怪談のススメ  東雅夫『怪談文芸ハンドブック』
4840127514怪談文芸ハンドブック (幽BOOKS)
東雅夫
メディアファクトリー 2009-03-25

by G-Tools

 このたび出版された、東雅夫『怪談文芸ハンドブック』(メディアファクトリー 幽BOOKS)は、今までありそうでなかった「怪談」の入門書です。「怪奇小説」や「ホラー」ではなく、「怪談」というところがポイントですね。

 まず「幻想文学」と総称される、はなはだ広大な文芸ジャンルがあり、そのサブジャンルとして「ファンタジー」「SF」「伝奇小説」などと並んで「ホラー」として括られる一分野がある。さらにその「ホラー」の中のサブジャンルとして「怪談」がある…という構造です。

 つまり「ホラー」よりも狭い概念として「怪談」をとらえているわけです。その言葉通り、本書には、我々がイメージする現代の恐怖小説、いわゆる「モダンホラー」などは登場しません。本書でふれられるのは、欧米ならブラックウッドやマッケン、日本で言えば芥川龍之介や岡本綺堂らの時代まで。言ってみれば「クラシック」な怪談を中心に取り扱っているといっていいでしょう。
 さて内容の方ですが、まず第一部として「怪談をめぐる七つのQ&A」が置かれています。怪談の定義やその魅力、実話怪談などについて、初心者にもわかりやすく、まとめられていて参考になります。懇切な解説もさることながら、ところどころで、著者のこのジャンルに対する愛情がひしひしと感じられます。例えば、次のくだりを見るとそれがよくわかると思います。

 とはいえ、だからといって肩身の狭い思いをする必要はありません。
 ラヴクラフト先生が力説するように、怖いもの見たさに促されるまま、怪談とかホラーの世界に魅力を感ずる読者は「感受性に富む繊細な人間」であり「重要な人びと」なのですから!


 そして第二部は、世界の怪談の歴史を国別に語った歴史編になっています。ギリシャから中国の古典についてふれた第一章。欧米についてふれた第二章。そして日本の作品についてふれた第三章。
 非常に幅広い地域にわたって、古代から近代まで要領よくまとめられています。欧米のみ、もしくは日本のみなど、個々の歴史についてまとめた本は、既にありますが、ここまで広く世界中の「怪談」についてまとめられている本は初めてではないでしょうか。
 具体的に言及される作品についてだけでなく、同テーマの作品やそれに触発されたと思しい現代の作品についてふれられている点も、非常に好感が持てます。例えば『古事記』の部分では、黄泉比良坂伝承をテーマとしたものとして、小松左京、坂東眞砂子、今邑彩、倉橋由美子らの作品についても言及されています。
 ガイドブックとしては、コンパクトにまとめられた良書といえます。ただ、紹介する国や地域を幅広くとっているため、個々の分野については、少々物足りない感はあります。しかし入門書としての性格を考えると、そこまで求めるのは、欲張り過ぎというべきでしょう。
 この本で大まかな「怪談」の歴史と魅力を知ったら、興味を持った分野について、また他のガイドブックや具体的な作品について読み進む、というのも楽しいでしょう。その点では、参考文献リストなどをつけてもらえたら、もっといい入門書になったと思います。
 せっかくなので、個々の分野について、参考になるブックガイドを挙げておきたいと思います。

 中国の怪奇小説に関しては、竹田晃『中国の幽霊』(東京大学出版会)が間違いなくオススメです。
 日本のものでは、須永朝彦『日本幻想文学全景』(新書館)、『日本幻想文学史』(平凡社ライブラリー)、東雅夫・石堂藍編著『日本幻想作家名鑑』(幻想文学出版局)あたりでしょうか。
 ゴシック・ロマンスに関しては、『ゴシック幻想』(紀田順一郎ほか 書苑新社)。
 英米のゴースト・ストーリーに絞るなら、南條竹則『恐怖の黄金時代』(集英社新書)。
 欧米のホラー小説全般に関する通史なら、風間賢二『ホラー小説大全』(角川ホラー文庫)がいちばんでしょう。
 各国の幻想文学をテーマ別にまとめた『幻想文学1500ブックガイド』(「幻想文学」編集部編 国書刊行会)は、読みたいテーマで作品を探せるのがとても便利です。
 他にもいろいろ類書はありますが、主だったガイドを紹介してみました。
この記事に対するコメント
怪談入門
今日、買ってきました。
これから、ゆるりと読んでいこうと思います。
クラシックな怪談中心というところが、いいですね。
“感受性に富む繊細な人間”という言葉に励まされました(笑)
【2009/04/02 19:36】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>タツナミソウさん
とりあえず、怪奇党は必読でしょう!
古典から始まって、近代までとにかく幅広い範囲をカバーしているのがウリですね。かなり初心者を意識したつくりになっているので、マニアには少しもの足りないところもありますが、バランスのとれた「怪奇小説史」として、このジャンルの基本図書になるべき本なのは間違いないです。
【2009/04/02 21:09】 URL | kazuou #- [ 編集]

本日入手!
大部になるかと思っていたら、意外にもコンパクトでした。
なるほど、kazuouさんが好きなブックガイドにもなっていますね。

光文社新訳文庫の『白魔』の訳者解説で、かつて東雅夫がマッケンと鏡花の類似性を論じた文章を引用していましたが、幻想文学の背骨がしっかりしている筆者ならではの怪談入門書になっているのかなと。
アンソロジーの解説や雑誌掲載の文章など、東雅夫がより深く怪談を論じた文章もいずれまとめてほしいですね。
【2009/04/05 19:46】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
目配りのいきとどいた編集は、膨大な読書経験と知識が背景にあるがゆえでしょうね。
ふつう、欧米か日本かどちらかに偏りがちな類書のなかにあって、バランスのとれた配置も素晴らしいと思います。
個人的には、英米以外のヨーロッパの部分の紹介を、もう少し増やしてほしかった気はしますが、これはまあ欲張りすぎですね。

「入門書」だけに、このジャンルのファンにとっては、少し物足りない部分があるので、もっとマニアックに踏み込んだ「上級編」も出してほしいものです。
【2009/04/05 19:56】 URL | kazuou #- [ 編集]

惜しみつつ読了
なにも言うことなし! 
怪談を読む喜びに溢れた良書です。
(TBさせていただきました)
【2009/04/18 18:39】 URL | 迷跡 #8Vfzr.cc [ 編集]

「怪談」への展望
「怪談」への愛と情熱が結晶した一冊、といったら言い過ぎでしょうか。
単なる歴史の記述だけでなく、未来の「怪談」への展望にもふれているところに、見識を感じますね。
【2009/04/18 19:07】 URL | kazuou #- [ 編集]

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【2010/06/11 08:06】 | # [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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