欧米の怪奇小説をめぐって  アンソロジーその4
ラテンアメリカ 東欧怪談集 キング・コングの 吸血鬼伝説―ドラキュラの末裔たち ヴァンパイア・コレクション (角川文庫) フランケンシュタイン伝説―海外ホラーSF短篇集

 河出文庫から出ていた、国別の『怪談集』は、画期的なアンソロジーでした。『イギリス怪談集』『アメリカ怪談集』『フランス怪談集』『ドイツ怪談集』『ロシア怪談集』『東欧怪談集』『ラテンアメリカ怪談集』『日本怪談集 上下』『日本怪談集 江戸編』『中国怪談集』。国別の怪談・怪奇小説を概観できるという、重厚なシリーズです。ただ『イギリス』『アメリカ』は、わりと本流の怪奇小説アンソロジーになっているのに対して、他の国のものは編者の好みが強く出た、個性的なものになっているのが特徴です。
 ティーク、ホフマン、クライストなどの古典的怪奇小説から始まりながらも、後半になるに従って前衛色を強めていく『ドイツ怪談集』(種村季弘編)。「マジック・リアリズム」作品を中心に集め、SF色も濃厚な『ラテンアメリカ怪談集』(鼓直編)、流麗かつ耽美的な作品を集めた『フランス怪談集』(日影丈吉編)、ポーランド、チェコ、ハンガリーなど対象地域が多いため、雑多な作家が集められているがゆえにバラエティ豊かな『東欧怪談集』(沼野充義編)あたりがお勧めですね。
 もちろん正統派の怪奇小説を集めた『イギリス怪談集』(由良君美編)と『アメリカ怪談集』(荒俣宏編)も上質のアンソロジーです。『イギリス怪談集』では、ブラックウッドやレ・ファニュなどの大家に混じって、A・N・L・マンビー、E & H・ヘロンなどのマイナー作品を読めるのが収穫。『アメリカ怪談集』は、ポオ、ビアス、ホーソーン、ヘンリー・ジェイムズ、ラヴクラフトと、アメリカ怪談の歴史を踏まえた手堅い編集です。
 『怪談集』シリーズについて詳しくは、こちらの記事をどうぞ。
 マイクル・パリー編になる三冊のアンソロジー、『ドラキュラのライヴァルたち』 『キング・コングのライヴァルたち』『フランケンシュタインのライヴァルたち』(全てハヤカワ文庫NV)は、有名な三つのモンスターをテーマに編んだアンソロジーです。古典から現代まで、範囲は幅広く、かつ楽しめる作品を集めています。有名な作品よりも、マイナーな作品を中心に選んでいるので、他では読めない作品が多数収録されています。
 『ドラキュラのライヴァルたち』 では、フレデリック・カウルズ、ジャン・レイ、E・エヴァレット・エヴァンズらの珍しい吸血鬼小説が読めます。中でも、作者不詳の『謎の男』が素晴らしい一品。
 『キング・コングのライヴァルたち』は、キング・コングをテーマにしていますが、キング・コングそのものを扱うと言うよりは、「怪獣」小説集といった趣になっています。キット・リード『巨大な赤ん坊の攻撃』やヘンリー・カットナー『花と怪獣』など、ユーモアも交えた作品が入っているのがユニークですね。
 『フランケンシュタインのライヴァルたち』 は、古典よりではありますが、「ロボット怪談集」として秀逸な出来栄えです。ビアス『モクスンの傑作』、ジェローム・K・ジェローム『ダンシング・パートナー』などの名作に加え、フリッツ・ライバー、イアンド・ビンダー、クラーク・アシュトン・スミスらの作品を収録しています。
 仁賀克雄編『吸血鬼伝説 ドラキュラの末裔たち』 (原書房)は、1930~50年代ごろの異色作家・怪奇作家を中心に集めた吸血鬼ものアンソロジーです。B級というか「パルプ・ホラー」的作品が好きな方にはたまらないラインナップになっています。リチャード・マシスン、ロバート・ブロック、エドモンド・ハミルトン、オーガスト・ダーレス、シーバリー・クインなど。
 種村季弘編『ドラキュラ・ドラキュラ』 (河出文庫)は、編者らしく、ひねりの利いた吸血鬼短編を集めています。『グヅラ』(プロスペル・メリメ)、『吸血鬼』(ジャン・ポリドリ)、『吸血鬼の女』(E・T・A・ホフマン)など文学的な吸血鬼小説が並ぶ前半に比べ、後半の作品『吸血鬼を救いにいこう』(ベレン)、『受身の吸血鬼』(ジェラシム・ルカ)、『ドラキュラ ドラキュラ』(H・C・アルトマン)あたりは、ほとんどパロディかナンセンス風味の作品になっているという、前衛的な吸血鬼アンソロジーです。
 ピーター・ヘイニング編『ヴァンパイア・コレクション』 (角川文庫)は、アンソロジストとして知られるヘイニングの手になる非常に充実したアンソロジーです。全体を「古典的吸血鬼譚」「フィルムの中の吸血鬼たち」「現代に甦るヴァンパイア」の三部に分け、それぞれの傾向で分類した作品を収録するという、整然とした構成になっています。しかも有名作を避け、知られざる名作を中心に収録するという、ファンには嬉しいつくり。「古典」の部でさえ、ポリドリ、レ・ファニュなどのビッグ・ネームを除いているのがすごいところです。珍しいデュマの吸血鬼譚『蒼白の貴婦人』(アレクサンドル・デュマ)、ホーソーンの息子ジュリアンの作『白い肩の女』(ジュリアン・ホーソーン)などが読めるのが嬉しいですね。
 「フィルムの中の吸血鬼たち」は、主に映画としての吸血鬼を扱っています。「現代に甦るヴァンパイア」は、現代に近い時代に書かれた作品を集めています。レイ・ブラッドベリ、シオドア・スタージョン、ロジャー・ゼラズニイ、ウイリアム・F・ノーランなど。
 スティーヴン・ジョーンズ編『フランケンシュタイン伝説 海外ホラーSF短篇集』 は、「フランケンシュタイン」をテーマにしたアンソロジーですが、ホラーというよりはSF的な要素の方が全体に強い感じがしますね。R・チェットウィンド=ヘイズ、マンリー・ウェイド・ウェルマン、 グレアム・マスタートン、ピーター・トリメインなど。正直、作品の出来不出来が激しいです。 

 アンソロジーその5に続きます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
国別ホラー
こんばんは。
第4弾ですね!
「国別・・・」は、だんだん私にはハードになっていって、挫折(たしかよんだはずですが)していったような気がします。
「ドラキュラのライヴァルたち」→これも、ドラキュラのみで挫折したような。

などなど、自分の「ホラー挫折史」になりそうです。
【2009/08/07 23:42】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
『怪談集』シリーズ、たしかに後半はかなりマニアックでしたからね。最後に出た『東欧怪談集』なんて、収録作家が知らない作家ばっかりだったりして、すごいなと思った覚えがあります。
『~ライヴァルたち』シリーズは、知られざる名作をセレクトした感があって、いいアンソロジーだと思います。とくに『フランケンシュタインのライヴァルたち』 は「人形怪談」「ロボット怪談」として秀作揃いなので、どこかで復刊してほしいものです。
【2009/08/08 08:54】 URL | kazuou #- [ 編集]

フランケンシュタインもの
怪奇小説好きは、このズラリと並んだタイトルを見てるだけで楽しいです。
『フランケンシュタインのライヴァルたち』 はいいですよね。
なんといっても「イルルニュの巨人」が入っているんですもの。
「死んでいる男」、「鉄の男」も好きな作品です。
このアンソロジーはほんとにハズレがない、秀作揃いでしたよね。
【2009/08/08 10:20】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>タツナミソウさん
『~ライヴァルたち』シリーズは、どれもハズレのないアンソロジーだったと思います。『フランケンシュタインのライヴァルたち』 でも、テーマの「フランケンシュタイン」にとらわれないで、広い範囲で作品をセレクトしているところが素晴らしいですね。
今回の記事の最後でとりあげている『フランケンシュタイン伝説』と比べると、その差が歴然とします。モダンホラー以降の書き下ろしアンソロジーって、やっぱり凡作が多くなってしまうので、コストパフォーマンス的にどうかな、っていうものが多いんですよね。
【2009/08/08 11:17】 URL | kazuou #- [ 編集]

マッド・サイエンティスト
ふと思い出したので…
この辺のアンソロジーでちょっと印象が残ったものに、確か創元から出ていた「マッド・サイエンティスト」というのがありました。これもこの辺のアンソロジーの仲間かなぁと…
特に、巻頭のレイ・ラッセルの「サルドニクス」と、つづくラムジー・キャンベルの「自分を探して」の印象が強烈でした。

このうち、「自分を探して」は、一発オチものですが、読んだときに結構驚いて、これが書ける作家なら短編集を1冊読んでも損はないかも…などと思ったりしましたが、訳される様子はないですね(笑)
キャンベルは海外(というかアメリカ?)で短編の評価が高いとも聞きますが、長編やアンソロジーに載っている短編がいまいちなためか、日本での評価は芳しくなさそうですけれど…
【2009/09/11 01:37】 URL | Green #PyA865YY [ 編集]

>Greenさん
『マッド・サイエンティスト』は忘れていました。あれもいいアンソロジーでしたね。旧版の表紙が、かなりおどろおどろしかったのが印象に残ってます。ほどよく怪奇味と物語性のかみあった作品が多くて、楽しく読みました。

そうなんですよね。ラムジー・キャンベルって、達者な作家だと思うんですけど、邦訳された作品はどうも、いまいちな作品が多かった気がします。時折ハッとさせられる短篇もあったりするんですけどね。短編集をまとめて読んだら、ちょっと印象が変わりそうな気がするんですけど、邦訳は難しいんでしょうね。
【2009/09/11 21:10】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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