欧米の怪奇小説をめぐって  アンソロジーその6
猫に関する サイコ 震える血 (祥伝社文庫) 死霊たちの宴〈上〉 (創元推理文庫) 死霊たちの宴〈下〉 (創元推理文庫) 999(ナイン・ナイン・ナイン)―妖女たち (創元推理文庫)
 仁賀克雄編『猫に関する恐怖小説』(徳間文庫)は、猫に関する恐怖小説を集めたもの。人語を操る猫の皮肉な物語『トバーモリー」(サキ)、猫の血を引く青年の不思議な物語『僕の父は猫』(ヘンリー・スレッサー)、萩原朔太郎『猫町』と比較されることもある『古代の魔法』(A・ブラックウッド)、ラヴクラフトの珍しく軽妙な掌編『ウルサルの猫』など。異様に賢い緑色の猫をめぐる物語『緑の猫』(クリーヴ・カートミル)と、悪魔との契約をめぐるファンタジー『著者謹呈』(ルイス・パジェット)の二編がひじょうに面白いです。
 ロバート・ブロック編『サイコ』(祥伝社文庫)は、ブロックが創始した「サイコ」にまつわる恐怖小説を集めたアンソロジーです。ブロック好みのショッカー、オチのある作品が多く収められ、ブロックの短篇が好きな人なら楽しめるでしょう。 スティーヴン・キング、エド・ゴーマン、リチャード・クリスチャン・マシスン、 ローレンス・ワット=エヴァンズなど。
 ジェフ・ゲルブ編の三冊のアンソロジー、『震える血』『喘ぐ血』『囁く血』は、エロティックなホラーを集めたもの。正直、品のない話が多いので、好みは分かれるかもしれません。『浴槽(バスタブ)』(リチャード・レイモン)などはその最たるもので、この作品が楽しめるようなら、アンソロジー全体が楽しめると思います。
 J・スキップ&C・スペクター編『死霊たちの宴』(創元推理文庫)は、ゾンビをテーマにしたアンソロジー。題材が題材だけにグロテスクなものが多いですが、力作多数です。知能を持ち、組織的に行動するゾンビを描いた、フィリップ・ナットマンの『始末屋』がとくにユニーク。
 アル・サラントニオ編『999』(創元推理文庫 全3巻)は、質量ともに重量級のアンソロジー。童話めいた物語が衝撃的なラストを迎える『フクロウと子猫ちゃん』(トマス・M・ディッシュ)、作家がふとしたことから手に入れた絵が動き出すという『道路ウィルスは北に向かう』(スティーヴン・キング)、古本屋の二階に存在する劇場跡に迷い込んだ男を描く夢幻的な作品『劇場』(ベントリー・リトル)、怪奇小説をめぐるメタフィクショナル・ホラー『紛う方なき愚行』(ピーター・シュナイダー)、毎日決まった場所に捨てられる靴をめぐって展開する、スピーディなサスペンス『リオ・グランデ・ゴシック』(デイヴィッド・マレル)など、力作揃い。モダンホラーのアンソロジーとしては外せないですね。
 エド・ゴーマン編『罠』(扶桑社ミステリー)とその続編『プレデターズ』(扶桑社ミステリー)は、「追うものと追われるもの」をテーマにしたアンソロジー。ミステリやサスペンス調の作品が多く、厳密にはホラーアンソロジーとはいえないのですが、なかなか面白いアンソロジーです。『プレデターズ』収録の『心切り裂かれて』(エドワード・ウェレン)がものすごい傑作なので、この作品だけでも読んでいただきたいです。なんとこれ、アルツハイマー病に犯された男が探偵となる物語で、サスペンス横溢の傑作です。

 このところ続けてお送りしている《欧米の怪奇小説をめぐって》シリーズ。まだ取りこぼしがあると思いますが、アンソロジー編は、これでひとまず終わりにしたいと思います。
 今回のシリーズの記事を書くに当たって、ネット上で怪奇小説関連について調べてみました。断片的な情報はあるものの、この分野についてのまとまったガイドは、ほとんど見当たりませんでした。それだけに、この分野についてまとめておくのも、意味のないことではないかな、と思っています。
 さて、これからの予定ですが、今のところ、以下のようなトピックを考えています。

・怪奇小説の三大巨匠
・ゴースト・ストーリーの巨匠たち
・イギリス怪奇小説の先駆者たち
・エドガー・アラン・ポー
・ラヴクラフトと《ウィアード・テイルズ》
・《アーカム・ハウス》とパルプ作家
・ラヴクラフト以前のアメリカン・ホラー
・ロード・ダンセイニ
・《奇妙な味》と異色短篇
・フランスの怪奇小説
・ジャン・レイとベルギーの怪奇小説
・ホフマンとドイツ・ロマン派
・ドイツ・オーストリアの怪奇小説
・ロシアの怪奇小説
・ラテンアメリカの怪奇小説

 不定期になると思いますが、これからも続けて書いていきたいシリーズなので、よろしくお願いします。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「震える血」も・・・
「震える血」シリーズ→昔、評判を聞いて借りて読みました。内容はちょっとどぎつい部分もありましたが、水準高かったです。表紙が「妖しい系」なので、カバーをかけなくては・・・でした。
「震える血」にお目にかかれるとは・・・です!
結構、本のタイトルには聞き覚えがあるものがあげられていますが、kazuouさんの内容紹介を読んでも、内容が思い出せないものが多く。

やはり、短編集は、内容メモをとるべきだったなと(一時とったこともあるのですが)
後悔してます。
これからのトピックも、期待しています。
かなり、「挫折史」とかぶるかなぁとも思っていますが。
【2009/08/23 22:46】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
『震える血』のシリーズは、かなり過激なアンソロジーなので、邦訳は無理だろうみたいな文章をどこかで読んだことがあったので、訳されたときは驚きました。どぎついけど、レベルはかなり高いアンソロジーなんですよね。

僕も、今回アンソロジーを少し読み返してみたんですが、内容を忘れている作品がいっぱいありました。とくに「朦朧法」系統の作家の作品。デ・ラ・メア、ヘンリー・ジェイムズ、ロバート・エイクマン、ラムジー・キャンベルとか。エイクマンあたりになると、筋として覚えるのがそもそも不可能な作品とかありますし。
アンソロジーや短編集を読んだら、一言ぐらい覚え書きをしておくのもいいですね。
【2009/08/24 21:37】 URL | kazuou #- [ 編集]

アンソロジー特集ありがとうございました
さすがkazuouさん!圧巻の特集でしたね。おっしゃる通り、これだけの分量を見やすい形でまとめたサイトはないと思います。今後の読書の参考にさせていただきます。
それにしても随分いろんなアンソロジーがあるんですね。自分が読んだのは数冊しかありませんが、『闇の展覧会』『幻想と怪奇』『999』は(全部じゃないですけど)読みました。
さらなる企画のアイディアもあるんですね。楽しみですー。
【2009/08/24 21:45】 URL | さあのうず #- [ 編集]

>さあのうずさん
さあのうずさん、ありがとうございます。読書の一助となれば幸いです。

怪奇系のアンソロジーは、あっという間に絶版になっているものが多いので、出版されたことさえ知られていない本がけっこうあるんじゃないでしょうか。そういう点では、まとめて紹介できたのは良かったと思います。
今回のシリーズの記事を書いていて、やっぱり自分は怪奇小説が好きなんだなと実感しました。こんなに楽しんでブログの記事を書いたのは久しぶりですよ。
次回以降のトピックのアイディアは、思い付いたものを並べただけの段階なんですが、ちゃんと書いていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
【2009/08/24 22:18】 URL | kazuou #- [ 編集]

アンソロジー編完結!
このジャンルは、kazuouさんのおっしゃるように意外と紹介されていない気がします。
気になった本をメモして今後参考にしたいと思います。ありがとうございました。
予定のトピックも楽しみです。ポーもラヴクラフトも読んでなくて…。(とほほ…。)

>fontankaさん
「内容メモをとるべきだった」とは…。読書家のみなさんには、ほんと感服です。私は長編でもどんどん内容を忘れてしまいますが。。。メモしておくと、やっぱり便利なんでしょうか。
【2009/08/29 23:54】 URL | green-flow #- [ 編集]

>green-flowさん
怪奇小説も読み込んでいくと、なかなか面白いジャンルだと思います。少しでも参考になったなら幸いです。
ポーやラヴクラフトほどでなくても、このジャンルには、特色のある作家がいっぱいいるので、少しずつでも紹介していけたら嬉しいですね。

メモといわずとも、読んだ本の感想を数行だけでも記しておくと、あとで内容を思い出すよすがになったりします。そういう意味では、便利なのかもしれません。そもそも、ブログをそうした備忘録がわりに使っている人もいますしね。
【2009/08/30 16:23】 URL | kazuou #- [ 編集]

短編集のメモ・・・
green-flowさん>
かつて、病気をして家で本ばかり読んでいた時期があり、
その時に、アンソロジーについては、どれを読んだのかとか、何が収録されているのかと
メモを取ろうとしたことがあるんです。
Excelファイル→ディスクがとんでパー
など(涙)

あと、数はこなした(?)のにあれはどこで読んだのかが分からず→所持していない。
という今、メモがあればなぁ~とかって思ってますが、もう、ムリだなとも思います。
今は普通に会社行っていますが、そうなると、メモなんてとれなくなってしまいます。

もうあきらめちゃいました。

【2009/08/31 19:51】 URL | fontanka #- [ 編集]


>fontankaさん
そうでしたか…。
いろいろ事情があったのですね。
普通に仕事をしていると、記録するのもなかなか時間がとれないですよね。

あの話どれだっけ?って思ったときに、個人短編集はまだしも、アンソロジーは探しづらいので、メモがあれば確かに便利かなあとは思います。

「ディスクがとんでパー」は泣きますね(T^T)
あんまりマメにバックアップしないので、ビクビクしてます。デジタルは検索とかソートとか便利だけど、まっさらになる可能性があるので…。やっぱりプリントアウトはしとくべきかなー。
【2009/09/03 23:41】 URL | green-flow #- [ 編集]

満喫しました!
さすがにこのへんだとなじみがあります。
今回のシリーズ記事を閲覧していると、欧米の怪奇小説の国内紹介は、けっこう充実していたのかもと思えてきました。
怪談好きということでは、日英が洋の東西の横綱なのでしょうか。

さて、これからの記事、もちろんラブクラフトとウィアード・テイルズ系に期待大です!
【2009/09/05 10:53】 URL | 迷跡 #8Vfzr.cc [ 編集]


>fontankaさん
>green-flowさん

読んだ短篇のリストを作ろう、というのは僕もやったことがありますが、途中で挫折してしまいました。個人短編集やアンソロジーの方はともかく、雑誌の方が膨大な数になってしまうんですよね。一度だけ雑誌に訳載された、マイナー作家の一編となると、あとで再読したいと思っても、なかなか見つかりませんね。
【2009/09/05 17:46】 URL | kazuou #- [ 編集]

>迷跡さん
どこかの本で読んだ話ですが、世界中で日本ほど外国の作品が翻訳で大量に読める国はないそうです。欧米はそもそも原語で読む習慣が強いので、自国語への翻訳自体が少なく、それゆえ、一般の人がアクセスできる外国の作品数も少ない。それに比べて、日本は翻訳が充実しているので、さまざまな国の作品を日本語で、一般の人が読むことができる、というような趣旨でした。
怪奇小説の分野にしても、これはあてはまりそうです。スティーヴン・キングなどのベストセラーだけではなく、それこそゴシック・ロマンス時代の古典から読むことができるというのは、考えたら、すごいことだと思います。

ウィアード・テイルズ系の作品は昔から好きなのですが、最近ラヴクラフトを読み返す機会が多く、以前よりも面白く読めるのに驚いています(笑)。
【2009/09/05 17:57】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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