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SFのふるさと  山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』正・続
4896918320トンデモ本?違う、SFだ!
山本 弘
洋泉社 2004-07

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4862480098トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS
山本 弘
洋泉社 2006-03-01

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 数あるSF関連ガイドの中でも、これほど楽しく読める本は、なかなかないでしょう。山本弘『トンデモ本?違う、SFだ!』と続編である『トンデモ本?違う、SFだ! RETURNS』(ともに洋泉社)は、かってSFが持っていた原初的な面白さ、「センス・オブ・ワンダー」にあふれた作品を紹介しようというコンセプトのガイドです。
 ここで取り上げられるのは、正統派のSFというよりも、読者をあっと驚かせてくれるアイディアに溢れた作品たち。結果、長編よりも短編、メジャーよりもマイナーな作品が多数を占めています。著者の山本弘は、このあたりの事情を次のように語っています。

 私見だが、SF作家の偉大さは「バカ度」で決まると思っている。世間の目を気にしてか、あるいは自己満足か、地味で飛躍のないブンガク的作品しか書かない作家は、普通の作家としてならともかく、SF作家としての適性には欠けている。異星人の侵略、パラレルワールド、タイムトラベル、日本沈没……「そんなバカなことがあってたまるか!」と一笑に付されるような荒唐無稽な設定を、バカにすることなく、信念を持って、真剣に書き上げるのが、本物のSF作家なのだ。
 こう言い換えてもいい。
 「SFとは筋のとおったバカ話である」


 一般的にも名の知られたフレドリック・ブラウンやシオドア・スタージョンはともかく、チャールズ・L・ハーネス、ダニエル・F・ガロイ、トム・ゴドウィン、フィリップ・レイサムあたりになると、あまり馴染みのない人がいるかもしれません。しかし、これらのマイナー作家のマイナー作品にこそ、力の入った紹介がなされています。
 とにかく著者の「面白い作品をぜひ読んでもらいたい」という熱意が伝わってくるような文章で、実際に作品を読んでみたくなってきます。
 基本的には、特定作家の作品を章ごとに紹介するスタイルをとっていますが、もちろんその中で、同じ作家の別の作品や関連作品についても言及されていて、よくできたガイドになっています。あとは「インターミッション」として、テーマ別に書かれた長めのエッセイが入っていますが、これがまたどれも面白い!
 『マレイ・ラインスターの魅力』『タイムトラベルSFオンパレード』『海外SF、名タイトル総まくり』『SF版ノックスの十戒を考えよう』『パラノイアSFの系譜』『あの名作の元ネタはこれだ!』など、興味深いテーマが並びます。
 とくに、タイムトラベルの各種類ごとに作品を分類した『タイムトラベルSFオンパレード』と、本当はこの世界は現実ではない…というテーマを並べた『パラノイアSFの系譜』の充実度は半端ではありません。
 紹介されている主だった作品は、1940年~50年代の海外SFが中心となってはいますが、現代の作品やマンガ、映画作品にも筆が割かれていて、とにかく「面白くてしょうがない」作品を集めたという感じの、楽しいおもちゃ箱のような本です。
 正続、二冊のガイドを読み終えたら、読みたい本がたくさん増えているはずです。実際、僕も、ライトノベルだと思って手を出していなかった高畑京一郎『タイム・リープ』や谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』を読む気になったのは、この本のおかげです。
 SFを読んでみようかなと思っているSF初心者の方、そしてSFからは離れてしまった往年の読者の方にもお勧めしたいSFガイドです。
この記事に対するコメント
SF版ノックスの十戒!
>1940年~50年代の海外SFが中心

これは魅かれます!
『SF版ノックスの十戒を考えよう』なる言葉を見て、あれこれ考え出してしまいました。
この著者のノリは期待できますよね。是非手にしたい一冊です。

ところで…kazuouさんの『涼宮ハルヒの憂鬱』(未読ですが)のレビューを読みたいような。
【2009/05/19 20:41】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
著者は科学考証には細かいだけあって、「SF版十戒」もわりと真面目に考えられています。「異星人は人間そっくりであってはならない」とか「未来を描くのに現代のテクノロジーをそのまま出してはならない」とか、どれもなるほどと頷けるものになってます。
「読んで面白い」ガイド本としては、野田昌宏の著作と並んで、ぜひおすすめしたい本ですね。

『涼宮ハルヒの憂鬱』は、実はかなりSF度が高くて、SFファンなら、かなり楽しめると思います。いずれレビューもしたいと思っております。

【2009/05/19 22:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


空想科学小説とよばれていたころの作品は好きですね。
この本も楽しめそうな気がします。
山本さんには、ガチガチのハード好き、
っていうイメージをもってるんですけど。
【2009/05/20 12:28】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

>kennさん
「ガチガチのハード好き」ではありますけど、「B級SF」や「バカSF」にも愛情を示しているところにSF愛が感じられて、好感を抱きますね。
山本氏の実作も、古き良き「センス・オブ・ワンダー」が感じられる作品が多くて、個人的には大好きです。
【2009/05/20 19:14】 URL | kazuou #- [ 編集]


そうですね。
ぼくも山本さんの作品には好きなのが多いです。
【2009/05/21 12:27】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

SFファンの原点
 私は山本弘さんと同世代です(山本さんは1歳上)。この本を読むと、同じような本を読み、同じようなことを考えながら青春時代を送ったんだなあと仲間意識を覚えるとともに、ノスタルジーに包まれます。
 センス・オブ・ワンダーに満ちたバカ話、これがSFの魅力だと思います。
【2009/05/22 20:17】 URL | 高井 信 #XPm8LtR2 [ 編集]

>高井 信さん
正直、ニューウェーブ以降の現代SFにとっつきにくさを覚える人間としては、山本さんがおっしゃるような「荒唐無稽」だけれど「楽しい」SFというスタンスには、非常に共感を覚えます。
現代のSFはある意味「洗練」されている代わりに、「バカ話」の魅力が少なくなっているような気もしますね。
【2009/05/23 16:29】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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