現実と虚構  埋もれた短編発掘その26 アン・ベイヤー『血縁』
 わたしの存在は現実なのか? それとも…? 現実を模倣する物語、そして物語を模倣する現実。
 アン・ベイヤー『血縁』『EQ 1988年1月号』光文社収録)は、現実感覚を狂わせるようなふしぎな物語です。
 ルイーズは、犬猿の仲である妹コーラが書いた小説がベストセラーになったことを知ります。その作品の表紙を見たルイーズは驚きます。

 表紙には、コーラ・スタツィオーネ作、長編小説『死せる贈り物』と書かれている。その下に、床に倒れて死んでいる女の絵。女の眼鏡がひんまがって、顔の横を血がしたたりおちている。
 その殺人の被害者は、実在のある人物に似ていた。つまりわたしだ。読んだから、わかっている。


 そして絵だけではなく、小説の中に登場する女の人物像もまたルイーズにそっくりなのです。
 周りの人間がみな妹のことを話題にのせるのに嫌気がさしたルイーズは、ふと入った旅行代理店でノルウェイへの旅行を申し込みます。
 イェーテボリからノルウェイ行きの船に乗り込んだルイーズは、資産家のボールドウィン・マーシャルという男と知り合います。コーラ・スタツィオーネと関係があるのかと訊ねられ、仕方なくルイーズは妹だと答えます。しかし、続いて出てきた言葉は驚くべきものでした。なんと妹も同じ船に乗船しており、朗読会を開く予定だと言うのです。
 妹と対面したルイーズは、自分の栄光のおこぼれに預かるために現れたと非難され、口論になります。ルイーズは、妹の留守を狙って彼女の部屋に忍び込みますが、そこで見つけたのは、妹の新作小説でした。『血縁』と題されたその原稿に目を通したルイーズは驚愕します。

 わたしは凝然と目を見はった。いままでここに書いてきた物語が、そこには一言半句たがえずにくりかえされていた。なにもかもそのままそっくりだ。わたしが旅行代理店へおもむいたこと。イェーテボリへ飛んだこと。億万長者と知りあい、コーラがおなじ船にのっているのを知り、彼女と出くわし、競馬ゲームで負け、《ペールギュント》をなかば居眠りしながら聞いたこと。いったいこれはどういう意味だろう? わたしは実在の人物なのだろうか?

 混乱しながらも、ルイーズは原稿を読み続けます。もし自分の人生が描かれているなら、この現在よりも後の出来事もまた書かれているにちがいない。しかしそこに書かれていたのは、思いもかけない結末でした。なんと自分は殺されてしまうというのです。

 時間は切迫している。わたしが生き残れるチャンスはひとつだけ。なんとか自分の手で運命を書きかえなければ。だが、どうやって?

 小説に書かれていることは現実なのか? 自分は妹の小説の登場人物でしかないのだろうか? そしてルイーズのとった手段とは?
 小説と現実との不自然なまでの一致。それが妄想なのか現実なのかは、最後まで明かされません。現実と想像が入り組んだ、不可思議な味の物語です。
 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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