最近読んだ本(まとめて)
 前回に続いて、最近読んだ本を紹介したいと思います。


4167531070月への梯子 (文春文庫)
文藝春秋 2008-12-04

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樋口有介『月への梯子』(文春文庫)
 子供のころの病気が原因で、知能が小学生低学年程度で止まってしまった中年男性「ボクさん」。親から受け継いだアパートの管理人をすることで生計を立てる彼は、ある日アパートの住人が殺されているのを発見し、その衝撃で頭を打って昏睡状態に陥ってしまいます。
 目をさました彼が知ったのは、アパートの住人全員が失踪していること。そして自分の知能が普通の成人男性なみに回復していることでした。その事実を隠したまま、彼は殺人事件の捜査をはじめますが…。
 憧れの女性はくたびれた中年女性、親身になってくれる不動産屋は悪徳業者、そして友人だと思っていた人々は前科のある犯罪者だった…。知能を回復した主人公が、自分の生活と周りの人間たちを新たな目で眺め直す、という趣向の作品です。
 題材からして、ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』を思い浮かべますが、そこに殺人事件の謎解きをからめているのが面白いところですね。結末のオチには賛否両論あるでしょうし、ジャンル小説としては中途半端な印象が否めませんが、「ヒューマン・ストーリー」としては良質の作品だと思います。



4047264164乱歩パノラマ 丸尾末広画集 (ビームコミックス)
エンターブレイン 2010-04-05

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丸尾末広『乱歩パノラマ 丸尾末広画集』(エンターブレイン)
 『パノラマ島綺譚』『芋虫』など、このところ江戸川乱歩の漫画化に取り組んでいる丸尾末広による、乱歩をテーマとした画集です。具体的な作品をテーマにするというよりは、「乱歩的イメージ」を持ったアート作品を集めたという感じの画集になっています。
 もともと画風が「乱歩的」なので、どの絵を並べてもいいような気はしますが、黒を主体としたカラー作品は素晴らしいですね。『踊る一寸法師』の漫画も収録されています。画集としては、お値段がリーズナブルなのも好評価です。



4199501711世界の合言葉は水―安堂維子里作品集 (リュウコミックス)
徳間書店 2010-03-15

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 安堂維子里『世界の合言葉は水―安堂維子里作品集』(リュウコミックス 徳間書店)
 安堂維子里(あんどういこり)による漫画短編集です。非常にファンタスティックな味わいの作品集になっています。明確なストーリーやプロットがある作品は少なく、とても感覚的、フィーリング的な部分が強いのですが、これは好きな人は好きになりそうです。
 空を飛ぶクジラが存在する世界での「塩害」を描いた、ロバート・F・ヤングを思わせる『エンガイ』。受験に失敗した主人公が、海の中に家をかまえる奇妙な女の子と友人になるファンタスティックな『海のお天気』
 『Fusion』は、 近未来、人口減少している世界での「結婚」を描いた物語。若い女性の結婚までの「決意」を描いた作品かと思いきや、結末でSF的な解釈が示されます。読み終えて、タイトルの「Fusion」の意味がわかるという仕組みになっています。
 いちばん驚いたのが『ぎゅう』。これ、あらすじを説明しようがないのですが、ものすごい傑作だと思います。シオドア・スタージョンとかR・A・ラファティ的な味と言えばわかるでしょうか、すごくお馬鹿な発想なんだけれど、それを叙情性すら加味した作品に仕上げてしまっているところに、才気を感じます。
 これは大いにオススメしたい短編集ですね。



4776403706ラストリゾート
ロベルト インノチェンティ
BL出版 2009-09

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 J・パトリック・ルイス、ロベルト・インノチェンティ『ラストリゾート』(BL出版)
 これは絵本。スランプに陥った画家がたどり着いたのは、海辺にたつホテル「ラストリゾート」。そこは様々な物語の登場人物たちが集まるホテルだったのです…。
 ハックルベリー・フィン、人魚姫、エイハブ船長など、有名な物語の登場人物たちが出てきます。キャラクターたちの説明や紹介がされるわけではないので、主人公が出会う登場人物たちが誰なのかを推理する楽しみもあります。珍しいところでは、イタロ・カルヴィーノの『木のぼり男爵』の主人公なんてのも登場しています。
 そして一番の魅力は、細密に描かれたホテル自体でしょう。内装も小物まで細かく描かれています。眺めていて飽きません。下に一枚サンプルを載せておきましょう。
 〈一冊たちブログ〉のタナカさんから教えていただいた一冊です。
ラストリゾート
この記事に対するコメント
あまり書くこともないのですが…
「ラストリゾート」は、以前「The arrival」を検索した時に見かけてちょっとだけ気になったのですが、ちょっと小奇麗で明瞭過ぎるように感じて、中身もそんな感じかなぁ…と勝手に思ってそれっきりでしたが。
ただ、表紙から見る限り、結構雰囲気もあって緻密な絵ですね… ちょっとしたオマージュ本というかパズル本的な楽しみがある作品なんですね。

コミック作品は、ストーリーや作品世界に加えて、画風やコマの展開といった要素も出てくるので、紹介文などだけで自分にフィットしているか予測しづらいところがありますよね…
コミック自体あまり読んでいないこともあって、この辺の作家さんに近いです、と仮に紹介してもらっても分からない気がします。
(自分はこの辺の作家は好きというのがあっても、バラバラですし… でも、画風としては許容範囲という程度だが、物語展開がうまいので傑作と感じる作品もありますしね)

安堂維子里さん、表紙から受けた印象はいまひとつ、だったのですが、画風としてはどんな作家さんなんでしょう?物語はSFチックなショートストーリーが多そうなんですね。
(まぁ、SFチックでない漫画(あとは恋愛、社会と時代物?)の方が少ないのかもしれませんが…)

丸尾末広氏は名前と、一応画風も知っている、のですが、作品として読んだことはないんですよね。まぁ見たことあるくらいでいいかなぁと思ってしまっているところもあって…
作品としてはやはり、ガロ系のどこか展開や動きに違和感(+グロテスク感)のある系統なんでしょうかね。
シュヴァンクマイエルとか好きだったりする人間ですが、ガロ系グロテスクが好みかといえば…そんな好きというわけでも…という感じなので、作品に手を出すかどうかは微妙なところもあります。

前回の記事についても一つだけ。
レムの「泰平ヨン」、購入候補に浮かんでは結局入れていない本の一つなのですが…
レムがスラップスティックというのが、これまで読んだ長編のイメージから連想しづらく、「完全な真空」みたいな理屈で攻める面白さなのか、シェクリイなどのようなよくある系統の面白さなのか…
「回想記」のホラー寄りという方が想像がつきやすい気もしますが、「泰平ヨン」という名前がコメディな印象なので…
迷ってないで読んでみろ、という話もありますが、他にも読みたいものがいろいろあると、なかなか当落線上のものは読まないですね…
なにか、この作品の面白さについてご紹介頂ければお願いします。
【2010/04/11 03:01】 URL | Green #- [ 編集]

>Greenさん
『ラストリゾート』はとてもよかったですよ。フィクションのキャラが登場することについて、作中で解釈は示されないのですが、これ考えようによっては主人公の画家の「内的世界」を描いたもの、という解釈もとれなくはないようです。純粋に画風が気に入ったこともあって、個人的にはお気に入りの一冊になりました。

安堂維子里は、僕もこの作品集が初だったのですが、とても気に入りました。画風は、あまりデフォルメを強調しない丁寧なものなので、絵で拒絶反応が起きるということはないと思います。実際の絵柄は表紙よりもずっと綺麗ですよ。

丸尾末広は、すごく独特の絵柄なので、好き嫌いは分かれると思います。イラスト作品の方はともかく、漫画作品の方はグロテスクでアングラなものが多いのですし。僕も読んでいてきついものがありますから。

『ソラリス』とかのイメージがあると、レムのコメディものって、全然想像できませんよね。でも、本当に底抜けに楽しいですよ。「理屈で攻める面白さ」と「シェクリイ風の面白さ」、どちらの要素もありますね。ドタバタの面白さもあるんだけれど、毎回必ず「問題意識」がテーマとして存在していて、それがストーリーにからんでくるんですよ。笑ってかつ考えさせられる、という感じでしょうか。
個人的には、レムはシリアスなものよりも、コメディものの方がずっと好きですね。
【2010/04/11 18:44】 URL | kazuou #- [ 編集]

安堂維子里
『世界の合言葉は水―安堂維子里作品集』、これ、なんか良さそうですね、とてもそそられました。
「ぎゅう」を早く読んでみたいです。
本屋さんに走ろうと思います。
【2010/04/12 21:01】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

とても良かったです
『世界の合言葉は水』、タイトル通り「水」がテーマになっている作品集だと思うんですけど、すごく透明感のある作風で、後味がすごく良いです。
「ぎゅう」はこんなものでも漫画になってしまうんだ、といい意味でびっくりさせられました。こういう作品を読むと、漫画の可能性はまだまだあるんだな、と思わせられますね。
【2010/04/12 21:56】 URL | kazuou #- [ 編集]

読みました。
「世界の合言葉は水」・・読後感は爽やかでしたが、せつなさ、はかなさも感じました。
以前こちらで知った「第七女子界彷徨」の2巻はまだ読んでませんが楽しみです。
【2010/04/18 23:51】 URL | マルケス #- [ 編集]

>マルケスさん
マルケスさん、こんにちは。
『世界の合言葉は水』、何ともいいがたい読後感ですよね。これから追いかけていきたい作家になりそうです。
『第七女子界彷徨』お読みになりましたか。2巻も1巻に劣らず面白かったですよ。作者が手慣れてきたせいもあって、シチュエーションコメディ的な面が強くなっていたように思います。
【2010/04/19 22:54】 URL | kazuou #- [ 編集]

ごぶさたしていてすいません!
「ラストリゾート」、読んでいただきありがとうございます。
あの細かく描かれた絵が、みていて楽しいんですよね。
個人的に、フィクションの登場人物がでくる話に弱いので、その点でもぐっときました。
この作者たちの絵本は、最近、「百年の家」(講談社 2010.3)が翻訳されました。
一般的にはたぶん、「百年の家」のほうが評価が高いと思うのですが、個人的には「ラストリゾート」に軍配をあげたいところです。
【2010/04/26 21:56】 URL | タナカ #- [ 編集]

>タナカさん
『ラストリゾート』とてもいい作品でした。ご紹介ありがとうございます。
『百年の家』も面白そうですね。このイラストレーターはすごく好みに合うので『百年の家』も近々、読んでみたいと思ってます。
【2010/04/26 23:03】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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