幻想の国から  Shaun Tan『The Arrival』
0439895294The Arrival
Arthur a Levine 2007-10

by G-Tools

 海外の絵本では、時々度肝を抜かれるような作品に出会うことがありますが、この作品は、中でもずば抜けて素晴らしい一冊です。オーストラリアのイラストレーター・作家の Shaun Tan『The Arrival』(Arthur a Levine)は、細密な単色画で構成された、幻想的な絵本です。作家名は「ショーン・タン」と読むのでしょうか。
 この作品の特徴は、セリフや文章がいっさい無いこと。コマ割りで構成された画面は、日本の漫画作品のレイアウトに近いため「セリフのないマンガ」といった感覚で読むことができます。
 物語の方はわりとシンプルです。新しい仕事を求め、妻子を残して未知の国に渡った男が、そこでの仕事を見つけて、家族を呼び寄せる…というような話です。あらすじだけを聞いても普通の話なのですが、問題は作品中に現われる「未知の国」の描写です。これが、とんでもなく幻想的に描かれているのです。
 まず建物や街の外観のユニークさ。まるでお伽の国のような造形です。ごてごてした印象がありながらも、絵が単色で描かれているので、どぎつさが抑えられて、何ともいえない雰囲気をかもし出しています。ところどころに動物をモチーフにしたモニュメントがあるのもユーモラスですね。
 そしてこの国のいちばんの特徴は、住民のひとりひとりに「動物」がついていること。文章がないので詳しい説明はわからないのですが、この国では、その人間の「分身」的な動物が生まれるようなのです。それも実在の動物ではなく、ユニークな形態をした架空の動物たちです。
 もちろん主人公もこの国にたどり着いてすぐ、妙な生き物につきまとわれます。表紙の画像にも現れている、尻尾の長い丸っこい生き物です。主人公が出会う、同じ移民や店主など、いろいろな登場人物についている「動物」を眺めるだけでも楽しいです。
 「セリフがない」という要素も、言葉も文化もわからない国にやってきた男が、右往左往するといった物語のモチーフとして、上手くマッチしています。主人公が広げる地図や文字が、とんちんかんな図形で表現されているのもユーモラス。
 ただ「幻想的」なだけではありません。「虐殺」から逃れてきたらしい住人のエピソードが描かれたりと、意外にシリアスな面も描かれます。そして「移民」という物語全体のテーマ。重くなりがちなテーマを、ここまで軽妙に、ユーモラスに、幻想的に描けるとは! 作者の想像力は並ではありません。
 ユーモアと幻想性が混然となった、超傑作絵本です。
タン1 タン2 タン4 タン5

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

なんと面白そうな!
絵は意外に好きだったりするので、読みたいです。
が、しかし! もう入手は困難なのでしょうね。
読みたい本から消えていくものです。
【2010/01/31 00:09】 URL | save #eqP7eH0Y [ 編集]


ご紹介に惹かれて、どんな本だろうと Amazonで検索してみたら、なんと128ページもあるんですね!
この緻密な絵で!驚きです。それだけの長さなら、より深く物語世界に入り込めそうですしね。購入検討中。
タンさんというと中国系の方なのですかね? 登場人物の顔もモンゴロイド系の感じがしましたが…
この作家さん、カラーの本も描いていて、「レッドツリー」というのは邦訳もあるんですね…
(ちなみに、検索過程で類書のような感じで、オールズバーグというこちらは翻訳も多いらしい作家が出てきて、この作家の方にもちょっと興味を持ちましたが、ご存知の作家ですか?)

あと、大型本過ぎないのもちょっと嬉しいです。
絵本・画集の類、買ったはいいが置き場所に困ることもあるので…
【2010/01/31 03:48】 URL | Green #- [ 編集]

>saveさん
これ、まだAmazonで在庫があるので入手可能なようですよ。
すばらしい作品なので是非。
【2010/01/31 07:34】 URL | kazuou #- [ 編集]

>Greenさん
そうなんですよ。128ページもこの緻密な絵が続きます。一枚の絵だけでも、すごく密度が濃いんですが、最後まで通して読んだときの印象は強烈です。Amazonのレビューにも「サイレント映画のような」という評がありますが、本当に一編の映画を見たかのような満足感が得られます。
タンは、中国系の移民だそうですね。そういう出自も、作品に反映しているのかもしれません。
オールズバーグは、日本でも結構有名な人ですね。映画化された『ジュマンジ』とか『ポーラー・エクスプレス』の原作者の絵本作家です。この作家も、緻密な絵と奇想に富んだストーリーでファンが多いようです。
【2010/01/31 07:43】 URL | kazuou #- [ 編集]

ランドスケープ
「The Arrival」、早速入手、読了しました。
初めチラッと見たときは、漫画みたいなものとしては単調そうなコマ割りだなぁなどと思ったりもしたのですが、読み始めたら全然気にならなかった。
筋書きを追わせるというよりは、1つ1つの光景をじっくり見せるもののようで、そこがよく見る漫画の類と違っている点のようにも感じました。

入管での主人公の奮闘(?)や、さまざまな仕事での失敗も微笑ましくていいのですが、
何より異国の地に来た驚き・戸惑い・感動が、読者にも同時に感じ取れるようになっているのが素晴らしかったです。
周囲の光景はもとより、生活に使う道具(風習)、食べ物、遊び、動植物とその移ろい・・
皆、ふしぎなビジュアルで示されていて、接している主人公の驚きに素直に共感できました。
こういう辺りは、やはり絵・ビジュアルもののほうが得意ですよね・・・
知り合った他の移民たちの出自(なぜ移民になったのか?)も、少ないコマ数で生々しく体感できる辺りも驚きでした。

ちょっと意外だったのはペット君。
ひとりでに現れる分身みたいなものかと思ったら、単純にペットだったんですね。しかも、野良ネコをペットにするような経緯でペットになっている。
(あとからやってきた家族には「分身」がつかなかったので、あぁ、ペットなのだと・・・)
作者はペット好きの方なのでしょうか。。

また本当に良い本をご紹介いただきました。ありがとうございます!
【2010/02/06 20:20】 URL | Green #- [ 編集]

もうひとつ、
付け足しで。
今回、Amazon から購入してみて、Amazon でもコンビニ受け取りが出来るようになっていたことを初めて知りました。さっそく利用。
知らない間に、また便利な世の中になっていたんですね(笑)
【2010/02/06 20:30】 URL | Green #- [ 編集]

緻密な描き込み
建物だけでなくて、食べ物とか小物とか、本当に生活に密着したものまで、オリジナルのものとして描き込まれているところが凄いです。作者が「世界全体」を丁寧に作り上げているのがわかりますよね。
入館とのやり取りもすごくリアルですよね。何気ないシーンがすごく上手いし。主人公が異国について、家族の写真を取り出すシーンなんか、素晴らしいと思います。
あの謎の動物、僕も「分身」なのか「ペット」なのか悩んだんですよね。最後に家族が到着してから、動物は現れなかったので、もしかして「ペット」なのかな、とも思ったんですけど。

ネット通販は日に日に便利になってますよね。買うものが決まっているなら、もはやリアル書店よりもネットの方が便利になってしまいました。実際の書店の良さはまた別にありますが。
【2010/02/06 20:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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