黒い物語  トーマス・オットの不気味な世界
Cinema Panopticum R.I.P.: Best of 1985-2004 The Number: 73304-23-4153-6-96-8
 以前から「文字のない絵本」や「文字のないマンガ」というものに関心がありました。古くは、リンド・ウォードの『狂人の太鼓』、最近ならデイヴィッド・ウィーズナーのいくつかの作品、日本語版が出たばかりのショーン・タン『アライバル』。日本なら、とり・みきの実験的なギャグマンガなどもそれに相当するでしょうか。
 この手の作品をいくつか読んできて、不満だったのは、いわゆる怪奇小説・ホラー小説をこの「文字のない」手法で描いた作品がほとんどない、ということ。ところが最近、この不満を解消してくれる作家に出会いました。スイスの漫画家、Thomas Ott(トーマス・オットでいいのでしょうか)です。
 この作家の作品には文字やセリフがありません。読者は絵を見て、物語を想像していくわけです。ただ、文字がないからといって抽象的な話にはなっていません。丹念に絵を追っていけば、物語はきちんとわかるように作られています。
 もう一つ特徴があります。オットは作品をすべて「スクラッチボード」で描いているのです。「スクラッチボード」とは、黒い画用紙のこと。そこにとがった道具で紙を削って、絵を描いていくものです。黒紙がベースなので、当然絵のタッチも黒っぽくなります。
 作品の内容も、画風に見合ったダークなものになっています。例えば『CLEAN UP!』は、殺人を犯した男が、自分の指紋が気になりだし、家中の指紋を拭いて回る、という作品。『GOODBYE!』は、いろいろな方法で自殺を試みる男がいずれも失敗し…という話。『BREAKDOWN』は、たった一人宇宙船に乗り込んで旅をする男が、船外で修理活動をしている際に、いろいろな幻影を見る、という話。殺しの報酬として義眼を手に入れる男を描いた『THE JOB』なんて、シュールなストーリーもあります。
 時にはブラックすぎる話もありますが、作者がホラー作品が好きで描いているんだなというのが伝わってきて、怪奇小説好きにはたまりません。
 個人的にいちばん気に入ったのは、『Cinema Panopticum』という作品です。これはオムニバス短篇集で、お祭りに出かけた少女が、ふと入った小屋の中でいろいろな物語りを覗き見る、という趣向になっています。
 オットの作品には、英語版、ドイツ語版など、いくつかの版がありますが、絵だけの物語なので、基本的にはどの版を入手しても同じです。
 お勧めは、オットの過去のベストをまとめた作品集『R.I.P.』、そして『Cinema Panopticum』ですね。
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テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
購入予定
これは面白そう!
と、初めてご紹介文を読んだ時から思っていましたが、
なかなか購入しようというところまで行かないままに本日に至りますが、
是非買って読みたいです。まだ試していませんが、今アマゾンで買えるのかなぁ…

その前にご紹介のあった、BDコレクションの「ひとりぼっち」なども面白そうだ、と思って
購入候補だったのですが、アマゾンやブログのレビューなどを見ていくうちに
同じシリーズの別の作品の方が面白いなどといった記載を目にしたりして複雑な気持ちになり(笑)、
結局どちらも買わずに今日に至ります。。。。。
比較ではなく作品単体で考えればいい話ですが、高額なだけに外れは避けたいとあれこれ考えてしまうんですよね…

国書刊行会といえば、イアン・バンクスの「ブリッジ」を今年出す、とどこかに書いてあった気がして
とても楽しみにしていたのですが、何のアナウンスもないということは今年は無理なのかなぁ・・・・
【2011/09/25 18:31】 URL | Green #- [ 編集]

ブラックですが…
オットの作品は、amazonでも買えますよ。今見たら、『R.I.P.』と『Cinema Panopticum』は在庫があるみたいですし。ただ、話のブラックさが半端ではないので(結構どぎつい作品もあります)、かなり好き嫌いは分かれると思います。

BDコレクションは、一般的には「ひとりぼっち」より「イビクス」とか「アランの戦争」なんかの方が評価が高いみたいですね。そちらの二冊は僕もまだ未読なので、なんともいえないのですが、「アランの戦争」はちょっと気になっています。

イアン・バンクスに関しては、今年は無理なんじゃないかな…という気がします。
【2011/09/25 19:17】 URL | kazuou #- [ 編集]

B級的面白さ!
2冊とも購入して、届いたその日に早速読んだのですが、
絵柄も内容も、タンの奥行きや繊細さを期待すると肩透かしを受けますが(笑)
こういうものだと頭を切り替えると結構楽しめますね。
特に気に入ったのは cinema panopticum の冒頭の話。
日本人なら「注文の多い料理店」を連想するところ、こう来たか!という(笑)
他の話は、どれもどこかで見たような気のするパターンですが、冒頭からの勢いで
そのまま楽しめた気がします。
ただ、この作者の場合、ラストは暗示に止めずに、えげつなくても
具体的な結末を提示した方が、より「らしかった」のでは、と個人的には感じました。

R.I.P.は・・・ 何というか良くも悪くも直截的な話が本当に多くて、
しかもあまり、しばしば全く、ひねりがなかったりするので、
あ、そう、これで終わっちゃうの・・と口をあんぐり開けていたことがしばしば。
殺害場面集みたいなものとか、金目当て殺人のエンドレスの連鎖とか・・・
あと、分かりやす過ぎる落ちのものが多い一方で
( Alice in wonderland とか ジョークをそのまま絵にしたみたいな・・)、
The JOB のように話の面白がり所がどこなのか分からなかったものも。

そんな中では、異世界を垣間見る思いがして好きだったのが、
アリスにヒントを得たと思しき Washing Day や La Fiancee du Lapin。
あと、1984的 世界と天使との絡みが結構意外な G.O.D でした。
メキシコをめぐるイメージの断章なんかも結構好きでした。

あと絵柄。版画による1つ1つの線がはっきり分かる荒いタッチの絵は、
はじめ見たときは荒いなぁという印象でしたが、改めて見返すと
そこがストーリーのダークで荒っぽい感じとよくマッチしているなぁとも。
版画を選んだのは、全体のトーンを暗くできるからなんでしょうね。
【2011/11/23 07:47】 URL | Green #- [ 編集]


書いてから、kazuou さんの紹介文をよくよく見てみると、いろいろ情報が入っていましたね・・・
版画ではなく、スクラッチボードでしたか・・・・ 紹介文かあとがきを見れば情報があるのかな?

The JOB は、義眼が殺しの報酬というのを見て納得。ぜんぜんそんな連想が働かず、殺しをした男が目をつけるだけの話かと(笑)・・・
読解力がなかったなぁ・・・。
Breakdownは、私は男が何回も死ぬ夢を見る話だと思って読みました・・・(何か失敗したというより実際死んでしまっているように見えるので)
何故そんな夢を見るのかというと・・・・死期が迫っていたからだという・・・
死のうとして死ねなかった男が、別要因で死んでしまう皮肉な話ともとれる訳ですね・・・

文字なしでストーリーを分かってもらう難しさも感じます。
あまり感心してないような書き方をしてしまって、実際そんな面もあったのですが、そう考えると、CLEAN UP! のような話を文字なしで展開して、読者にちゃんと筋が伝わるというのは結構凄いことなのだなとも。
【2011/11/23 08:12】 URL | Green #- [ 編集]


更に訂正、「Breakdown」 じゃなくて 「Good bye」 ですね・・・
【2011/11/23 08:15】 URL | Green #- [ 編集]

直接的な話が…
セリフなしで物語をわかりやすく語るために、直接的なシーンやストーリーを採用している面もあるのかな、という気はします。
僕はホラー映画が好きでよく見るんですけど、ヨーロッパ製の映画作品って、かなり描写が直接的なものが多いんですよね。そういった印象があったせいなんでしょうが、オットの作品もそういう流れの一環として考えると、納得できる点があるのかなと。
そういった直接的な話が多いなかで、たまに混じっている『The JOB』みたいな作品のインパクトは強いですよね。
【2011/11/23 18:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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