人狼と戦争  ガイ・エンドア『パリの狼男』
パリの狼男
パリの狼男 (Hayakawa pocket mystery books (912))
ガイ・エンドア 伊東 守男
早川書房 1965-11

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 面白い伝記もので定評のある、アメリカの作家ガイ・エンドア。『パリの狼男』(伊東守男訳 ハヤカワ・ミステリ)は、エンドアの書いた珍しい小説作品です。タイトル通り、「狼男」もしくは「吸血鬼」を扱った古典的な怪奇小説なのですが、ノンフィクションを得意とした作家らしく、物語の舞台となる、パリの時代背景や歴史が丹念に描きこまれているのが特徴といえるでしょう。
 文筆で一家を成したいと考えている青年エマール・ガリエは、伯母であるディディエ夫人と同居していました。ディディエ夫人のもとへ、田舎からお手伝いとしてやってきた若い娘ジョゼフィーヌは、ある日使いに出された教会で、神父に襲われてしまいます。
 妊娠の結果、生まれてきた子供は、どこか普通とは違った男の子でした。エマールは、子供を引き取って育てることにします。時折、獣じみた行動を見せる子供はベルトランと名付けられました。長ずるにしたがって、家畜を襲うなど、血への執着を見せるベルトラン。その性癖に気づいたエマールは、彼を部屋に監禁します。
 パリの学校に行かせてくれるという約束が保古になりそうだと気づいたベルトランは、彼を溺愛する母親を利用して、部屋を脱走しパリに向かいます。しかもその途上で、幼い頃からの親友を殺してしまうのです。
 ベルトランの脱走に気づいたエマールは、危険人物となった彼を殺すため、ベルトランの後を追ってパリに向かいます。エマールの恐れていた通り、パリでは猟奇的な殺人や死体盗掘事件が相次いでいました。エマールの捜索が続くなか、やがて戦争が始まり、パリ全体が混乱に巻き込まれつつありました…。
 狼男とはいいながら、ベルトランが超自然的な存在であるのかどうかは、最後まではっきりしません。むしろ遺伝的な病気なのではないかというニュアンスで話は進みます。実際、血への衝動はベルトラン本人の意思とは関わりなく起こってしまうのです。このあたり、ノンフィクションタッチで描かれる筆致は重厚で、読みごたえがあります。
 パリに上ってからのベルトランの行動で、無実の人間が自殺したり殺されたりと、災厄は広がっていきます。そんな中、激化した戦争や内戦で、多くの人間が殺されていきます。それを見たエマールは、ベルトランだけが怪物ではないのではないかという思いを抱きはじめるのです。
 衝動に操られるベルトラン。戦争の犠牲になる民衆たち。虐待される精神病患者たち。人間はしょせん運命に翻弄されるのだ…。単なる怪物退治の物語ではなく、社会的なテーマをも強く盛り込んだ意欲作。怪奇小説的な要素もさりながら、歴史小説としても素晴らしい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

これ名前は聞いたことがあって読んでみたいなとは思ったんですが、図書館になく&どうやら普通のミステリではないということもあいまって、探す努力もせずに至っています。

kazuouさんのご紹介を読むと、すごいけど・・・タイプじゃないかも。(特に仕事で疲れた時は・・・)などと思いました。
ちなみに図書館で「探して貰う」というのは、結構時間がかかるので、場合により数ヶ月もかかるので、夏休みを考慮して、今の時期は頼まないようにしてますです。

しかし、ディープですね。
【2010/07/29 20:03】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
これはポケミスに入れるには、かなり毛色の違う作品ですね。
裏面の内容紹介は、オカルト怪奇小説みたいな感じなのですが、実際の感触は、本格的な歴史小説でした。
もともとノンフィクション作家だからなんでしょうか、描写が細かくて具体的なんですよ。すごくイメージが湧きやすいというか、映像的なんですよね。いまの作家で言うとスティーヴン・キングに似た感じでしょうか。
すごく面白かったのですが、疲れているときなんかに読むのには不向きかも。

【2010/07/31 08:45】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
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