モノクロームの静かな世界  アイナール・トゥルコウスキィ『まっくら、奇妙にしずか』
4309270298まっくら、奇妙にしずか
鈴木 仁子
河出書房新社 2008-07-12

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 いつの話なのか? どこの話なのか? だれの話なのか? その全てが曖昧なまま進むという、とらえどころのないストーリー。ドイツの作家、アイナール・トゥルコウスキィの絵本『まっくら、奇妙にしずか』(河出書房新社 鈴木仁子訳)は、そのとらえどころのなさとは裏腹に、読むものをつかんで離さない魅力があります。
 ある日、どこからか船に乗ってやってきた男は、砂丘の向こうの丘に小屋を建て、住み着きます。村の人間たちは、その男が何者でどこから来たのかもまったく知りません。
 男の小屋のそこかしこには、奇妙な機械が並び始めます。好奇心にかられた村人たちは、望遠鏡を使って男の周りを覗きますが、彼が何をしているのかは全くわからないのです。見えるのは、機械のほかには、なぜか大量の魚だけ。
 男はやがて、村に魚を売りに現れます。上等な魚にもかかわらず、不審がる村人たちは魚に手を出そうとしません。なぜこんな上等な魚を大量に仕入れられるのか? 疑惑にかられた村人たちの覗き行為はエスカレートしていきますが…。
 登場人物の固有名詞はまったく出てきませんし、時代や場所も特定されていません。男の正体も目的も皆目わからず、ただ読者は奇妙な物語に翻弄されるだけ。
 ブラックなユーモアにあふれた物語もさることながら、この本の最大の魅力はその挿絵です。全てシャープペンシルで書かれたという絵の細密さ、密度は見るものを圧倒するほど。まるでデューラーの素描のような、桁違いの画力で描かれた挿絵は、不条理きわまりない物語に、圧倒的なリアリティを与えています。
 物語のあちこちで機械が登場するのですが、それらはどれも、いびつながら、どこかレトロでユーモラスな造形がされています。とくに見開きで描かれた、男の家を覗くための村人の望遠鏡にいたっては、そのユニークさは特筆ものです。
 それに対して、登場人物たちの姿は、グロテスクなまでにデフォルメされているのが目を引きます。また、戯画化されているのは絵だけでなく、物語に登場する村人たちの人物像もまた例外ではないのです。男の持っているものに嫉妬し、自分達もまたその恩恵にあずかろうとする態度には、人間の愚かさと醜さが露骨に表現されています。
 風景にいたっては、空は黒一色で染めあげられ、昼とも夜とも見当がつきません。しかしこれもまた、この物語の舞台としてはピッタリだと感じさせます。
 凄まじい画力で、物語に漂う「不安感」「寄る辺なさ」を見事に表現した大傑作絵本。人間不信に彩られたダークな世界観には好みが分かれるところでしょうが、その絵には、一度見たら忘れられないインパクトがあります。一度ご賞味あれ。
トゥルコウスキー1 トゥルコウスキー2 トゥルコウスキー3 トゥルコウスキー4

この記事に対するコメント
読みました!
この本、読みました。
ちょっと似た本が思い浮かばなかったですね。
モンティ・パイソンの、ギリアムのアニメっぽいかなとかも思ったんですが。
詩情あふれるグロテスクさがあるなあと思いました。
あと、なんだかやけにメカメカしていることろが面白かったです。
【2009/02/27 22:32】 URL | タナカ #- [ 編集]

いいですよね
お読みになられましたか。
登場する機械の描写からして、メカニカルな嗜好のある人だと思いました。空想上の機械をあそこまで細密に描けるところがすごいです。
こういうの、個人的に大好きなんですよね。
グロテスクなんだけど、詩心もある…ところもまた魅力的でしたね。
【2009/02/28 08:56】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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