欧米の怪奇小説をめぐって  アンソロジーその5
闇の展覧会 霧 (ハヤカワ文庫NV) 闇の展覧会 - 罠 (ハヤカワ文庫 NV ハヤカワ名作セレクション) ナイトフライヤー ナイトソウルズ クリスマス13 カッティングエッジ
 今回は、モダンホラー関係のアンソロジーを中心にご紹介したいと思います。モダンホラー関係のアンソロジーでは「書き下ろし」が多いのが特徴です。既に発表された作品を編集するのではなく、そのアンソロジーのためにテーマを決め、それにそって書かれた新作を集める、というのが「書き下ろしアンソロジー」と呼ばれるものです。そのため、全編新作という「売り」ができる代わりに、収録作品が玉石混淆になってしまうという危険性もあります。
 まず筆頭にあげるべきは、カービー・マッコーリー編『闇の展覧会』(ハヤカワ文庫NV 全3巻)でしょう。玉石混淆ではありますが、全体にレベルの高い作品集ではあります。ジャンル作家だけでなく、アイザック・B・シンガーやジョイス・キャロル・オーツといった主流文学の作家、ジーン・ウルフやジョー・ホールドマンといったSF系の作家、ゴースト・ストーリーの大家ロバート・エイクマンなど、幅広い分野から作品を集めています。
 シマックやブラッドベリといったベテラン勢の作品がいささか冴えないのですが、『石の育つ場所』(リサ・タトル)、『罠』(ゲイアン・ウイルソン)あたりが面白いですね。
 集中のいちばんの傑作は?と問われたら、間違いなくスティーヴン・キングの『霧』でしょう。近年映画化もされた関係で、知名度も上がっていると思いますが、キングにしては珍しく、怪物を最前面に出した超自然小説としての面と、閉鎖環境に置かれた人間たちの行動を描いたパニック小説的な面をかねそなえた傑作小説です。あとは、異色イラストレーター、エドワード・ゴーリーの絵物語『莫迦げた思いつき』が、短いながら、徹底的にダークな色調を感じさせる秀作です。
 ダグラス・E・ウィンター編『ナイト・フライヤー』(新潮文庫)の収録作品は、雰囲気重視で起承転結が弱いものが多いです。なかでは、ゴッホの生涯にヒントを得たと思しい『オレンジは苦悩、ブルーは狂気』(デイヴィッド・マレル)が、間違いなく集中随一の傑作です。太り過ぎの女性と彼女を慕う男性の恋の行方がとんでもない結末を呼ぶ『餌』(トマス・テッシアー)、飛行機の吸血鬼というユニークな題材を扱った『ナイト・フライヤー』(スティーヴン・キング)も面白いですね。
 J・N・ウイリアムスン編『ナイト・ソウルズ』(新潮文庫)は、全体に短めの作品が多くなっています。物語として面白いものが多く、モダンホラー版異色短篇といった趣でしょうか。
 巻頭のロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』を始め、体がやわらかくなってしまう奇病を描いた 『ソフト病』(F・ポール・ウィルスン)、破滅ものの『モーリスとネコ』(ジェームズ・ハーバート)などが面白いですね。死から甦った少年を描く『死から蘇った少年』(アラン・ロジャース)も妙な味わいの佳作。スプラッタ映画のタイトルを並べまくったオマージュ短篇『スプラッタ -ある警告』(ダグラス・E・ウィンター)は、ホラー映画ファンなら楽しめるでしょう。
 デニス・エチスン編『カッティング・エッジ』(新潮文庫)は、かなりシリアス路線のアンソロジー。ジャンル以前に作品としての完成度が、ひじょうに高いものが多いです。恐るべき筆力で描かれた『ブルー・ローズ』(ピーター・ストラウブ)、詩的な味わいの『蒼ざめた震える若者』(W・H・パグマイア & ジェシカ・アマンダ・サーモンソン)など、文章力に長けた作品多数。もちろん、死神を扱った『死の収穫者』(ロバート・ブロック)のような、娯楽性の高い楽しい作品も含まれています。
 エレン・ダトロウ編『血も心も』(新潮文庫)は、吸血鬼ものアンソロジーです。マンネリになりがちなテーマですが、いろいろと工夫をこらされた作品が多く、退屈させないのはさすがですね。ユニークな切り口の『静脈条虫』(スコット・ベイカー)、ユーモアに富んだ『乾杯!』(ハーヴィ・ジェイコブズ)などがお勧め。集中で一番古い『飢えた目の女』(フリッツ・ライバー)は、迫力ある正統派吸血鬼小説の佳作です。
 P・F・オルソン『幽霊世界』(新潮文庫)は、「幽霊」をテーマにしたアンソロジー。新感覚のゴースト・ストーリーが多く、新鮮な味わいです。なかでも、天地開闢以来の死人が戻ってくると言う壮大なスケールの『幽霊世界』(ロバート・R・マキャモン)、タイムトラベルとゴースト・ストーリーを組み合わせた『タイムスキップ』(チャールズ・デ=リント)、なんと日本を舞台にした『刀鍛治の双眸』(ゴードン・リンツナー)、本好きにはたまらない古書を扱った作品『旅行案内書』(ラムジー・キャンベル)などが収穫。
 アイザック・アシモフ編の二冊のアンソロジー、『クリスマス13の戦慄』(新潮文庫)と『バレンタイン14の恐怖』(新潮文庫)は、編者らしいサービス精神にあふれた作品集です。
 『クリスマス13の戦慄』は、クリスマスにまつわる新旧の作品を集めています。古くは、罪の意識に苛まれるサイコスリラーの古典『マークハイム』やジェントル・ゴースト・ストーリーの名作『老いたる子守の回想』(ギャスケル夫人)、新しいところでは、サンタクロースをめぐる幼児期の恐怖を描いた『煙突』(ラムジー・キャンベル)など、幅の広い時代から作品がとられています。人間に変態する異星人の恐怖を描く『フェイカーの惑星』(J・T・マッキントッシュ)と、世にも残酷な刑罰を描く『終身刑』(ジェイムズ・マコンネル)が、かなりの面白さ。
 『バレンタイン14の恐怖』もバレンタインをめぐるホラー・アンソロジーですが、ミステリやサスペンスよりの作品が多いですね。吸血鬼になってしまった女性を救おうとする男を描いたロマンス風味の『吸血鬼の贈り物』(ダニエル・ランサム)、バットマンをモデルにしたヒーローもののパロディ作品『ピエロに死を!』(ウィリアム・F・ノラン)あたりが面白いです。
 同じくアシモフ編『恐怖のハロウィーン』『戦慄のハロウィーン』(ともに徳間文庫)は、ハロウィーンをテーマにしたアンソロジーです。『恐怖のハロウィーン』では、いじめられっ子の復讐の恐怖を描く『パンプキン・ヘッド』(アル・サラントニオ)と、永遠に繰り返される時間を描いた『輪廻』(ルイス・シャイナー)、『戦慄のハロウィーン』では、気丈な女教師が呪いによって永遠の森に閉じ込められる『ミス・マック』(マイケル・マクドウェル)が力作です。

 アンソロジーその6に続きます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

新潮文庫の「ナイト・・・・」シリーズは面白く読みました。マレルの「オレンジは苦悩・・・」最高に怖かったです(この人と「ランボー」って当時知りませんでした)
アシモフ編のアンソロジーはホラーに限らず水準高いですよね。

前回の「挫折史」に比べると読んでいる作品も多いようです。
次楽しみにしています。


【2009/08/12 21:44】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
マレルは、『ランボー』の作家というイメージがあったので、『オレンジは苦悩、ブルーは狂気』を読んだときは驚きました。後に短編集が何冊か出ましたが、どの短篇も面白かったので、もともと短篇の上手い人だったんですね。
アシモフ編のアンソロジーは、どれも面白かったです。やっぱり自分のホームグラウンドなのか、SF系の作品が多く入ってますね。『クリスマス13の戦慄』には、アーサー・C・クラークまで入ってますし。
【2009/08/13 08:10】 URL | kazuou #- [ 編集]


fontankaさまの「挫折史」に倣うと、このあたり、わたしは「後悔史」になりそう。
書店の棚に並んでいたのを憶えているものが多いので、どうしてあの時買わなかったのか…。今となっては、新古書店でも見かけないものが多く、タメ息リストですね。
ほんと、アシモフ編などは、買っていないのが不思議です。
【2009/08/13 22:36】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
モダンホラー系のアンソロジーは、玉石混淆のものが多いんですけど、時折上質のものが現われるから侮れません。
アシモフ編のアンソロジーは、どれも安定した質で楽しめます。定番作品からレア作品まで、サービス精神に富んだセレクションですね。
新潮社のアンソロジーは、今でもたまに新古書店などで見ますよ。
【2009/08/14 07:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


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