悪魔との契約  ロッド・サーリング編『魔女・魔道士・魔狼』
魔女
魔女・魔道士・魔狼 (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
竹生 淑子
朝日ソノラマ 1986-11

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 オムニバスドラマシリーズ『ミステリー・ゾーン』の脚本家兼司会者として知られるロッド・サーリング。彼が編んだアンソロジー『魔女・魔道士・魔狼』(竹生淑子訳 ソノラマ文庫海外シリーズ)は、悪魔や魔女、人狼といったテーマで書かれた怪奇小説を集めています。読みやすい娯楽作品を中心に集めているので、難解さはありません。
 以下、いくつかの作品について紹介していきましょう。

 ジョー・L・ヘンズリー『魔性の復活』 地球を植民地化しようとする異星人の攻撃により、地球人はほぼ絶滅させられてしまいます。わずかに残った地球人たちは、宇宙船の内部に捕らえられます。しかし間もなく、宇宙船の乗組員たちに精神異常による自殺が広がっていきます…。
 捕らえられたのはなぜか不健康な地球人ばかり…。彼らはいったい何者なのか? 伝統的なテーマにSF的な味付けをしたアイディア・ストーリーです。

 ジャック・シャーキー『魔女志願』 魔女を目指すケイティーは、目障りなおばやライバルに対して魔術を実行しますが、一向に効き目は現れません。いぶかるケイティーにサーカスのジプシー女は告げます。愛があふれている限り、魔女にはなれない、と。ケイティーは自らの愛を捨てようと決心しますが…。
 愛する心を持っていたがために、魔女になれない少女の物語。いい話になるのかと思いきや、ブラックな展開になってしまうところに驚かされます。

 チャールズ・G・フィニー『黒い魔犬』 住宅街に突如、庭を荒し、ペットを殺して回る謎の獣が出現します。子供の証言によれば、それは黒いレトリーバのような犬だというのです。住民たちは力を合わせて、獣を射殺しようと待ち構えますが、毎回獣に出し抜かれてしまいます…。
 まったく姿をとらえられない謎の獣。強烈な悪意を持つあの獣はいったい何なのか? 不穏な空気を含んだ幻想小説。

 フリッツ・ライバー『使い魔の誕生』 ある日突然、夫の前から姿を消してしまった妻。彼との生活に耐えられないという書き置きの言葉を信じられない夫は、妻の部屋でおかしなものを発見します。それは巨大な卵でした。妻の行方を知るために、夫は妻の三人の友人たちを訪ねます…。
 妻はいったいどこに消えたのか? 巨大な卵はいったい何なのか? 見えかくれする陰謀と魔術。傑作長編『妻という名の魔女たち』ともテーマを同じくする魔女ファンタジー。

 ラドヤード・キップリング『魔獣のしるし』 インドに暮らすイギリス人フリートは、寺院で猿神ハヌマンの像に対して冒涜を働きます。やがて精神的におかしくなったフリートの体に異常が現れますが…。
 異教の魔術によって超自然現象が起こるという、怪奇小説の古典的作品です。

 ジェーン・ロバーツ『魔の首飾り』 学友とともに女教師ラウンズのパーティーに出かけたオリーヴ。しかし後になって、何があったのかを誰も覚えていません。やがて結婚し子供をもうけたオリーヴは、幸せな生活を送りますが、ある日原爆が町を襲います…。
 破壊された町で、オリーヴが思い出した記憶とは…? 「魔女」と「破滅もの」を組み合わせた、ひじょうにユニークな作品。

 ゴードン・R・ディクスン『魔女のお守り』 お尋ねもののクリントは、列車に飛び乗り、名も知れぬ土地に降り立ちます。そこで出会った無気味な老婆は、大金を示し、彼にある依頼をしますが…。
 老婆を出し抜こうとしたチンピラの青年の末路とは…。終始、陰鬱な空気の支配する、本格的な怪奇小説です。

 ブルース・エリオット『魔狼の涙』 ある日動物園の檻の中で、自分が人間に変身していることに気づいた狼。警察に捕らえられた彼は、精神異常とみなされ病院に送られてしまいます。やがて退院した彼は、狼に戻る方法を模索しますが…。
 人間が狼になるのではなく、その反対に狼が人間になってしまうというユニークな作品。人間になってしまった狼の視点から描かれるので、喜劇的というより悲劇的なトーンが漂います。哀切な雰囲気にあふれた、味のある作品です。

 マルコム・ジェイムソン『魔王との契約』 功成り遂げて、富と地位を手に入れたフェザースミス氏は、しかし死期が近付いていることを知り、不安に囚われます。現在の知識と記憶を持って、若き日に戻ったならば、今以上の成功と快楽が約束されているにちがいない…。目的を果たすため、彼は魔王と契約を結びます。約束通り、若き日の故郷に戻ったフェザースミス氏でしたが、この時代の技術と設備では、金儲けが容易いことではないと知り、愕然とします。しかも自分の体は若返らず、そのままなのです…。
 悪魔との契約で、人生をやりなおそうとした傲慢な男が、手ひどいしっぺ返しを食うという、この手のテーマではありがちなストーリーではありますが、手堅い語り口なので、最後まで読まされてしまいます。過去に戻ったあとの主人公の失望や落胆が、かなり丁寧に描写されるところが興味を引きます。

 アンソロジーのタイトルも、個々の作品の訳題も、原題とかけ離れた扇情的なものになっているのが気になりますが、収録作品の質自体は、安定したものです。ホラー的な要素よりも、ストーリーの面白さや「ひねり」を重視した「異色短編」的な要素の強い作品が多いので、この手の作品が好きな方は楽しめるでしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
懐かしいです。
 ソノラマ文庫海外シリーズをリアルタイムで読んでいた世代です。全部買っていたわけではなくて、好きな作家とアンソロジーだけ。さっき数えてみたら、持っているのは20冊でした。
 何しろ20年以上前のことで、どれを読んで、どれを読んでいないのか、すっかり忘れていますが、ご紹介文を読むと、『魔女・魔道士・魔狼』は読んでいないようです。読んでみようかなと、書庫から取り出してきました。

 ソノラマ文庫海外シリーズでは、数年前、デイヴィス・グラップ『月を盗んだ少年』が面白いと聞き、これは持っていなくて探しているんですが、なかなか入手できません。
【2009/01/07 14:14】 URL | 高井 信 #.EaZg8mc [ 編集]

>高井 信さん
このシリーズ、今は本当に見かけなくなってしまいました。ラインナップはすごく魅力的なんですけどね。『魔女・魔道士・魔狼』も佳作揃いのアンソロジーですよ。

海外シリーズは、どれも訳題がかなり変更されてるので、題名だけ見ても読んだかどうかはっきりしないんですよね。この本でも、読んでみてから、既読だったと気づいたものがいくつかありましたし。

グラップ『月を盗んだ少年』は、シリーズ中でも屈指の好短編集だと思います。ぜひ復刊していただきたい作品集ですね。
【2009/01/07 20:02】 URL | kazuou #- [ 編集]

グラップ
>グラップ『月を盗んだ少年』は、シリーズ中でも屈指の好短編集だと思います。
 そんなことを聞くと、ますます読みたくなってしまいます。当時、名前も知らない作家でしたので、全く買う気がなかったんですよね。痛恨です。
>ぜひ復刊していただきたい作品集ですね。
 今の流れですと、東京創元社に期待でしょうか。もちろん増補して。
【2009/01/07 21:38】 URL | 高井 信 #- [ 編集]

ストーリーテラー
そうですね。グラップは『狩人の夜』と『月を盗んだ少年』以外、邦訳はないみたいです。
僕は『奇想天外』誌に載っていた短編を読んで、はじめてグラップの名前を知りました。『月を盗んだ少年』を入手できたのも、わりと最近なんですが、印象としては、ジェラルド・カーシュなんかに似た感じですね。ジャンルがどうこう以前に、「お話」として面白いです。たぶんこの作家「ストーリーテラー」なんだと思います。
創元は『狩人の夜』も復刊してくれたことだし、グラップの短編集も期待したいところですね。
【2009/01/08 20:54】 URL | kazuou #- [ 編集]

魔狼って…
テーマの“魔女・魔道士・魔狼”になんとなく可笑しみを感じます。
確かに魔犬ももとをただせば魔狼の眷属なのかも。
いずれもそそられる内容ですが、『使い魔の誕生』は『妻という名の魔女たち』の雰囲気が味わえそうで是非読んでみたいですね。
【2009/01/09 22:33】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
おどろおどろしい訳題をつけようとして、逆に安っぽくなってしまっている感じです。でもこれ原題が「Witches, Warlocks, and Werewolves」なので、意味的には間違ってないんですよね。
アンソロジーのテーマとしては、広い意味での「魔術」に関連するものを集めているみたいです。
ライバーの『使い魔の誕生』は、『妻という名の魔女たち』外伝といってもいいくらい、雰囲気などが似ている作品です。もしかして長編のインスピレーション元なんでしょうか。
【2009/01/10 08:33】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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