生きることは罪じゃない  おがきちか『エビアンワンダー』
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 中世風の異世界ファンタジーは、いまやありふれているとさえ言えます。ただ、数多いその種の作品の中で、そのファンタジー世界の設定が、物語にとって必然性のあるものかどうか、という点になると、疑問を覚える作品が多いのが事実です。
 その点、おがきちかの漫画作品『エビアンワンダー』(一迅社 ZERO-SUM COMICS 全4巻)は、この世界、この登場人物たちでなければ成立しない、という意味で、じつに練られた物語世界を構築しています。
 主人公の女性フレデリカは「銀符」と呼ばれる存在。「銀符」とは、悪魔との契約により、悪人の魂を地獄に送る役目を負った狩人なのです。ただし「銀符」になる代わりに、願いをひとつだけかなえることができます。その願いに対する負債が終わるまで、その役目から解放されることはないのです。
 幼い頃、両親から捨てられたフレデリカが望んだのは、「自分より小さく」「絶対に裏切らない」家族。契約を結んだ悪魔ペイシェントは、彼女の望み通り「弟」ハウリィを作ります。成長したフレデリカは、ハウリィとともに悪人の魂を狩る旅に出ますが…。
 基本的なプロットは、毎回、フレデリカが悪人たちを裁いていくという、よくあるパターンではあります。ただ、この「悪人」たちが単なる悪党でないところがミソです。善人面をした聖職者が、とんでもない悪党だったり、その逆もまたしかりなのです。
 そしてそれは、主人公フレデリカも例外ではありません。彼女が悪魔との契約で求めたのは、自分を裏切らない「弟」の存在。しかし悪魔に造られたハウリィは、その契約上、姉であるフレデリカなしでは生きていけないように造られています。ある年齢以上に成長することのできないハウリィに、ふつうの人間としての幸福を与えることはできないのです。
 この世界に、完全な「善」も「悪」も存在しない。そんな人間たちの「罪」を裁くフレデリカは苦悩します。そして、自らのために「弟」を造ってしまった自分に「罪」はないのだろうか? 
 物語後半、フレデリカは、自分を捨てた両親との再会を果たします。自らの親を「罪人」として裁くことができるのか? 裁く権利が自分にはあるのか? そして明かされるフレデリカと悪魔ペイシェントの契約の真相とは?
 前半の物語に埋め込まれた伏線が、後半になって全て収束するという、ファンタジーらしからぬ巧妙なストーリーテリング。クライマックスでフレデリカが直面する、弟ハウリィと自らの存在意義。人間が生きることへの疑問とその解答。何の気なしに読んできた読者は、後半の怒濤の展開、恐るべき密度に驚かされることでしょう。
 人間の「善」と「悪」そして「罪」と「罰」に対して、深く考えさせてくれる、じつに思索的なファンタジーです。切れば血のにじむような「痛み」にあふれた作品ですが、それだけに、読み終えたときの感動も大きいはず。
この記事に対するコメント

こんばんは。
おがきさんの作品、私もけっこう好きです。なんというか、間が独特の作家ですよね。
善悪の判断が、ぜんぜん教科書的でないところが好きです。
現在連載している「ランドリオール」も、のほほんとした雰囲気が気に入っています。
【2009/01/17 01:21】 URL | ふくろう男 #- [ 編集]

>ふくろう男さん
この方の作品は『エビアンワンダー』しか読んだことがないんですが、勧善懲悪に陥らないところがいいですよね。痛々しいんだけれど、後味は決して悪くない…というところも魅力のひとつだと思います。
「ランドリオール」も気になっているので、いずれ読んでみたいと思います。
【2009/01/17 12:19】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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