不遇な幻想画家  大瀧啓裕編『ヴァージル・フィンレイ幻想画集』
フィンレイ表紙

 僕は個人的に怪奇小説やホラー、ファンタジーが好きなのですが、美術やアートの分野でも、やはり幻想的なものを好む傾向があります。アメリカの画家、ヴァージル・フィンレイの名前を知ったのも、やはりどこかのホラーやファンタジーの本に載った挿絵が初めだったように思います。
 ただ、フィンレイの絵が紹介される機会は少なく、彼の挿絵をまとめて見たのは、おそらく、ハヤカワ文庫から出たエイヴラム・メリット『イシュタルの船』でしょう。その時の印象は、なんて緻密な絵なんだろう、というものでした。正直、メリットの小説よりも、フィンレイの挿絵の方が印象に残っています。
 青心社から、日本版の画集が出ていることを知り、入手しようとしましたが、既に絶版で入手は叶いませんでした。ずっと探していたのですが、先日、何とか画集を手に入れることができて、長年の溜飲を下げています。手に入れたのは大瀧啓裕編『ヴァージル・フィンレイ幻想画集』(青心社 限定版)で、数年後に増補した普及版(全二冊)もあるようです。
 フィンレイの絵をまとめて見て、改めて感銘を受けたのですが、やはり驚くべきは、その絵の緻密さですね。主な活躍の舞台をパルプマガジンに求めたフィンレイですが、はっきり言って、パルプマガジンに載せるようなレベルの絵ではありません。
 というのも、パルプマガジンはパルプという性質上、かなり質の悪いザラザラの紙なので、細かい点描のような絵は、印刷の際につぶれてしまい、原画の良さが出せないからです。しかし職人気質のフィンレイは手を抜かずに絵を描き続けました。
 パルプマガジンというのは、そもそも読み捨ての雑誌であって、そこに掲載される小説は娯楽のためのもの、そして挿絵もまた同様でした。当然、挿絵画家たちも質よりも数を重視したわけです。そんななか、フィンレイは粗悪な媒体にもかかわらず、高品質の絵を提供しつづけました。その職人気質がたたって、生涯経済的に困窮し続けたそうですが、またそれが後年再評価を受ける原因ともなりました。
 さて、本画集に収録された作品は、基本的には全て、小説につけられた挿絵です。ホラー・ファンタジー系統の作品が好きな方にとっては、お馴染みの作家の名前が頻出するのも嬉しいところですね。ラヴクラフト、ロバート・E・ハワード、ロバート・ブロック、マレイ・ラインスター、リチャード・マシスンなど。ロバート・シェクリィ、ジョン・コリアなんてのも見えます。
 SF系の絵も素晴らしいのですが、それ以上に素晴らしいのは、やはり怪奇小説に寄せた挿絵です。たおやかな女性像、異形の怪物、闇につつまれた背景。今見ても第一級の作品といえます。改めて、画集を出してもらいたい画家ですね。
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テーマ:アート - ジャンル:学問・文化・芸術

この記事に対するコメント
異相の作家
これはもう、ラヴクラフト像に尽きますね。
フィンレイ描くところのラヴクラフトのイメージが、確実にラヴクラフト・ファンを増やしていると思います。私もその一人。
まあ、実物の写真も異相で迫力はありますが、女性ファンはひいてしまうような。
【2009/09/05 21:38】 URL | 迷跡 #8Vfzr.cc [ 編集]

確かに
もはやラヴクラフトといえば、フィンレイの描いたラヴクラフト像が定着してますね。ラヴクラフトから激賞されたこともあって、フィンレイはラヴクラフトに敬意を抱いていたようです。それが上手く現れた肖像じゃないでしょうか。
【2009/09/05 21:54】 URL | kazuou #- [ 編集]

ラブクラフト
kazuouさん、迷跡さん>
こんばんは。
ラブクラフトあの肖像画は印象的です→実物の写真ってあんまり考えたことなかったですね(笑)→そういえば、写真がある時代の人でしたっけ(→なんかものすごーーく古い人のような気になっている)



【2009/09/05 22:43】 URL | fontanka #- [ 編集]


fontanka さん

ラヴクラフトは、江戸川乱歩と同世代なんですよね。早世したことと、作品からの連想で苔むしたイメージですが。
一時期月ごとの絵葉書カレンダーを作って職場の机上で使っていたのですが、フィンレイのラヴクラフト肖像画も使いました。

【2009/09/06 12:11】 URL | 迷跡 #8Vfzr.cc [ 編集]


>fontankaさん
いちおう、ラヴクラフトは20世紀の人です(笑)。確かに作風から、ずっと古い人みたいに感じてしまうところはありますね。

>迷跡さん
ラヴクラフトのカレンダー! いいですねえ。探せば、クトゥルー神話のカレンダーとかもありそうです。
【2009/09/06 12:52】 URL | kazuou #- [ 編集]

小さい!
『ゾティーク幻妖怪異譚』の大瀧啓裕の例によって充実しすぎの解説にも、フィンレイの挿画が出てきますね。でも、その小さいこと! 大判でじっくり見たくなりました。
【2009/09/10 23:35】 URL | 迷跡 #8Vfzr.cc [ 編集]

そういえば
大瀧啓裕氏は、訳書に書影をよく載せてくれますね。
先日、大瀧啓裕編訳のラヴクラフト『文学における超自然の恐怖』を手に入れたのですが、載せられている書影の数が、半端でなくて驚きました。
表題作のエッセイは、怪奇小説史なので、作家名がところどころに言及されるのですが、その作家の代表作の書影がほぼ毎ページに渡って紹介されるという凝り様!
おまけに巻末にはラヴクラフトの短篇の載った雑誌や単行本の書影まで載ってます。この本、購入しようかどうか迷っていたのですが、膨大な書影を見て購入する次第となりました。
【2009/09/11 21:04】 URL | kazuou #- [ 編集]

私のコレクション
私もVirgil Finlay は大好きです。
日本で、一番最初にVirgil Finlayについて細かく書いてあったのは、SFマガジン
だと思いますが、私の出発点は、米版スターログでの紹介からです。
この幻想画集については、後ろにかいてある出展リストを見て、それらを全部集める
ことからいろいろなことを始めました。
その後は、Gerry de la Ree と文通をし、彼の作ったチェックリストからいろいろな
Pulpsを集めました。
もう40年くらい関連するものを集めてきて、Finleyの原画もやっと200枚くらいまで
集まりました。(URLに一部を掲示)
国宝級の絵もあるのですが、それは誰にも見せないことにしています。
(Virgil Finlayのこのような絵が日本にあることはアメリカ人のSFファンにも
あまり知られていません。)
以外に知られていないことは、WW2の時に沖縄に来ていろいろな絵を描いて
います。それらの絵も掲示していますが、いろいろ考えさせられる絵ですよ。
【2010/03/14 03:59】 URL | kuno-chan #woLeiNIQ [ 編集]

>kuno-chanさん
kuno-chanさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
フィンレイの原画、いくつか拝見しました。すごいコレクションですね。画集でしか彼の作品を見たことがないので、羨ましい限りです。
もっぱらファンタジー画家として認識しているので、戦争画もあったというのは驚きました。
【2010/03/14 13:38】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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