死ぬまで愛して  日影丈吉編『フランス怪談集』
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フランス怪談集
日影 丈吉
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 今回は日影丈吉編『フランス怪談集』(河出文庫)です。先日の記事でも紹介しましたが、本書は「怪談」というよりは「幻想小説集」です。「フランスに怪談はない」と言ったのは、ハインリヒ・ハイネですが、確かにフランスの作品は怪奇よりも幻想に流れる傾向があるとはいえるでしょう。例えば、同種のアンソロジーである、澁澤龍彦編『怪奇小説傑作集4 フランス編』(創元推理文庫)を見ても、全体的な雰囲気は本書と共通しています。それでは、面白かったものを紹介します。
 ジェラール・ド・ネルヴァル『魔法の手』は、文字通り魔法をかけられた手を描く奇譚。ホフマンに影響されたと思しい、不気味ながらも妙なおかしさのある作品。似たようなテーマの作品にW・F・ハーヴィー『五本指の怪物』なんて作品もありますが、これはまた別の機会に。
 テオフィル・ゴーチェ『死霊の恋』は、死霊の女に取り憑かれた青年僧の物語。「吸血鬼」テーマとしても有名な作品です。この手の作品史上、もっとも可憐な吸血鬼が登場します。
 バルベー・ドールヴィイ『深紅のカーテン』は、ダンディとして知られた貴族が、初恋の女性について回想する物語、と思わせておいて後半急展開が待っています。サスペンスに富んだ好編です。
 マルセル・シュオッブ『木乃伊つくる女』は、アフリカの砂漠に迷い込んだ兄弟が出会う木乃伊づくりの女たちを描く作品。短い掌編ですが、切れ味するどい作品です。
 モーリス・ルヴェル『或る精神異常者』は、残酷味のあるコント。世間の快楽に倦んだ青年が、ある空中自転車乗りの見せ物に通いつめます。彼の目的とは…。ルヴェルの作品は、近年、短編集『夜鳥』(田中早苗訳 創元推理文庫)が出ましたので、そちらで読むこともできます。
 ピエール・ド・マンディアルグ『死の劇場』は、十五歳以上の女は全て、臨終の際に円形劇場の舞台で、男たちの目の前で死ななければならない、という奇怪な掟のある村に迷い込んだ男の不思議な体験を描いています。何やら悪夢めいた雰囲気の作品。
 ミシェル・ド・ゲルドロード『代書人』は、美術館に足繁く通ううちに、代書人の蝋人形にふと友情めいた気持ちを抱くようになった男の物語。男の心象風景のような記述が延々と続くのですが、結末には驚かされるはず。「分身」テーマの佳作です。
 さて本書のハイライトは、プロスペール・メリメ『イールのヴィーナス』です。この作品のメインテーマは、ティム・バートン監督『コープス・ブライド』でも使われていたもの。「死者との結婚」テーマのヴァリエーションといっていいでしょう。
 イールの町を訪れた「私」は、町の資産家ペイレオラード氏の家に招待されます。ペイレオラード氏は、古木を引き抜く際に発見したというローマ時代のものらしきヴィーナス像を「私」に見せます。ヴィーナス像はまさに傑作でした。その美しさに「私」はうたれますが、どこか邪悪なものも感じます。
 ペイレオラード氏は、息子アルフォンスの結婚式を控えており、ヴィーナス像にちなんで金曜日に式をやろうと考えます。夫人は神を汚すといさめますが、ペイレオラード氏は意に介しません。
 結局、式は実行され、アルフォンスは、仲間たちと余興のスポーツを始めます。競技に熱中し出した彼は、つけっぱなしの結婚指輪が邪魔になり始めます。

 彼は、かなり骨を折って、ダイヤ入りの例の指輪をはずした。私はそれを受け取ろうとして進み寄った。けれども彼の方がその先を越して、ヴィーナスのところへかけ寄ったと思うと、その指輪を女神の無名指に通し、それから再びイール勢の先頭の自分の部署についた。

 おかげで競技には大勝したものの、アルフォンスは帰り道、高価な指輪をヴィーナス像に嵌めたまま忘れてきたことに気付き、ひとり取りに戻ります。その夜、夕食の席で、アルフォンスは異様な顔つきで「私」に相談したいことがあると持ちかけます。
 それはヴィーナス像に嵌めた指輪のことでした。像から指輪がはずせないというのです! 力を込めなかったのではないかという「私」の意見を、アルフォンスは必死で否定します。

 「ちがいます。そうじゃないのです。ヴィーナスの指が引っこめられたのです。もとにまげられてしまったのです。手を握っているのです。おわかりですか?……形の上からは、僕の妻なのです、私が指輪をやってしまったものですから……返してくれようとしないのです」

 「私」は酔いが回っているのだろうと取り合いませんが、その夜、悲劇が起こるのです…。
 この作品、結末はおそらく読めてしまうと思うのですが、それを差し引いてもヴィーナス像の不気味さは強烈です。おそらく西洋の読者は、異教的な不気味さをも合わせて感じ取るのでしょう。その点は残念ですが、結末のイメージの鮮烈さは素晴らしいものがあります。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
表紙がルドン
ゴーチエにルヴェル!そして表紙はルドンとくれば買うしかないでしょう!
でも、品切れの予感が。
『死霊の恋』のクラリモンド嬢は岩波で読んだ田辺貞之助訳が可憐且つ
お上品な感じで好きです。
ルヴェルは短編集『夜鳥』が創元推理文庫で復刊されたのをヘビロテ気味に読んでいます。
【2006/03/09 16:10】 URL | イーゲル #- [ 編集]


このルドンの表紙、すごく内容にマッチしていると思います。それに僕はルドンを、この本の表紙で知ったぐらいですし。『怪談集』シリーズの表紙って、どれもけっこういい装丁なんですよね。
ゴーチェの『死女の恋』の訳は、たぶん岩波に収録されているのと同じだと思いますよ。ルヴェルは『夜鳥』で読めるし。でもこの本が出た当時、ルヴェルの作品が読めたのはこれだけだったんですよね。それだけでも本書が出た価値はあったと思うぐらいです。
【2006/03/09 19:32】 URL | kazuou #- [ 編集]


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芥川龍之介で読む海外文学

芥川龍之介といえば何を思い出しますか?「羅生門」「地獄変」「くもの糸」「鼻」・・・・いろいろありますね。ところが、芥川はいくつかの訳本を手がけているのです。私が図書館から借りている岩波書店版「芥川龍之介全集」は、初期の作品から年代順に作品を編集しており、 くろにゃんこの読書日記【2006/03/08 23:21】

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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