ブルジョワ娘の空の散歩  マッシモ・ボンテンペルリ『わが夢の女』
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わが夢の女―ボンテンペルリ短篇集
マッシモ ボンテンペルリ 岩崎 純孝
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 今日ご紹介するのは、イタリアの作家、マッシモ・ボンテンペリの『わが夢の女』(岩崎純孝他訳 ちくま文庫)です。おかしな名前ですね。ちなみにボンテンペリのの表記は小さいです。非常にナンセンスでユーモアにあふれた短編の書き手です。
 例えば『鏡』という作品。鏡に向かってネクタイを結んでいる最中に、テロに遭い、鏡が瞬時に破壊されたために鏡像だけがふっとばされて、なくなってしまった男の話。
 また『便利な治療』という作品は、こんな話。プラーグに住む医者である《私》は、ボハチェック夫人の治療をするのに、中世の魔術書を利用して作った蝋人形を使うことになります。本人と寸分違わず作られた、この人形を診察することによって、自宅にいながらにして治療ができるのです。だがある日ふとした間違いで蝋人形をストーブのそばに置き、人形を溶かしてしまうのです。ボハチェック夫人の家にかけつけた《私》が見たものは…。
 大体の作品において、主人公は《私》であり、作者と同じ名前のマッシモです。その意味では私小説と呼べるのかもしれません。とはいえ、作中で起きる出来事は突拍子もないものばかり。リアリズムとはほど遠いのです。空想的な作品に《私》を持ち込むことによって、不思議な空間を作りだしています。どこかすっとぼけた味わいのボンテンペリの短編の中でも僕が一番好きなのは『太陽の中の女』という作品です。
 主人公の《僕》は、ある日飛行機で空を散歩しています。そこへ自分の方へ向かってくる別の飛行機が現れます。ぶつかりそうになった《僕》は、拡声器で文句をつけますが、相手はうらわかい女性でした。ほのかな恋心を抱いた《僕》は、エウリディーチェと名乗る彼女とおしゃべりをはじめます。また会う約束をとりつけようとする《僕》は、返事をはぐらかされてがっかりします。

 「…明日一緒に野原へ散歩に行きません?」
 エウリディーチェはせきこんで答えた。「いいえ、駄目。父さんが野原なんかにわたし一人で行かせませんの。危険だからって言うのよ。空は別、分かって?」


 ブルジョア娘の言葉のこの突拍子のなさ。大空の上という非地上的な場所と、あまりに地上的な発言とのギャップがユーモアを醸し出します。おそらくエウリディーチェという名前も、娘の俗物性と対比させるために使われているのでしょう。物語は、これだけで特に何か事件も起きません。そういう意味では何が面白いのかよくわからない作品なのですが、読んでいるだけで不思議に心地よいのです。
 作者は、ファシズム期のイタリアで活躍したそうなのですが、同時代の日本において、こんな作品が受け入れられたかと考えると、イタリアという国の間口の広さが感じられますね。

テーマ:感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

ボンテンペルリの名前は「ちくま文学の森」(たぶん)で知って、この本を探しまわって、やっと神田でみつけた覚えがあります。
すごくお気に入りの作家です。
当時の「ちくま文学の森」結構彼の作品が多かった(贔屓?)と思います。
【2007/10/31 00:23】 URL | fontanka #- [ 編集]

ボンテンペルリ
ボンテンペルリは、たしか「ちくま文学の森」に収録された短篇の評判がよかったのが、短編集がまとめられた、というような話を聞いた覚えが…。
ちくまが昔出していた『世界ユーモア文学全集』にも何編か入っていて、僕が読んだのは、たぶんそちらが先ですね。
ほんとに一冊きりで終わってしまったけれど、もっと他の作品も読んでみたい作家です。
【2007/10/31 06:24】 URL | kazuou #- [ 編集]


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