手堅い恐怖小説集  オスカー・クック『魔の配剤』
魔の配剤
魔の配剤―イギリス恐怖小説傑作選 (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
熱田 遼子 松宮三知子
朝日ソノラマ 1985-03

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 ソノラマ文庫海外シリーズの一冊、『魔の配剤』(オスカー・クック 熱田遼子・松宮三知子訳)は、作者名がオスカー・クックになっているので勘違いしやすいのですが、アンソロジーであり、クックは収録作家のひとりに過ぎません。編者は、この手のアンソロジーでおなじみのイギリスのアンソロジスト、ハーバート・ヴァン・サールです。飛び抜けた傑作はないものの、ヴァラエティに富んだ作品を集めており、安心して楽しめるアンソロジーに仕上がっています。
 以下、いくつか作品を紹介していきましょう。

 オスカー・クック『魔の配剤』 エキゾチックな女理髪師に入れあげたバイオリニストは、彼女から手のマッサージを受けます。やがて彼の手は腐り始めますが、彼女に執着する男は、彼女のもとへ通い続けます…。
 美貌の女理髪師の目的とは…。情熱と妄執の復讐奇談。

 C・S・フォレスター『戦慄の生理学』 ナチスの強制収容所へ配属されたシュミット医師は、自らの仕事と倫理観の軋轢に苦しんでいました。しかし仕事を拒否すれば、即死が待っている。そんな彼の喜びは、生理学者として名声を増しつつある甥のハインツ青年でした。久しぶりに会ったハインツは、嬉々として自分の研究をシュミットに見せます。しかしその研究とは、人間を実験台にした「恐怖」の測定実験だったのです…。
 「戦慄」の実験によって明らかになった真実とは…。狂っているのは青年なのか、それとも時代なのか? 人間心理をするどく抉るサイコ・ホラー作品です。

 フィールデン・ヒューズ『錯誤』 ごく平凡な教区牧師の悩みは、ことあるごとに彼に敵対する男、ビルパートの存在でした。ビルパートの危篤の報を聞いた牧師は、喜びを隠せません。しかし葬儀中、棺の中から音が聞こえるのに気づいた牧師は戦慄します。まさかこの男はまだ生きているのではないか? 疑念に囚われながらも、牧師はそのまま葬儀を続けてしまいます…。
 自分は男を見殺しにしたのか? それとも単なる「錯誤」なのか? 牧師が知った恐るべき真実とは…。
 いわゆる「早過ぎた埋葬」をテーマにした作品です。

 ハミルトン・マカリスター『神の使徒』 列車の車両内で出会った女は、話しかけてもまともな返答をしません。神についてのことしか話さないのです。男は、女を無視することに決めますが、彼女は突如男のそばに近付いてきます…。
 女はいったい何者なのか? 彼女の目的も行動の理由も、まったく明かされません。もやもやした気分の残る、不条理な恐怖小説。

 ヘスター・ホーランド『開かずの間』 恋人と別れ、人生の目的をなくしたマーガレットは、田舎の資産家の夫人に仕えることになります。一族最後の生き残りである女主人は、邸を守るためにだけ生きていると言います。充実した図書室の話を聞いたマーガレットは部屋に入りたいと望みますが、女主人はなかなか許そうとしません。主人の留守中に、望みの部屋に入ったマーガレットでしたが…。
 主人の明かさない図書室の秘密とは…? 「幽霊屋敷」の変種的な作品です。

 ジョージ・フィールディング・エリオット『銅の器』 中国人の大尉に捕らえられた、フランス人のフォルネ中尉は、自らの軍の情報を明かすように迫られます。持ち前の正義感から、それを拒否するフォルネに対し、相手は彼の恋人リリーを拷問にかけると脅します。やがて「銅の器」を使った拷問が始まりますが…。
 残酷な「銅の器」の拷問を扱った恐怖小説。ストーリー的にはステレオタイプで、基本的にただそれだけの作品です。

 フレイヴィア・リチャードスン『黄色いドアの向こうで』 体の不自由な娘の話し相手として雇われたマーシャは、娘の体を見て驚きます。もう大人といっていい年齢ながら、下半身の委縮によりまともに歩けない状態だったのです。有能な外科医として知られる、母親のメリル夫人は、マーシャに対し奇妙な打ち明け話を続けますが…。
 盲目的な愛情に囚われた母親がとった究極の手段とは…。江戸川乱歩にも通じるところのある、猟奇的なスリラー作品。

 ミュリエル・スパーク『ポートベロ通り』 友人ジョージの重婚の事実を知るニードルは、その事実を新妻に告げようとします。それを知ったジョージはニードルを殺してしまいます。しかし昼日中、ポートベロ通りでジョージは死んだはずのニードルの姿を目撃します…。
 愛情のもつれから起こる殺人事件と、その後出現する幽霊。題材的にはオーソドックスなゴースト・ストーリーながら、非常にユニークな作品に仕上がっています。結末寸前まで、ゴースト・ストーリーであることがわからないという、手の込んだ技巧が使われています。また、結末までの登場人物たちの人生の物語も、それぞれ興味深いストーリーになっていて飽きさせません。
 題材にもかかわらず、飄々としたユーモアと軽みにあふれた異色の幽霊物語です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

このシリーズは、タイトルが「魔の・・・」とか似ているせいもあって、自分は一体この本を読んだんだろうか?と思ったりします。
タイトルには聞き覚えがありますが、kazuouさんの内容紹介に全然思い当たる話がないので、読んでいないのだろうと自分を納得させ、さっそく借りる事にしました。

しかし、自分ではやらないとは分かっているのですが、読んだ本(特に図書館)のリストと内容は本来チェックしておくべきなんでしょうね。。。
【2009/02/18 22:49】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
そうなんですよね、ひと昔前のホラー映画の邦題じゃないですけど、「魔」がつくタイトルが多いので、どれを読んだかわからなくなりそうです。
ただ、中身のほうは、翻訳短編好きなら楽しめるアンソロジーだと思います。
C・S・フォレスター『戦慄の生理学』とかスパーク『ポートベロ通り』なんかは、『ミステリマガジン』あたりに載っていても違和感がないぐらいですね。
【2009/02/19 21:30】 URL | kazuou #- [ 編集]

「ポートベロー通」 が良かったです
えーと 読み始めた時にですね。
もしかしたら、読み飛ばしたorわざと? なのでしょうか?
「わたし=ニードル」の性別を勘違いして(あえて、ここには書きませんが)
途中で、あれれ?と思った次第です。

この話は、幽霊譚ではありますが、ちょっとキングの青春ものっぽさもあり、これはどちらかというと「恋愛小説」ではないのか?と思いました。

アンソロジー「化けてでてやる」(でしたっけ?)に収録されても良い作品ではないかと思います。(性別ばらしてますね:笑)
【2009/02/24 20:11】 URL | fontanka #- [ 編集]


『ポートベロ通り』は、ジャンルがどうこう以前に、小説としてよくできた作品ですよね。

歪んではいるけれど、ある種の「恋愛小説」ではありますよね。
個人的には、語り手の「冷たさ」の印象が強くて、その意味では「サイコ・スリラー」みたいな印象を受けました。
【2009/02/24 21:40】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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