絶望の底  森下 一仁 『「希望」という名の船にのって』
4902257203「希望」という名の船にのって
森下 一仁 きたむら さとし
ゴブリン書房 2010-07

by G-Tools

 SFのテーマのひとつに「世代間宇宙船」という魅力的なテーマがあります。長期間の宇宙飛行のため、乗務員が何世代もわたって宇宙船内で旅を続ける、といったシチュエーションを扱う物語です。
 森下 一仁のジュヴナイル長編 『「希望」という名の船にのって』(ゴブリン書房)も、このテーマを扱った作品ですが、その設定にひねりを加えているのが特徴です。
 その宇宙船「希望」は、「新しい地球」を目指して宇宙を飛んでいました。何世代にもわたって宇宙を旅するために、食料は内部の農場でまかなう構造になっていました。狭い船内には、何組かの家族が暮らしていましたが、船が出発してから生まれたために、地球のことを知らない子供たちも、すでに多くなっていました。
 少年ヒロシもその一人でしたが、日頃抱いていた疑問を確かめるため、船の科学者である水沢博士のもとを訪れます。その疑問とは、旅の目的地、そしてそこへの到着はいつになるのか、というものでした。
 博士から、自らそれを確かめるようにと促されたヒロシは、子供たちには立ち入りが禁止されている船のブリッジに向かいます…。
 これ以上あらすじを書くと、ネタを割ってしまうので書きませんが、物語序盤で、初期の設定が引っくり返されるのに驚かされます。もっともネタが分かってしまったとしても、この作品の魅力は削がれないとは思いますが。
 序盤では、子供たちには隠されている宇宙船の秘密、そして目的地の秘密などの謎を主人公たちが探っていくのかな、と思いきや、意外にあっさりとその謎は解かれます。というのも、船にいる乗務員とその家族たちは、みな仲間であり、基本的には「悪役」は出てこないのです。つまり、主人公の行動の邪魔をするような人物は出てきません。
 じゃあ何が物語を動かすかというと、船、ひいては自分たちの命をおびやかす事態の発生です。これを防ぐために、乗組員たちは力を合わせて立ち向かうのです。大人向け作品であれば、ここで仲間割れとかさせるのでしょうが、ジュヴナイルゆえでしょうか、陰湿な展開にはなりません。
 そういう面がないだけに、大人が読むと物足りない面を感じてしまうのですが、それを補う別の魅力があります。筆頭にあげるべきは、船内での食料生産のディテールをはじめとする、船の内部生活の描写でしょう。実験動物として持ち込んだネズミが、ペットとして人気を得るようになる、というあたりも微笑ましいです。
 船内生活のリアリティと言う面では、例えば、ジェイムズ・ホワイトの 『生存の図式』、アレクサンドル・ベリャーエフの 『無への跳躍』などと比べてしまうと、さすがに物足りないですが、ジュヴナイルとしては、これで充分でしょう。
 かなり絶望的なシチュエーションでありながらも、タイトル通り、全体に明るく希望に満ちたトーンで描かれており、結末も気持ちのいいものになっています。大人の鑑賞にも耐える秀作だといえます。 
この記事に対するコメント
ほう…
面白そうです。何となく『漂流教室』を連想 (といっても陰湿な展開はないのでかなり違うのか…)。
昔、『ロビンソン・クルーソー』を読んだ時から、閉じた環境で生き延びる話には、変わらぬ魅力を感じます。あと、このテーマのひねりを1つ思いついたことがあったのですが、同じアイディアなのかちょっと個人的興味も…(笑)
【2010/09/21 02:04】 URL | Green #- [ 編集]

>Greenさん
僕もこういう極限状況ものは大好きです。ただジュヴナイルということもあって、それほどハードな話ではないんですよね。「良識的」な大人がたくさんいて、基本的には大人が事態を解決してしまうので、子どもたちが未来を切り開く、というのともちょっと違うし。
その点、『漂流教室』と比べてしまうのも酷な気がします。
【2010/09/21 12:27】 URL | kazuou #- [ 編集]


面白そうですね。以前『生存の図式』もこちらの記事で知り、大変楽しんだ記憶がありますので、これも買ってみようかと思います。感謝!
【2010/09/24 01:22】 URL | sugata #8Y4d93Uo [ 編集]

>sugataさん
僕も『生存の図式』に似た感じの作品だな、というのが読むきっかけでした。途中までかなり似たシチュエーションなんですよね。ただ、これはこれで面白いですよ。
【2010/09/24 21:15】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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