『37の短篇』その他の旅  『37の短篇』
37の短篇世界ミステリ全集〈18〉37の短篇 (1973年)
早川書房 1973

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4150018197天外消失〔ハヤカワ・ミステリ1819〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
早川書房編集部
早川書房 2008-12-10

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 藤原編集室さんの『本棚の中の骸骨』で知ったのですが、早川書房から12月に刊行予定のアンソロジー『天外消失』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)の収録作品数は、14編だそうです。
 改めて説明すると、この本は『世界ミステリ全集』の最終巻として刊行された名アンソロジー『37の短篇』の新装版です。タイトル通り、37もの短篇が収録されていた元本から、他の作品集で読めるものを省いている、ということなのですが、うーん、これだけ数が減ってしまうと、あのアンソロジーの凄さは再現できないんじゃないだろうかと心配になってきました。
 このアンソロジーの魅力は、収録作品の質もさることながら、圧倒的なボリュームにあるわけで、それが半分以下になってしまうのはどうかなあと、疑問を抱いてしまいます。
 『天外消失』の収録作品が具体的に何になるのかは、まだ不明なのですが、この際、元本である『37の短篇』の魅力について、少し語っておきたいと思います。
 まずは『37の短篇』の収録作のリストを挙げておきましょう。

エドガー・ライス・バロウズ『ジャングル探偵ターザン』
ブレット・ハリディ『死刑前夜』
ジェイムズ・サーバー『虹をつかむ男』
クレイグ・ライス 『うぶな心が張り裂ける』
ジョルジュ・シムノン『殺し屋』
エリック・アンブラー『エメラルド色の空』
ヘレン・マクロイ『燕京綺譚』
フレドリック・ブラウン『後ろを見るな』
クレイトン・ロースン『天外消失』
ハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』
カーター・ディクスン『魔の森の家』
アーサー・ウイリアムズ『この手で人を殺してから』
トマス・フラナガン『北イタリア物語』
ロイ・ヴィカーズ『百万に一つの偶然』
Q・パトリック『少年の意志』
ジョン・D・マクドナルド『懐郷病のビュイック』
ロバート・アーサー 『五十一番目の密室』
イーヴリン・ウォー『ラヴデイ氏の短い休暇』
C・B・ギルフォード『探偵作家は天国へ行ける』
エドガー・アラン・ポオ& ロバート・ブロック『燈台』
フランク・R・ストックトン『女か虎か』
ロアルド・ダール 『おとなしい兇器』
リチャード・マシスン 『長距離電話』
エヴァン・ハンター『歩道に血を流して』
ヘンリー・スレッサー『死刑執行の日』
ジャック・フィニイ『死者のポケットの中には』
アル・ジェイムズ『白いカーペットの上のごほうび』
ポール・アンダースン『火星のダイヤモンド』
デイヴィッド・イーリイ『ヨット・クラブ』
ジャック・リッチー『クライム・マシン』
コーネル・ウールリッチ 『一滴の血』
ウイリアム・ブルテン『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』
スティーヴン・バー『最後で最高の密室』
ロバート・L・フィッシュ『アスコット・タイ事件』
リース・デイヴィス『選ばれた者』
エドワード・D・ホック『長方形の部屋』
クリスチアナ・ブランド『ジェミニイ・クリケット事件』

 確かに、他の作品集で読めるものが、けっこう入っていますね。サーバー、マシスン、ブラウン、ダール、ブランドあたりは個人短篇集に入っていますし、近年の再評価のおかげで、イーリイやリッチー、はてはブルテンの短篇まで読めるようになっています。それらを除くと、14編に絞れなくもないようです。
 ただ、このアンソロジーの魅力は、先にも述べたように、圧倒的なボリュームにあります。さまざまな傾向のさまざまな作家の作品を収録することによって、読者は短篇ミステリの面白さと幅広さを知ることができたのです。
 個人的なことを書かせてもらうと、僕がこのアンソロジーに初めて出会ったのは、高校の図書室でした。エンタテインメント系統の本がほとんどない図書室で、唯一目立っていたのが、早川書房の『世界ミステリ全集』でした。もともと短篇好きだった僕は、真っ先に『37の短篇』を手にとりました。そこで知った、初めて見る作家の、初めて知る味わい!
 冷徹な語り口で語られる完全殺人物語『この手で人を殺してから』 、純粋な推理の面白さを教えてくれた『九マイルは遠すぎる』、リドル・ストーリーの出発点にして最高作『女か虎か』、どんなに地味な出来事でもサスペンスは生まれると言う見本のような『死者のポケットの中には』、究極のコン・ゲーム小説『クライム・マシン』など、まさに綺羅星のような短篇が揃えられています。
 気になった作家を追いかけて、芋づる式に読書の世界が広がったという意味でも、僕にとっては非常に思い入れのある本です。それだけに抄録での復刊という話には、素直に喜べないものがあるのですが、それでも魅力のある本であることに間違いはないでしょう。
 今回収録されるかどうかは不明ですが、個人的なオススメ作品としては、完全無欠のクライム・ストーリー『この手で人を殺してから』 、「死者の探偵」の嚆矢として名高い短篇『探偵作家は天国へ行ける』、異様なフィーリングに満ちた作品『選ばれた者』あたりを挙げておきます。
 
 ところで、今月号の『ミステリマガジン』の次号予告を見ていたら、なんと新連載として、カミの『クリク・ロボット』のタイトルが! かって、松村喜雄『怪盗対名探偵』(双葉文庫)のカミの章でも触れられていた作品です。ロボット探偵が活躍するユーモア探偵小説だそうで、これはとても楽しみです。

追記 『天外消失』の収録作品は、次の14編です。
エドガー・ライス・バロウズ『ジャングル探偵ターザン』
ブレット・ハリディ『死刑前夜』
ジョルジュ・シムノン『殺し屋』
エリック・アンブラー『エメラルド色の空』
フレドリック・ブラウン『後ろを見るな』
クレイトン・ロースン『天外消失』
アーサー・ウイリアムズ『この手で人を殺してから』
ジョン・D・マクドナルド『懐郷病のビュイック』
イーヴリン・ウォー『ラヴデイ氏の短い休暇』
C・B・ギルフォード『探偵作家は天国へ行ける』
フランク・R・ストックトン『女か虎か』
アル・ジェイムズ『白いカーペットの上のごほうび』
ポール・アンダースン『火星のダイヤモンド』
スティーヴン・バー『最後で最高の密室』

これ以外で読めないものは、ほぼ収録したような感じではあります。 リース・デイヴィス『選ばれた者』が抜けているのが残念ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

高校の図書室で「37の短篇」に出会えるとは素晴らしいですね。
私は存在を知ってから入手までに数年がかり、そして、読むのはさすがに自宅でしたので、本当に一編づつ大切に読んでいきました。

「女か虎か」なんて、いろんなミステリや評論でいろいろ言及されていて、筋はしっていたのですが、それぞれ微妙に説明がちがっていて、本物を読んだ時は、こうだったのかとうれしかったです。

他では殆ど読めない時代でしたから。
14編版を購入するかどうかは(あーでもかっちゃうんでしょうね)
持ち歩きたいから・・・買っちゃうんでしょうね。
【2008/11/30 18:11】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
いま考えると、あれは幸福な出会いだったと思います。
読み終えた後も手元に欲しくなって、古本屋を回りました。これも幸いに入手することができました。
あのころはインターネットもなかったし、読みたい短篇がどの本にあるのか、といった書誌情報もろくになかったので、このアンソロジーはいい導き手になってくれました。

『女か虎か』も、これ以外に読める本はなかったんじゃないでしょうか。ストックトン自身の続編があると知って、それが掲載された『EQMM』を探したのもいい思い出です。

今回の復刊が14編しか入っていないのを知って、ちょっとがっかりしているんですが、そのかわり元本の価値はまだ下がらないのを知って、ちょっと嬉しかったりしますね(笑)。
【2008/11/30 20:24】 URL | kazuou #- [ 編集]

一応買いかなと
なるほど、おおげさに言えばkazuouさんにとって運命の一書だったわけですね。
ところで、fontanka さんのコメントをみて、私も果たして「女か虎か」をちゃんと読んでいるのかにわかに自信がなくなってきました。
お二人のような思い入れはありませんが、おもしろそうだから14編版は買って見ましょう。

そういえばポケット・ミステリの“ポケット”、学生時代はぴんとこなかったんですが、社会人になって腑に落ちました。背広の内ポケットに収まる大きさなんですね。最近は厚いものが多くて入れにくくなりましたが。
【2008/12/02 21:24】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
そうですね。『37の短篇』をきっかけにして、『ミステリマガジン』のバックナンバーを探して読むようになりましたし、そこで出会った連載のひとつが、先日紹介した小鷹信光の『新パパイラスの舟』でした。そういう意味では、たしかに「運命の一書」といえるかもしれません。

『女か虎か』は、あらすじだけが一人歩きしている感もありますよね。これを流用した作品もたくさんありますし、原典を改めて読むのも一興かなと思います。

ポケット・ミステリは、昔からボケットに入れるにはかさばる、というのがもっぱらの評でした。P・D・ジェイムズの本なんか、厚過ぎてどうやっても入らないですよね(笑)。
【2008/12/02 21:39】 URL | kazuou #- [ 編集]


迷跡さん>
こんばんは。「女か虎か」の筋ですが、夫に確認したら、違って記憶していました(笑)
(高校の英語の授業で原文で読んだとか)

kazuouさん>
ポケミス→ポケットに入れるなんて考えもつきませんでした(女モノの服ではムリ)
ポケミスって目立つようで、「ページが黄色い本を読んでいる人」と言われた事があります。

ポケミスはポケミスと思っていたので、そういう捉えかたもあるのねと驚きました。


【2008/12/03 20:53】 URL | fontanka #- [ 編集]

ポケミス
ポケミスの小口部分の黄色は独特ですよね。
汚れを防ぐためなのか、デザイン上の工夫なのかはわかりませんが、個人的には好きです。
【2008/12/06 08:18】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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