バックナンバー拾い読み(続き)
 正月休みから始めた『SFマガジン』のバックナンバーの拾い読み。じつはまだ続いてました。面白そうな作品だけの拾い読みなのですけどね。
 正月に読んだときほどの収穫はなかったものの、今回もぼちぼち面白い作品が見つかりました。
 ジョン・ダルマス『ピクチャー・マン』、スーザン・C・ピートリイ『琴蜘蛛の歌』、クリフォード・D・シマック『死の情景』、ブラッドリー・デントン『永遠の彼方へ』、トマス・ワイルド『乳母』あたりが、印象に残った作品です。
 ジョン・ダルマス『ピクチャー・マン』は、念写能力を持つ浮浪者の男をめぐる物語。超能力ものだと、もっとスケールが大きくなりそうなものですが、この作品は、かなりこじんまりとまとまってます。
 スーザン・C・ピートリイ『琴蜘蛛の歌』はファンタジーですね。音楽を奏でる「琴蜘蛛」があるリュートの中に住着き、その楽器を手に入れた少女とともに生きていくという話です。物語が蜘蛛の視点で語られるというのがユニークです。繊細な筆致の秀作。
 クリフォード・D・シマック『死の情景』、これは短編集『愚者の聖戦』(ハヤカワ文庫SF)にも収録されてる作品ですね。以前にも読んでるはずなんですが、今回読み直してみて、改めて、味のある作品だと思いました。
 政府の放射能兵器の影響で、世界中の人々が予知能力を得た世界が舞台。1日前にすべてのことがらが予測できてしまうため、戦争もなくなっています。しかしそれと引き換えに、ギャンブルもスポーツも廃れてしまっているのです。そして人の死もまた1日前に予知されてしまうのです。自らの死を予知した主人公の老人は…。
 全てが変わってしまった世界で唯一変わらなかったものとは…。淡々とした筆致で語られる、切なさに満ちた物語。傑作だと思います。
 ユニークな「時間もの」作品が、ブラッドリー・デントン『永遠の彼方へ』。車の事故が原因で、青年は、時間の知覚に変化を起こします。周りの世界に比べて、圧倒的に知覚が遅くなってしまうのです。肉体は回復したにもかかわらず、ほとんど反応を示さない青年を、周囲の人間は精神的な病だと思い込みます。しかも、同乗していたガールフレンドを事故で死なせてしまったせいで、彼を憎む人間は数多くいました。やがて酔った男たちが、彼の家にやってきます…。
 青年の視点で語られる知覚の描写が素晴らしいです。たとえば彼の主観では、庭からドアを通して家に入るまでに、数日間もかかってしまうのです。安易なハッピーエンドにならない点も好感が持てます。
 トマス・ワイルド『乳母』は、今回一番感銘を受けた作品です。滅亡寸前の地球から、人類の未来を託されて出発した宇宙船。唯一の乗組員である主人公の男は、宇宙船の故障で、予定よりも早く、冷凍睡眠から目覚めさせられます。しかも手違いで食料を捨ててしまうのです。
 近い将来生まれるべき数十人分の子供たちを養う余裕はないと判断した男は、男女二人だけの子供を孵化させます。ようやく移住可能な惑星を発見しますが、子供たちの試算によれば、それまでに男を含む三人全員が生き残るための食料はないのです…。
 唯一の乗組員である主人公の男が、ちょっとしたやくざものという設定が面白いです。未来の子供たちと自分の命をはかりにかけ、自分の命を優先しようと考えたり、かなり利己的な人物に描かれているのが特徴。しかし主人公が死んでも、将来の子供たちもまた生き延びることはできないのです。八方ふさがりのなか、子供たちが行った決断とは…。
 限界状況の中で、なお人を思いやることの意味とは…。ヒューマニズムに満ちた結末は感動的です。トム・ゴドウィン『冷たい方程式』のヴァリエーション的な作品ですが、非情さの中にも優しさの見える秀作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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濫読生活

■といってもいつも仕事の本ばかり読んでいるわけじゃない。ほぼ毎週英『エコノミスト』の拾い読みはもちろん、モバイルギアのDOS化の本も読んだし、現代思想11月号『サイエンス・ウォーズ』も読んだ。科学知識の普遍性VSカルチュラル・スタディーズなんていう論争... 愛と苦悩の日記【2010/01/21 00:05】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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