わたしだけの世界  レアード・コーニグ『白い家の少女』
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 少女の孤独な世界に侵入者が現れたとき、悲劇は起こるのです…。今回は、子役時代のジョディ・フォスターが主演した名作映画の原作、レアード・コーニグ『白い家の少女』(加島祥造訳 新潮社)です。もともと脚本家として慣らした著者だけあって、映画化を意識して書いたものか、非常に忠実な映画化となっていました。
 ニューヨーク郊外の閑静な別荘地に越してきたイギリス人の少女リン。彼女とともに越してきた詩人の父親は、家主と三年間の契約をした後、外に全く姿を見せません。13歳のリンは学校にも通おうとせず、家でリストの曲を聴いたり、詩集を読んで過ごしています。利発な少女ではありますが、他人を寄せつけようとはしません。銀行など、町での用事も全てリンがこなしていることを、町の人間は奇妙に思いますが、とくに気には止めていませんでした。
 ある日リンのもとに、地元の有力者でリンの家主でもあるミセス・ハレットが現れます。ミセス・ハレットは父親に会いたがります。リンは、父親は留守だと言いますが、ミセス・ハレットの傲慢な態度に不快感を覚えます。

 「こんなこと言うと威張るようだけど、ハレット家はこの島に来てから三百年以上になるのよ」女はステレオのそばをはなれて、今度は寝椅子に張ったさらさ木綿を撫でた。
 「この寝椅子はあそこに置くべきよ」と彼女は丸々した指で窓のほうを指さした。


 ぶしつけな質問をはぐらかすリンの態度に、ミセス・ハレットは気を悪くします。彼女は、ついでに地下室に保存してあるジャムの瓶を持っていきたいと言いますが、リンはなぜか地下室の上げ蓋を開けるのを拒みます。後で届けるからと言うリンに、ミセス・ハレットは激怒します。その場はおとなしく帰ったミセス・ハレットでしたが、リンが学校に通っていないことを教育委員会に答申すると脅していきます。
 翌日、電話でリンはミセス・ハレットを家に呼び出します。前日の非礼をわび、ジャムの瓶を用意していたリンですが、ミセス・ハレットは取り合わず、出てゆけと高圧的に命令します。激昂したミセス・ハレットは、無理やり上げ蓋を跳ね上げ、地下室に入り込みます。そして…

 それから、彼女は悲鳴をあげた。
 その悲鳴が合図になったかのように、リンはぱっと前にとび出して、壁に立てかけてあった上げ蓋を前に倒した。蓋はぴたりと地下室の入口にはまり、下からの悲鳴を遮断した。


 ミセス・ハレットが地下室で目撃したものとは? 何が起こっても姿を現さない父親の行方は? そしてこの後にとったリンの行動とはいったい何なのでしょうか? この後リンに不審を抱いた警察官や、ミセス・ハレットの息子で変質者の噂のあるフランク・ハレットなどがリンに近づいてきます。リンは自分の心地よい世界を守ることができるのでしょうか?
 詩を愛し、孤独を愛する少女リン。彼女は犯罪を犯してしまうのですが、それも悪意があったわけではありません。あくまでも自分の静かな心地よい世界を壊そうとする人間に対して、自分の身を守ろうとするにすぎないのです。いわゆる「恐るべき子供たち」テーマの作品なのですが、そこには得体の知れない子供の不気味さはありません。むしろ犯罪を犯すリンこそが、この世界では最大の被害者として捉えられているのです。現に彼女の世界を壊そうとする大人たち、ミセス・ハレットやフランク・ハレットは、がさつで傲慢な加害者として描かれています。
 静謐な雰囲気の中にも、繊細な少女の、はかなげで、もろい世界が描かれた名作。少女の孤独な戦いは、読者に悲痛な思いを抱かせることでしょう。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

「白い家の少女」の原作本が翻訳されていたとは知りませんでした。
この映画を「日曜映画劇場」で見た衝撃は忘れられません。
J・フォスターは、「タクシー・ドライバー」でも「ダウンタウン物語」でもなく、
この「白い家の少女」のサラが一番大好きです。
(最近の彼女は・・・ですが(笑))
【2006/03/07 21:52】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]


このころのジョディ・フォスターは、本当にすばらしい演技をしてましたね。いまはたしかに…。
僕は映画を先に見ていたのですが、あとで原作を読んでみたら、細かいところまでいっしょなんでびっくりしました。あまりにも同じなんで、あまり楽しめなかったのも事実。これ、完全に映画化を前提にして書かれてます。というわけで、映画と本、どっちか見たら、一方はもういいような気もするのですが…。
内容は、殺人シーンにしても、直接描写が全然なくて、暗示にとどめているところなど、けっこう技巧的です。映画を見てなかったら、かなり楽しめたと思うんですが。
【2006/03/07 23:04】 URL | kazuou #- [ 編集]

白い家の少女の映画
5月にやっとDVD化されますね! 楽しみです。
【2006/03/24 17:39】 URL | イシカワキザエモン #HGy7jbHI [ 編集]

そうなんですか!
イシカワキザエモンさん、はじめまして。
僕はこの作品、映画の方を先に見まして、衝撃を受けた一人です。その時点で既にジョディ・フォスターは有名になってましたが、この作品での存在感にはすごいものがありましたね。それに加えて魅力的なストーリーのとりこになってしまいました。原作は後で手に入れたのですが、ほんと忠実な映画化になってるのに驚きました。
もうすぐDVDが出るんですね。僕もこの作品、近所のレンタルビデオ店で見つけてあわてて借りました。今となってはなかなか見かけない作品ですしね。
【2006/03/24 18:36】 URL | kazuou #- [ 編集]


私もジョデイ・フォスターの映画ではこれが一番好きです。ショパンのピアノ協奏曲第一番をハミングするたびに、カナダの冬の森と、この映画のさまざまなシーンが切なく甦ってきて、胸がキュンとなります。また観たいなあ、と思いつつ、もう何年(何十年)・・。ジョデイ・フォスターの好きだし、男の子(名前も覚えていないけれど)の印象深くて、本当に大好きな映画です。まだ幼さの残る二人が、暖炉のそばで、一枚の毛布に包まる場面ありましたよね。好きでした。魔術師の格好をしたあの少年・・何という俳優だったのかしら。
この映画を好きという人に、ここで出会えて、嬉しかったです。
【2006/05/15 08:54】 URL | あつこ #- [ 編集]


あつこさん、初めまして。
この映画は、本当に心に残る映画だと思います。まだ子役ながら圧倒的な存在感のジョディ・フォスター! 男の子(マリオという名前ですね)も、なかなか初々しくてよかったです。
そして物語自体も、少女の壊れやすい感性を見事に表現していたと思います。最近DVD化されたようですので、機会があったら、またご覧になるといいかもしれません。
ちなみに少年役の俳優は、スコット・ジャコビーという人のようです。
【2006/05/15 13:10】 URL | kazuou #- [ 編集]


はじめまして。
「白い家」のジョディ、最高によかったですね。
トラックバックさせていただきましたので、よければ拙ブログにもトラックバックを返してくださいませ。
少々忘れられ気味ですが、多感な時代にインパクトを受けた作品ですので、いろいろな人にまた見て欲しいですね。
【2007/08/23 05:21】 URL | Mizumizu #JUrcbCqk [ 編集]

>Mizumizuさん
Mizumizuさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

この作品、つい先日初DVD化されたと思ったら、廉価版で再発売のようですね。この作品を愛するものとしては、嬉しい限りです。
ジョディ・フォスターの存在感のみが語られがちな作品ですが、物語自体もなかなかどうして魅力的な作品だと思います。
脚本と役者が、うまく相乗効果をもたらした良い例ではないでしょうか。
【2007/08/23 18:21】 URL | kazuou #- [ 編集]


なつかしいですね。私はジョディ・フォスターが好きで、映画⇒原作へいきました。
この表紙絵…キングの『キャリー』に似てません? 同じイラストレーターさんかな?
映画同様、周りの大人がなぜか悪者に見えますよね。大人としては当然の対応をしてるんですけど…
【2015/09/01 00:33】 URL | ゆきやまま #M8wPbJsk [ 編集]


これ、大人の視点から描いたら、ただのわがままな子供になってしまいますよね。
子どもの視点から描いていて、なおかつ嫌味にならないところが魅力だと思います。

イラストは同じ方じゃないでしょうか。
【2015/09/01 20:32】 URL | kazuou #- [ 編集]


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白い家の少女(レアード・コーニング)

●白い家の少女(レアード・コーニング)を読了。 ジョディ・フォスター主演映画の原 Blog・キネマ文化論【2006/03/24 17:39】

ジョディ・フォスターの「白い家の少女」

ジョディ・フォスターはもちろん、押しも押されもせぬ大スターだ。「告発の行方」と「羊たちの沈黙」でアカデミー主演女優賞を2度受賞。監督やプロデューサー業にも仕事の場を広げている。ジョディの名を一躍知らしめたのが、スコセッシの「タクシー・ドライバー」だった... Mizumizuのライフスタイル・ブログ【2007/08/23 05:17】

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Author:kazuou
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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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