女性のための幽霊物語  川本静子・佐藤宏子編訳『ゴースト・ストーリー傑作選』
462207463Xゴースト・ストーリー傑作選――英米女性作家8短篇
川本静子・佐藤宏子
みすず書房 2009-05-23

by G-Tools

 みすず書房から刊行された『ゴースト・ストーリー傑作選 英米女性作家8短篇』(川本静子・佐藤宏子編訳)は、英米の女性作家による怪奇小説を集めたアンソロジーであり、怪奇小説ファンにとっては、ひじょうにありがたい企画です。
 ただ、『淑やかな悪夢』(倉阪鬼一郎ほか編訳 創元推理文庫)や、梅田正彦による二冊のアンソロジー『ざくろの実―アメリカ女流作家怪奇小説選』『鼻のある男―イギリス女流作家怪奇小説選』という、同テーマのアンソロジーがいくつも出てしまっている現在では、やはりその有り難みは半減してしまいます。それに加えて、今回のアンソロジー、編者がどうやらアカデミック畑の方らしいということと、収録作品が8つと少なめなことから、正直、あまり期待せずに読み始めました。
 意外、と言っては失礼ですが、訳文はこなれていて、かなり読みやすくなっています。そして、肝心の内容の方ですが、こちらも安定した出来で、楽しむことができました。それでは、いくつか紹介していきましょう。

 エリザベス・ギャスケル『老いた子守り女の話』 両親を亡くし、親戚の家に預けられた娘は、雪の中で凍える幼い女の子を目撃し、彼女を助けてと懇願します。それを聞いた邸の老嬢は驚愕します。それは数十年以上前に、彼女が見殺しにした姪だったのです…。
 アンソロジー・ピースとしても有名な、ギャスケルの名作短編です。かっての悲劇が目の前で再現される、というオーソドックスな展開ながら、落ち着いた語り口と滋味のある描写で読ませます。

 メアリー・エリザベス・ブラッドン『冷たい抱擁』 絶対の愛を誓いあった、いとこ同士のふたり。しかし画家である男は、外国に渡り、婚約者のことを忘れてしまいます。父親から意に染まぬ結婚を強制された女は、自ら死を選びます。やがて故郷に戻った男の身に不可解な現象が起こり始めます…。
 背後から首に巻き付く腕だけの幽霊、というのが恐怖感を煽ります。無人の大広間で、男が死ぬまで踊らされるという結末のシーンはじつに圧巻。

 シャーロット・リデル『ヴォクスホール通りの古家』 父親と仲たがいした青年は家を飛び出しますが、行く当てはありません。やがて出会ったかっての使用人の好意で、古い家に泊めてもらうことになりますが、そこはかって殺人があった家でした。やがて青年は不思議な夢を見て…。
 幽霊と出会った経験が青年を成長させ、親子の和解をもたらすという、成長小説的な側面も持つユニークな作品。

 ヴァイオレット・ハント『祈り』 死んだ夫のベッドの横で、ひたすら祈り続ける妻。そのかいあって、夫は奇跡的に生き返ります。しかしそれ以後、夫は冷たい人間になり、子供すらも怖がって近付かなくなってしまいます。やがて夫婦の間には破局が訪れて…。
 夫が生き返ったのは超自然的な現象なのかは、はっきりと示されません。それゆえ夫婦間の破局が、超自然によるものなのかそうでないのか、両方の解釈が可能となっています。

 ケイト・ショパン『手紙』 死期を予期した妻は、かって恋人と交わした手紙を焼き捨てていきます。しかしどうしても捨てられない手紙が残ってしまいます。開封せずに処分してくれと、妻から託された夫は、迷いつつも、河へ投げ捨てます。しかし失われた妻の秘密に対し、夫は煩悶を繰り返します…。
 妻の秘密とはいったい何だったのか? 信頼を受け、それに応えた夫はしかし、やり切れない思いにとらわれます。固有名詞や具体的な時日を排しているため、かなり象徴性が高く、寓意の強い作品になっています

 メアリ・ウィルキンズ・フリーマン『ルエラ・ミラー』 愛らしい容姿を持ち、見る人を魅了せずにはおかない若い娘、ルエラ・ミラー。しかし彼女に関わる人間はみな、早死にしてしまうのです。夫をはじめ、義妹、手伝いにきてくれる娘や親戚、やがて再婚した相手もまた死んでしまいます。村中から忌まれるようになった彼女はやがて衰弱していきますが…。
 周りの人間の精気を吸い取ってしまうかのような娘ルエラ・ミラー。しかし彼女自身にその自覚は全くありません。精神的な吸血鬼小説、という解釈も可能でしょう。語り手となる老婆のキャラクターと語り口になかなか魅力があります。

 全体にレベルの高いアンソロジーではあるのですが、収録作品が少な目なことと、それにしては高い定価(3360円)なので、コストパフォーマンスを考えると、いちがいにお勧めしかねる本ではあります。マニアのためのアンソロジーといえるでしょうか。
この記事に対するコメント

この本、やはりコストパフォーマンスが悪いので、図書館待ちになってます。
しかし、ケイト・ショパンの短編は珍しいですよね。
ミステリ・マガジンにケイト・チョピンという名前で「形見」というラブストーリーが掲載されていたことがあります(87年8月)

有名なのは長編「目覚め」ですが、あれは「女性の自立文学?」なんで・・・

読むのが楽しみです。
【2009/06/15 20:42】 URL | fontanka #- [ 編集]

ですよね
出版社が出版社だし、たぶん、少部数なのだと思います。
個人的には、買い!だったのですが、一般読者の方は、あんまり手に取らないんでしょうね。なかなかいいアンソロジーだったのですが、あまりにも行儀がいいというか、サプライズがないという意味では、ちょっと物足りなかった点もありますね。

ケイト・ショパンは、文学畑では有名なんでしょうか。僕は全然馴染みのない名前だったんですが。ちなみに『ミステリマガジン』のケイト・チョピン名義の作品は、たぶん読んだことがあります。中身は全然覚えてないんですけど。
【2009/06/15 20:59】 URL | kazuou #- [ 編集]


ケイト・ショパンの「形見」というのは、南部の恋人達の話です。
南北戦争で兵士が戦死。彼が死に際まで持っていたロケット(女性の写真が入っている)が、その写真の主に届けられます。
彼女は、これで自分の人生も終わったと、彼の喪に服す決心をしますが。
その彼女の前に彼が現れる・・・・です。(思い出しました?)

ケイト・ショパンの事を書いた私のブログのアドレスを今回はっておきます。


【2009/06/18 22:31】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
うーん、読んだような読んでないような…。読んでいるのはほぼ確かなんですけどね。確か浅倉久志が選んだ短編コーナーで紹介されていたものですよね。
『SFマガジン』でも、ときたま浅倉久志の選んだSF短編コーナーが載ってるんですけど、やっぱりこの人は目利きですね。
【2009/06/19 21:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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