幻想と怪奇と恐怖  怪奇小説アンソロジーの難しさ
 今月発売予定の『新・幻想と怪奇』(仁賀克雄編訳 ハヤカワ・ミステリ)の収録内容が、早川書房の新刊案内で発表されました。

 ローズマリー・ティンパリー『マーサの夕食』
 ゼナ・ヘンダースン『闇が遊びにやってきた』
 ロバート・シェクリイ『思考の匂い』
 チャールズ・ボーモント『不眠の一夜』
 ジョージ・フィ-ルディング・エリオット『銅の鋺』
 ゴア・ヴィダール『こまどり』
 アンソニイ・バウチャー『ジェリー・マロイの供述』
 アラン・ナース『虎の尾』
 フィリップ・ホセ・ファーマー『切り裂きジャックはわたしの父』
 リチャード・ウィルスン『ひとけのない道路』
 ウィリアム・テン『奇妙なテナント』
 マンリー・ウェイド・ウェルマン『悪魔を侮るな』
 A・M・バレイジ『暗闇のかくれんぼ』
 リチャード・マシスン『万能人形』
 ロバート・ブロック『スクリーンの陰に』
 レイ・ラッセル『射手座』
 ローズマリー・ティンパリー『レイチェルとサイモン』

 ロバート・シェクリイ、チャールズ・ボーモント、リチャード・マシスン、ロバート・ブロックなど、いわゆる異色作家中心のアンソロジーになるようです。個人的には、ローズマリー・ティンパリーの作品が二編収録というところが嬉しいですね。
 さて、『新・幻想と怪奇』というタイトルから察しがつくと思いますが、すでに『幻想と怪奇』というタイトルのアンソロジーが存在します。ただ問題は、同名のタイトルがいくつかあるということ。ひとつは、同じハヤカワ・ミステリから出ている都筑道夫編の『幻想と怪奇』。そしてもう一つは、今回のアンソロジーと同じ編者、仁賀克雄の手になるハヤカワ文庫版の『幻想と怪奇』です。さらにややこしいことに、70年代に刊行された雑誌の『幻想と怪奇』も存在します。
 考えてみると、怪奇小説アンソロジーって似た名前の本が多いんですよね。例えば、月刊ペン社から出たアンソロジーは『恐怖と幻想』、角川文庫から出たのは、これまた似たタイトルの『怪奇と幻想』です。初心者は間違えそうですね。
 ちょっと今、思い付いた怪奇小説アンソロジーのタイトルを並べてみましょう。ちなみに日本で編まれたアンソロジーに限ります。

 都筑道夫編『幻想と怪奇』 (ハヤカワ・ミステリ)
 矢野浩三郎編『恐怖と幻想』(月刊ペン社)
 矢野浩三郎編『怪奇と幻想』(角川文庫)
 仁賀克雄編『幻想と怪奇』(ハヤカワ文庫NV)
 平井呈一ほか編『怪奇小説傑作集』(創元推理文庫)
 平井呈一編『恐怖の愉しみ』(創元推理文庫)
 南條竹則編『怪談の悦び』(創元推理文庫)
 中野善夫、吉村満美子編『怪奇礼賛』(創元推理文庫)
 倉阪鬼一郎、南條竹則、西崎憲『淑やかな悪夢』(創元推理文庫)
 中田耕治編『恐怖の1ダース』(講談社文庫)
 中田耕治編『恐怖通信』(河出文庫)
 西崎憲編『怪奇小説の世紀』(国書刊行会)
 
 うーん、厳密にはみな違う名前ですが、似たような印象のタイトルが多いですね。何でこんなに似たようなタイトルが多いんでしょうか。
 数十年前のものだと、戦略的にわざとこういうタイトルにした、という考え方もできそうです。今だったら、収録作品のどれかをタイトルにしたり、アンソロジーのテーマに沿ったタイトルをつけたりしますが、それだとパッとタイトルを見て、どういう内容のアンソロジーかがわかりにくいですし。少なくとも「怪奇」とか「恐怖」という名詞があれば、ホラー関係の内容だというのは一目瞭然です。
 問題は、近年刊行されたアンソロジーでも、似たようなタイトルがつけられているものがある、ということです。それもまあ、わが国のアンソロジーの伝統に連なるタイトルをつけていると考えれば、納得はできますが。
 それだけに、似たようなタイトルの中にあって、たまにユニークなタイトルに出会うと印象が残りますね。上に挙げた書名の中では、『淑やかな悪夢』なんかは、インパクトのあるタイトルだと思います。
 ここでふと考えると、日本で編まれた怪奇小説アンソロジーって、ほとんどテーマ別に編まれたものがないんじゃないか、と思い当たりました。テーマがあれば、それに沿ったタイトルをつけられますが、ないとすれば、タイトルをつけるのも難しいですよね。その意味では、抽象的な「怪奇」や「恐怖」を使ったタイトルは無難なのかもしれません。
 個人的には、無骨で地味な「怪奇」やら「恐怖」のついたタイトルも好きなのですが、もっとユニークなタイトルも見てみたい、と思っています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

 『新・幻想と怪奇』、初めと終わりにローズマリー・ティンパリーの作品を配して、その間に異色作家がずらりと並びましたね。
この顔ぶれにまじってバレイジが取り上げられていますが、題名から察するに『スミー』あるいは『13人の鬼あそび』という邦訳作品の再訳でしょうか?
 いずれにしても今月の楽しみな1冊ではあります。

 「怪奇」「恐怖」「幻想」を書名に用いたアンソロジーはこう見ると確かに多く、ただ、その多くがインターネットが普及していない頃に刊行され、類似した書名にも関わらず収録作品のダブりが思ったより少ないのは、編者や訳者に怪奇プロパーの方が多いからでしょうか。

 やはり今月みすず書房から刊行される英米女流作家のアンソロジーは、ブラッドン等の作品が収録されているようですが、既刊のアンソロジーとなるべく作品が重ならないことを期待したいですね。

 
【2009/05/06 19:15】 URL | newt #- [ 編集]

テーマ別は難しい?
たとえば、相手の正体が吸血鬼だったというオチの短編は、“吸血鬼アンソロジー”には収めにくいかもしれませんね。テーマ別は難しいかもしれません。
もっとも、鉄道怪談とかは可能でしょうか(あるかも)。

それはさておき、ご紹介の新刊、楽しみです。SF作家が多いような気もしますが、よく考えてみると日本での紹介のされかたがSF偏重だっただけで、本国でのレッテルはまた別なんでしょうね。
【2009/05/06 19:56】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>newtさん
既訳がけっこう混ざっていそうですが、ティンパリーを始め、初訳作品がかなり入っているので、刊行を楽しみにしています。
仁賀氏は、どこかの文章でバレイジの『スミー』について、愛着のある作品だと言っていた覚えがあるので、これの再録または新訳のような気がしますね。

そうですね。1960~70年代のアンソロジーは、編者がそのジャンルのファンであり、また読者もかなりのマニアである、という前提があったような気がします。不特定多数の読者に訴える必然性があまりなかったために、収録作品の重複が少なかったり、タイトルが似ていてもそんなに影響がなかったんじゃないでしょうか。

みすず書房の方のアンソロジーは、クラシック重視のようですが、この手の本の前例がない版元だけに、気になりますね。
【2009/05/06 21:16】 URL | kazuou #- [ 編集]

>迷跡さん
「鉄道ミステリ」のアンソロジーは割とあるので、「鉄道怪談」アンソロジーも可能な気がします。
探せばたいていのテーマでアンソロジーは作れると思います。ただ、現代に近い年代に書かれたエンタテインメント作品ならともかく、クラシックな怪談集で、テーマ別アンソロジーを作るのは難しそうです。

パルプマガジン時代から活躍している異色作家は、たいていのジャンルで作品を発表しているので、あんまりひとつのジャンルの作家、という意識は低いんじゃないでしょうか。
【2009/05/06 21:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


日本で編纂されたアンソロジーがこんなにあるのですね。
読んでいるはずと思いながら、確かにタイトルだけでは???記憶がさだかではありませんね。
今回のアンソロジーにゴア・ヴィダルの名前を見てちょっと驚きです。
エドガー・ボックス名義のポケミスも読みましたが、ヴィダルは「都市と柱」があまりにスキャンダラスだったため&カポーティとの話とか、作品より別な方面で有名になってしまって作品がきちんと紹介されていないようで、どんな作品か楽しみです。
【2009/05/06 22:58】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
やっぱり、似たようなタイトルが多いと間違えますよね。書名だけだと、ネットで注文するのにも混乱しそうです。

ゴア・ヴィダルの『こまどり』は、たしか旧異色作家短編集の最終巻に入っていた作品じゃないでしょうか。純文学寄りの境界的な作品だったと思います。
【2009/05/07 20:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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恐怖と幻想と幻想と怪奇と怪奇と幻想と幻想と恐怖と: 購入履歴・古本編7

 今回購入したのは雑誌。中古なので古雑誌。ただ「古雑誌」と書くと、「回収」の文字が浮かんでくる不思議。  買ったのは『幻想と怪奇』。1973年の創刊号から3号までをセットで。    本当は、... 買って積んで、たまに読む。日記【2011/07/01 01:35】

プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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