追いつめられて  パトリック・クェンティン『網にかかった男』
網にかかった
網にかかった男 (1966年) (創元推理文庫)
パトリック・クェンティン 井上 勇
東京創元新社 1966

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 パトリック・クェンティンは、アメリカのミステリ作家。コンビ作家のペンネームですが、時期によって、執筆している作家が違うため、作風にもかなりの幅広さがあります。本作『網にかかった男』(井上勇訳 創元推理文庫)は、サスペンス色の強い作品になっています。
 定職を捨てて画業に打ち込むため、都会を離れて製作にいそしむジョン・ハミルトン。しかし妻リンダは、不満を持っていました。富と名誉を求めてジョンと結婚したものの、なかなか芽が出ないジョンに対して、いらだちを募らせていたのです。
 リンダがアルコール中毒になりかかっている事実を、ジョンは必死で隠しますが、ある日とうとうリンダは周りの人間たちに醜態をさらしてしまいます。折しも、割の良い仕事の口をジョンが断ると決断したことから、夫婦の仲はこじれかかっていました。知り合いたちの面前で、リンダは、ジョンから虐待を受けていることを仄めかします。
 その直後、リンダは家から失踪します。もともと周りの人間たちから良く思われていなかったことに加え、不死然な状況証拠から、ジョンはリンダ殺害の容疑をかけられてしまいます。普段からかわいがっていた、5人の子供たちの助けを借り、姿を隠したジョンは、子供たちをうまく使って、殺人の容疑をはらそうとしますが…。
 クェンティン作品には、よく悪女が登場しますが、本作に登場するリンダは、その中でも群を抜いた悪女でしょう。利己心に満ち、良心の呵責もなく嘘をつきます。病的なまでの虚栄心から、周りの人間たちには、夫から虐げられる健気な妻を演じます。しかも富を持つ男たちへの流し目も忘れません。
 寡黙なジョンは、妻のアル中の事実や病的な虚言癖を、周りの人間たちから隠そうとしますが、それがあだになってしまうのです。不死然な状況証拠に加え、街の人間たちからも不信感を持たれ、追いつめられていきます。
 そんな中、頼れるのは、以前からかわいがっていた5人の子供たち。しかし子供たちも、無条件で信用するわけにはいきません。子供たちの中には、警察官の息子もいるのです。そして、姉とジョンの寵愛をめぐって、だだをこねる幼い女の子エンジェル。彼女が不機嫌になれば、すぐ大人に通報されてしまう恐れがあるのです。
 隠れ場所に潜むジョンは、自分で捜査をすることはできません。子供たちに指示を与えて徐々に犯罪の証拠を探していくわけですが、移り気な子供たちを上手く動かすことができるのか。このあたりのサスペンスは素晴らしいです。
 前半は悪妻とのやり取り、中盤は周りの人間たちとのやり取り、そして後半は子供たちとのやり取り、と常時主人公を追い詰める状況が設定され、サスペンスが途切れることがありません。サスペンス小説の佳作といえるかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

クェンティン・・・作家(というべきか)その時々で作風さ微妙に違いつつも、悪女の存在というところでは一貫しているような。
うまい(だろうけど)苦手かな・・・なタイプですが、そこまで読んでないんですよね。
図書館で探したら、もっとあると思っていましたが、意外に古いのが無いんです。
じゃあ、心底読みたいのか?と言われると・・・ですが。
kazuouさんのご紹介で、探してみようかという気になりました。
今、ポケミスの古いのをチェックしているんです。
(ガーヴも結構、「悪女?」多いなと思いました)
【2010/08/15 19:12】 URL | fontanka #JalddpaA [ 編集]

>fontankaさん
クェンティンのシリーズものはともかく、ノンシリーズのサスペンスものは良く出来たものが多くて好きです。
ガーヴも「悪女」が多いですが、クェンティンほど人物像の掘下げがないので、エンタテインメントとしての後味はいいですよね。クェンティンの「悪女」は、ねちっこく描かれるので、後味の悪さがけっこうありますよ。
【2010/08/16 20:23】 URL | kazuou #- [ 編集]


図書館にあったので読もうとしたのですが、(バカなことに)「私の愛した悪女」もついでに借りて、先に読んだために、食傷気味。
しかも、後味は「網にかかった男」の方が悪い。
結局、挫折リストに入ると思います。

しかし、こんなに悪女書いてて飽きなかったのか?→あ、二人(というべきか)だったな。と思ってしまいました。
【2010/08/26 22:40】 URL | fontanka #JalddpaA [ 編集]

後味は…
『網にかかった男』も『私の愛した悪女』も、あんまり後味はよくないですよね。ただ、悪女の存在が物語の推進力を高めているのも確かだと思います。好きにはなれないけれど、面白い、という場合もありますし。
【2010/08/28 19:32】 URL | kazuou #- [ 編集]


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