド、昨今の私立探偵小説とかを
連想してしまう当方にはこの連想はなかったのですが、確かにそもそもハードボイルドって
内面描写などをできるだけ排した事実の描写からなる小説・・なんですね、確か。
チャンドラーやマクドナルドらは、そんな中から情感などをあぶりだして見せるのが
上手かったので、ついその辺りを忘れてしまうのですが。

(個人的主観で間違っているかもしれませんが、)
特にドイツ辺りの話はもともと感覚的な描写が少なくて、
何がこうなってここに至ったのである、みたいな、
簡潔であまり情感のない描写が続く印象があるのですが、
話の成り行きに(たとえばロマン派的な)作者の意図が感じられて、
それをもってハードボイルド(的)とは思えなかったのですが、
「チリの地震」は過酷で数奇な運命を主観を交えずに描出していて、
確かにこれはハードボイルド、ですね。。。
いかにも作り話なのに、何だか運命とか人が生きるということについて
ふと考えてしまうような、迫力がありました。
【2012/01/07 07:56】 URL | Green #- [ 編集]

マイリンクとマッケン
マイリンクにせよ、マッケンにせよ、オリジナリティという点では恐ろしく独特の作家ですよね。
マッケンは僕も惹かれる作家ではありますが、素直に「好き」とは言いにくい作家ですね。とにかく「禍々しさ」が半端ではない。あれをキリスト教圏の人が読んだら、もっと衝撃的なんじゃないかと思います。
マイリンクの長編は、あまり肌に合わなくて『ゴーレム』にせよ『緑の顔』にせよ、ピンと来ない感じでした。それに対して短編はどれも面白く読めたんですよね。
【2012/01/07 19:33】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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