幸せな家庭  埋もれた短編発掘その27 ボブ・レマン『窓』
 3年半ほど前になるでしょうか。ネットを徘徊していて、あるオムニバスドラマシリーズの紹介をしているサイトにぶつかりました。その時紹介されていたエピソードのあらすじを読んで、何か聞き覚えのある話だな、と思ったのが、そのドラマを見始めたきっかけでした。
 ドラマの名は《ナイトビジョン》《ミステリーゾーン》《トワイライトゾーン》タイプの、一話完結のドラマシリーズです。毎回、ひねりの利いたストーリーで唸らされました。
 見始めてから後のエピソードは、全て見ることができましたが、気になっているのが、肝心の「聞き覚えのある話」のエピソードです。『異次元への窓』と題されたそのエピソードのクレジットを調べてみると、原作は、ボブ・レマンとなっています。いろいろ調べた結果、かって『SFマガジン』に訳載された『窓』(浅倉久志訳『SFマガジン 1982年2月号』収録 早川書房)が該当作品のようです。
 あらすじを覚えているということは、読んだことがあるのは確かなのですが、読み返そうにも雑誌が見つかりません。捨ててしまったんでしょうか。その内、なんとなく忘れてしまっていたのですが、最近、該当の『SFマガジン』を再び手に入れる機会があり、さっそく読み直してみました。
 この作品に間違いありません。ものすごくインパクトのあったストーリーなので、記憶に残っていたのでしょう。そんなわけで、今回はこの『窓』をご紹介したいと思います。

 上司の命令を受けて、政府の実験場を訪れたギルスンは、責任者のクランツと大佐に引き合わされます。実験場に、場違いなヴィクトリア朝風の屋敷を認めたギルスンは驚きます。しかも大佐は、突然家に向かって石を投げつけたのです。石は家の上部で消えてしまいます。

 「ちょっと」とギルスンはいった。「こっちにもやらせてくれ」
 彼は野球のボールのように、石を投げた。思いきり高く。石は家から約十五メートル手前で消えてしまった。消失点を見つめているうちに、ギルスンはなめらかな緑の芝生が、ちょうとその真下で切れていることを発見した。


 家は、研究者カルヴァギャストの実験の結果、爆発とともに現れたものだというのです。新築に見えるその家の外観から判断して、1870か80年ごろ。つまり彼らは過去を見ているのではないかと考えていました。しかも、その家にはある家族が住んでいるらしいのです。

 「あれの性質については、なにもわからない。ここに窓があり、それがどうやら過去に開いているらしい。その中をのぞけるところから見て、光を通すことはわかる。ただし、一方向にしか通さない。その証拠に、あの中にいる人びとは、まったくわれわれの存在に気づいていないんだ。光以外は、なにもあれを通りぬけることはできない。石がどうなったかは、さっき見たとおり。あの境界面に長い棒を押しこんでみることもやった-抵抗はまったくない。だが、中へ入った部分は消えてしまう。神のみぞ知るどこかに。なにをあの中へ入れても、もどってこない。」

 実験の結果、十五時間二十分おきに、五秒間だけ《窓》が開くことが確認されます。事態を上司に報告するというギルスンに対し、熱狂家の青年リーヴズは反対します。家に住んでいる幸せそうな家族に感情移入していたリーヴズは、彼らの暮らしを壊したくないというのです。彼は、家族のひとりひとりに名前をつけており、ことに小さな女の子をマーサと名づけていました。

 「ちょっとしたもんでしょう。あれこそ人間らしい暮らしですよ。このくそったれな現代生活におさらばして、あの時代にもどって、あんな生活ができたらなあ……。それにマーサ、マーサを見ましたか? 天使ですよ、ねえ? もし、あそこに行けるなら-」

 政府の介入が避けられないことを知ったリーヴズは、次に《窓》が開いた瞬間、家のある空間に向かって飛びこんでしまうのです。

 「リーヴズ、よせ!」クランツだった。ギルスンは駆けていく足音を聞き、視野の隅にすばやい動きを認めた。ふりむくと、リーヴズのひょろ長い体がさっと通り過ぎていった。リーヴズは頭から境界面に飛びこみ、ぶざまに芝生の上へ投げ出された。

 《過去》に飛び込んだリーヴズの運命は? あそこは本当に《過去》なのでしょうか? 幸せな家族に憧れた青年に、思いもかけない事態が降り掛かります…。

 過去への郷愁にとらわれた青年が、その空間へ入り込んでしまう。どこかジャック・フィニィ風のノスタルジーに満ちた作品かと思いきや、結末は正反対のトーンを迎えます。まったく予想もしない展開に、読者は戦慄を覚えるはず。ノスタルジーを逆手にとった、おそるべき恐怖小説です。

 この『窓』《ナイトビジョン》で映像化したエピソード、ネットで検索してみると、ニコニコ動画で見れることがわかりました。著作権の関係で、あんまり勧められないのですが、興味のある人は探してみてください。非常にショッキングなのでご注意を。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

非常に面白そうな短篇ですね。残念ながらその号はもっていないので、今度機会があれば探してみたいと思います。
浅倉久志訳というのは、安心して読めますね。
やはりハードカヴァーや文庫にはなっていないのでしょうね。映像化されながら、それは実に惜しいことですね。
そういったものを発掘して頂けるのは、非常にありがたいですね。
ことにわたしは翻訳ものが少ないという理由でSFマガジンを殆ど持っていないので、なおさらです。


追記
ネットで調べてみたところ、『SFマガジン 1982年2月号』との記述が見つかったのですが、果たしてどっちなんでしょうか?
【2010/01/08 12:07】 URL | save #eqP7eH0Y [ 編集]

>saveさん
ご指摘ありがとうございます。掲載誌は『SFマガジン 1982年2月号』の方でした。

ボブ・レマンは当時、期待の若手!みたいに紹介されていますが、結局邦訳されたのは短篇が数編のみのようです。でも訳されているのものは、小粒ながら佳作が多かったように思います。
とくにこの『窓』は、あちらでも評価が高かったようですね。
【2010/01/08 21:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


そうでしたか。確認、有り難うございます。
ボブ・レマンは三篇だけ訳されているようですが、どうやら本国でも消えてしまった作家のようです。原書がまったく出回っていない状態です。
機会があれば三篇を読んでみたいものです。
有り難うございました。
【2010/01/08 22:54】 URL | save #eqP7eH0Y [ 編集]

『Feesters in the Lake 』
あのラストは衝撃でした。
ブラッドベリィやフィニィのようなノスタルジックなものから一転・・・。
上手いです。

>saveさん

米国amazonからの取り寄せになってしまいますが、レマンの短編集『Feesters in the Lake 』は
まだ購入可能です。(プレミアがついているのもありますが)
amazonにはレマンの娘さんのコメントが書き込んでありますのでページを貼っておきます。

http://www.amazon.com/Feesters-Lake-Bob-Leman/dp/0970734956/ref=sr_1_14?ie=UTF8&s=books&qid=1263146795&sr=1-14

レマンの作品は海外のアンソロジーに度々取り上げられているので”印象に残るものを描く作家”
として知名度は底いながらも長く残るのではないかと思います。
【2010/01/11 03:18】 URL | shen #lYoN0asc [ 編集]

レマン
邦訳のある3編しか読んでいないので、どのぐらい力量のある作家なのか、はっきりしないのですが、少なくとも、『窓』は、トム・ゴドウィンの『冷たい方程式』みたいに、それ一編だけでも後世に残る作品ですよね。
映画化とか、特別の事情でもないかぎり、作品集の邦訳は難しそうですね。
【2010/01/11 19:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


はじめまして。自分のブログではほとんど触れてないんですけど、
今はとびきりの恐怖短編を読みたいと昔のアンソロジーを読んでいるところです。
こちらはその点、とても参考になりそうです。

この作品も面白そうなので是非読んでみたいです。
私が今まで読んだ作品で怖いと思ったのはローズマリー・ティンパリー『マーサの食卓』、
ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』です。
【2015/08/30 00:31】 URL | ゆきやまま #M8wPbJsk [ 編集]

>ゆきやままさん
ゆきやままさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

怪奇・恐怖小説でも「面白い」作品はたくさんあるけれど、「怖い」作品ってなかなかないですよね。たまにそういう作品に当たるのも、アンソロジーを読む醍醐味だと思います。

『マーサの食卓』は僕も傑作だと思います。ティンパリー作品で、僕が怖いと思ったのは『ハリー』でしょうか。ティンパリーは、邦訳されているものは少ないけれど、どれもいい作品だと思います。『クリスマスの出会い』とか。

ヒュー・ウォルポールも『銀の仮面』は外せないですね。

【2015/08/30 08:20】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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