究極の短篇ガイド  小鷹信光『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』
4846007782〈新パパイラスの舟〉と21の短篇
小鷹 信光
論創社 2008-11

by G-Tools

 以前から楽しみにしていた小鷹信光による短篇ガイド『〈新パパイラスの舟〉と21の短篇』(論創社)がついに刊行されました。1970年代に『ミステリマガジン』誌に連載されたエッセイをそのまま収録し、またそれぞれのテーマごとに、ボーナスとして翻訳短篇がつくというオマケ付きです。エッセイとともにアンソロジーも楽しめてしまうという、じつにお得な仕様。
 ここで改めて説明させてもらうと、この本は、ミステリに関するテーマを毎回取り上げ、それに関連する短篇をいくつか紹介していくというエッセイです。各章が、あるテーマの架空のアンソロジーにもなっているという作りです。
 しかも驚いたことに、各エッセイのあとに「附記」として追加エッセイが加えられていました。エッセイ連載時の勘違いを正すだけでなく、それぞれのテーマで今読める短篇を追加で挙げたり、現在の翻訳事情に触れたりと、どれも興味深く読めるものばかりです。
 綿密さで知られる小鷹氏だけに、エッセイで取り上げられた短篇の書誌データもしっかり記されています。もちろん索引も完備。読者が紹介されている作品を読みたくなったときの便宜も怠りありません。
 エッセイ本編にボーナス短篇×21編と「附記」。結果として、エッセイだけ収録したときの倍以上のボリュームに仕上がっているのです。この仕事ぶりには頭が下がります。
 さて、内容の方ですが、雑誌連載時のエッセイをそのまま収録しています。ということは、1970年代以前に書かれた作品ばかりが紹介されているということにもなるわけで、内容的に古びてしまっているんじゃないの?という考えが浮かびますが、それは杞憂と言うものでしょう。《晶文社ミステリ》《奇想コレクション》、また《KAWADE MYSTERY》などで、往年の短篇作家たちの面白さを知った現代の読者にとって、また新鮮な眼で楽しむことができるのです。その証拠に、ボーナスとして収録された短篇は、どれも70年代以前のものですが、今改めて読んでも面白いものばかりです。
 いちおう、各章の内容を紹介しておきましょう。

美食ミステリ傑作選『忘れられぬ美味』1
美食ミステリ傑作選『忘れられぬ美味』2
警察小説傑作選『ニューヨーク犯科帳』
夫婦に捧げる犯罪手帖『夫と、妻と、殺人と』
ユールタイドに捧げる犯罪『クリスマスの死』
見知らぬ隣人に捧げる犯罪『好奇心は災いのもと』
不完全脱獄講座『夢多き男たち』
ドリーム・ファンタジー選『夢見る男たち』
動物奇譚選『十二支殺人事件』
精選探偵犬物語『愛犬にご注意』
番外アンソロジー選『化猫から宇宙食まで』
正論風インタールード『悪魔との契約』
旅人ファンタジー『見知らぬ町、ゆきずりの人』
ゲーム小説精選『女と賭事には…』
契約殺人入門『殺し屋稼業も楽じゃない』
特選電話物語『夜も更けて、電話のベルが』
謎の書簡1『手紙だけでもミステリは書ける』
謎の書簡2『手紙とミステリ』
狩猟殺人選1『狩人の季節』
狩猟殺人選2『殺戮の掟』
人形奇譚選『人形はなぜ殺される?』
絵画ミステリ選『盗まれなかった名画』
墓場読本『生者のための墓』
葬儀百科『フィナーレは葬送曲で』


 並べてみると壮観ですね。狭義のミステリだけでなく、SFやファンタジーに属するテーマも垣間みられます。SF・ファンタジーのファンには「正論風インタールード『悪魔との契約』」「ドリーム・ファンタジー選『夢見る男たち』」、怪奇小説ファンには「人形奇譚選『人形はなぜ殺される?』」や「墓場読本『生者のための墓』」あたりがオススメです。
 狭義のミステリのテーマに限っても、「隣人テーマ」を扱った「見知らぬ隣人に捧げる犯罪『好奇心は災いのもと』」や「脱獄テーマ」を扱った「不完全脱獄講座『夢多き男たち』」など、ユニークな切り口のものが多く含まれます。
 収録された各短篇については、あらすじを紹介するのは差控えましょう。これは各テーマのエッセイのあとに読んでもらうのがより楽しめると思うからです。しいて面白かったものを挙げるなら、サンタクロースが死んでしまったと思い込む少年を描いた『拝啓ファルケンハイム博士』(G・グリーン)、奇想天外な手段で脱獄を図る『脱獄』(W・タッカー)、同じ夢をすべての住人が共有する町に迷い込んだ男の話『夢を見る町』(H・スレッサー)、あらゆるものの十パーセントを取り立てる奇妙なエージェントを描いた怪奇小説『死の十パーセント』(F・ブラウン)あたりが、なかなかの秀作。
 ところどころに挟まれたアンソロジーや短編集の書影も、ファンにとっては嬉しいかぎり。
 ほんとうに、何から何まで行き届いた作りです。これはかっての名アンソロジー『37の短篇』(早川書房)さえ凌ぐ、究極のアンソロジー兼短篇ガイドと言っていいかと思います。短篇ファンなら、一家に一冊は揃えておくべき本でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
美味しすぎるガイド本
私も読み始めています。
メモ用紙を傍らに置いて読んでいます。楽しいです。
気になった作品をメモして、その本を探すのは楽しい作業ですね。
だからガイド本は大好きです。

これは図書館で借りるのではなく、購入して手許に置いておくべき本でしょうね。
小鷹氏の、細やかで情熱的な仕事っぷりに敬服しました。
【2008/11/07 13:32】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>タツナミソウさん
いやあ、これは予想以上の本でしたね。
短篇といい、追加エッセイといいおまけ部分が半端じゃないです。エッセイ本編の方も、これだけ時間が経っているにもかかわらず、充分魅力的ですし。エッセイ中で触れていた『不道徳ロボット講座』も実現させてくれていたら嬉しかったんですが、これは欲張り過ぎというものでしょうか。
こうしたテーマ別ガイドって、あんまり類書がないですよね。思い付く限りでは間羊太郎『ミステリ百科事典』ぐらいじゃないでしょうか。
自分でもオリジナルのテーマを決めて、短篇を選んでみたくなってきます。
【2008/11/07 19:52】 URL | kazuou #- [ 編集]

“一家に一冊”!
となると、明日は買いに走らなければなりませんね。
読了後、再訪します。
【2008/11/07 20:05】 URL | 迷跡 #- [ 編集]


こんばんは。
いつもは図書館で借りる事が多い私ですが、早速、書店に走るつもりです。
【2008/11/07 22:17】 URL | fontanka #- [ 編集]

>迷跡さん
いちおう「ミステリ」のエッセイということにはなっていますが、SF・ファンタジー系統の作品にも筆が割かれているので、狭義のミステリのファンでなくても楽しめます。
まさに短篇好きのための必読書でしょう。
【2008/11/08 18:46】 URL | kazuou #- [ 編集]

>fontankaさん
そうですね。これは一度目を通したらおしまい、というのではなく、何度も読み返して楽しめる本だと思います。
そういえば、この本を都内の大型書店に探しにいったとき、置かれている数がかなり少なかったんですよね。もしかしたら少部数なのかもしれませんので、入手はお早めに。
【2008/11/08 18:48】 URL | kazuou #- [ 編集]


まえまえからこちら等でうわさは聞いていたのですが、先日本屋で実際に手にしてみて、すっかりやられて即購入しました。魅力的な作品紹介とエッセイ、十分すぎるほどの注釈による説明と詳細な作品データ。作るも作ったり出すにも出したり、といった感じですね。
この本を気に、また新たなアンソロジーが実際に組まれたらうれしいのですが。
【2008/11/17 22:06】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]

>げしさん
小鷹氏は凝り性だけに、単行本化の際にサプライズがあるとは思っていましたが、予想を上回る出来でしたね。
実際に何冊か実現したアンソロジーもありますが、他のテーマも面白い作品が集められているので、ぜひ新たなアンソロジーを編んでいただきたいものです。
【2008/11/18 21:16】 URL | kazuou #- [ 編集]


近くの書店に注文して、やっと今日入手しました。
ちょっと厚さにびっくり(うれしい驚きです)
しかし、このサイズでは通勤時は無理ですね(笑)
【2008/11/28 22:40】 URL | fontanka #- [ 編集]

厚いですよね
僕も手に取ったとき、あの厚さにはびっくりしました。末永く楽しめそうな本ですね。
【2008/11/29 18:27】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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