最近読んだ本

4480426337ノーサンガー・アビー (ちくま文庫)
ジェイン オースティン Jane Austen
筑摩書房 2009-09-09

by G-Tools

ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』(中野康司訳 ちくま文庫)
 19世紀初頭に活躍した、イギリスの女性作家オースティンの初期作品です。ゴシック・ロマンスのパロディーとして有名で、僕もそうした面を期待して読んだのですが、いい意味で予想を裏切られました。
 ストーリーは、主人公のキャサリンが、リゾート地で男性に出会い恋をする、といった至極単純なもの。なのですが、この主人公がロマンティックな気質で、ことあるごとに妄想をしてしまう…という設定が、話を面白いものにしています。「勘違い」や「思い込み」を多用して、登場人物たちの感情のすれちがいを描くときの作者の筆は一級品。今読んでも面白い、ラブコメディーの古典です。



長く大いなる
ウィルスン・タッカー『長く大いなる沈黙』(矢野徹訳 ハヤカワSFシリーズ)
 最終戦争後の世界を描く、いわゆる「破滅SF」に属する作品です。細菌兵器の影響により、人々が大量に殺されてしまった世界が舞台。ミシシッピー川をさかいに、人々は感染して死んでしまいますが、生き残った人々は川を封鎖し、とりあえず感染を封じ込めることに成功します。主人公の兵士は泥酔していたため、川向こうから取り残されてしまいますが、免疫があったためか、感染せずに生き延びます。川向こうに渡るために、主人公はいろいろな手を使いますが…。
 主人公が、人を殺したり、利用したりするのに躊躇を覚えないという設定になっているのがユニークです。積極的に悪事を働くわけではないにしても、自分のためなら基本的には何でもするという性格なので、読んでいて感情移入はしにくいですね。この作品を読んでみると、他の「破滅SF」がいかに「ロマンティック」なものだったか、というのに気づかされます。



4594030467四年後の夏 (扶桑社ミステリー)
パトリシア カーロン Patricia Carlon
扶桑社 2000-12

by G-Tools

パトリシア・カーロン『四年後の夏』(田中一江訳 扶桑社ミステリー)
 兄を殺された女性が、私立探偵のもとを訪れます。容疑者は、四年前にヒッチハイクをしていた二人の少女。二人の供述は食い違い、決め手を欠いていたために、犯人は捕まっていませんでした。二人のどちらかが嘘をついているはずだ。四年後、片方の少女の兄と恋仲になった女性は、真実を確かめるために、捜査を依頼します…。
 交互に、それぞれの容疑者の過去の回想が一人称で語られます。同じ事件や出来事に対して、まったく相反する供述が出てくるのはいったいなぜなのか? 真実を話しているのはいったいどちらなのか?
 読者を引き込む導入部、魅力的な謎、興味深い登場人物と、ひじょうに良質なサスペンス小説です。



コスモス
コスモス・ホテル (1980年) (ハヤカワ文庫―JA)
森下 一仁
早川書房 1980-10

by G-Tools

森下一仁『コスモス・ホテル』(ハヤカワ文庫JA)
 叙情性の強いSF短編集です。SFとしては、オーソドックスなテーマが多くて、その意味で斬新さはないんですが、何とも言えない叙情性があって、やみつきになるような味があります。表題作『コスモス・ホテル』は、カナヘビと心が入れ替わってしまった少年の意識を描く作品。人間ではなくなってしまった主人公が悲壮感を抱くのではなく、妙に落ち着いてしまうところに面白味がありますね。
 置き去りにされた星に住む生物が、主人公の心を読み、かっての恋人の姿になるという、レムの『ソラリス』を思わせる『若草の星』、十数年に一度帰ってくる夫を迎えるために、冷凍睡眠する妻を描く『風の浜辺』などが味わい深いです。

 
4334748384災園 (光文社文庫)
三津田 信三
光文社 2010-09-09

by G-Tools

三津田信三『災園』(光文社文庫)
 ホラー小説、《家》シリーズの三作目です。狐憑きの家系に生まれた少女が、養父母を失ったため、生家に帰ります。実の父親が経営する学園は、訳ありの子供たちを、高い金で預かっていました。少女が戻ってきた日から、怪異が起こりはじめますが…。
 このシリーズ、すべて幼い少年少女を主人公にしていることもあって、ジュヴナイル的な味が強いんですが、演出が上手いので読ませられてしまいますね。謎解きの要素もあるので、ミステリファンでも楽しめます。


 
4791761944脳の彼方へ―神経心理学の旅
ポール ブロックス Paul Broks
青土社 2005-06

by G-Tools

ポール・ブロックス『脳の彼方へ―神経心理学の旅』(小野木明恵訳 青土社)
 脳の障害が原因で現われる不思議な症例や、そうした人々の周辺を描いたエッセイです。本国ではオリヴァー・サックスと比べられているようです。実際テイストとしては、近いものがあるのですが、違う点は、ブロックスの方が「文芸寄り」だということでしょうか。
 事実に関するエッセイだけではなくて、著者の手になるフィクションや小説がたびたび挿入されていて、エッセイとも小説ともつかない、奇妙な味わいの作品になっているのが特徴です。どの章も面白いのですが、障害を負った以後の記憶がまったくできなくなった女性を描いた『鏡』、火星へのテレポーテーションの転送ミスで、自分が二人になってしまった男のアイデンティティーについて語った『二人で生きるか、一人が死ぬか』が興味深いです。とくに『二人で生きるか、一人が死ぬか』は、まるでグレッグ・イーガンの短編かと思うような作品で、SF小説としても力作でしょう。
この記事に対するコメント

「ノーサンガーアベイ」→今更ながら懐かしいです。
これもゾンビものが出るのかしら(汗)と思います。

これを読むと、古典的ゴシックロマンスを読んでおくべきかと思います。
【2010/09/13 22:26】 URL | fontanka #JalddpaA [ 編集]

>fontankaさん
僕は幻想文学が好きなので、ゴシックロマンスのパロディ的な興味から読みましたが、そうした関心がなくても、充分に面白い作品でした。ただ先行するゴシックロマンス作品の傾向を知っていると、面白味は増すと思います。
【2010/09/18 20:56】 URL | kazuou #- [ 編集]

幸運
こんばんは。
”長く大いなる沈黙”の、久保書店版(改題されています)を新品で入手しました。オンライン書店で注文したのですが、まさか届くとは思いませんでした。驚いたことに初版です。三十年以上も倉庫で眠っていたのでしょうか。
【2010/09/29 20:23】 URL | サカキ #nLnvUwLc [ 編集]

>サカキさん
久保書店は在庫を長く持つので有名だそうですが、三十年以上というのはすごいですね。久保書店QTブックスには、気になるタイトルがいくつかあるので、僕もちょっと注文してみようかな。
【2010/10/02 11:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/432-49fc2d80
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する