予期せぬ逃亡  埋もれた短編発掘その10
 今回は、「ジェニイ」「ポセイドン・アドベンチャー」などで知られる作家ポール・ギャリコの珍しい短編『もの言わぬ人質』(古沢安二郎訳 早川書房 ミステリマガジン1980年2月号所収)です。
 二人の殺し屋ワイリー・リックマンとアート・ホーサーを載せた車は、砂漠の町に向かって走っています。二人は刑務所から脱走した後、殺人を繰り返していました。いまも人質にとった女とその双子の子供を殺してきたばかりだったのです。
 臆病者の太っちょホーサーに比べ、小男リックマンの冷酷さは際立っています。

 リックマンのほうはもっと御しがたかった。というのは彼は冷然と殺人を犯したのであり、もし必要とあれば、自分の命をのばすためなら、いくらでも人の命を犠牲にする覚悟ができていたからである。

 二人はある町に入ります。そしておあつらえ向きの家を見つけます。窓からは、鏡の前で顔を剃っている男、台所にはエプロンを付けた女、寝室には女の子が寝た子供用ベッド、赤ん坊のいるサークル・ベッドが見えます。

 リックマンのうすい唇が満足そうにゆがめられた。これは思いもかけなかった拾い物である。その赤ん坊を連れていったら、彼らは国境まで逃げのびることができるかもしれない。

 もう殺しはうんざりだと言うホーサーを無理やり従わせたリックマンは、ホーサーに子供たちをさらってこいと命令します。そしてリックマンは両親を始末するべく、家の中に入り込みます。銃を構え、動くなというリックマンの言葉に、家の中の人間は、おびえきったのかピクリとも動きません。そして、リックマンは躊躇いなく引き金を引きます。おびえたホーサーの言葉が響きますが、リックマンの耳にはその言葉は入りません。

 このときばかりはリックマンは自分の相棒に立ち向かわずに、すでにもう一度撃鉄を起こしたピストルを持って立ったまま、男のワイシャツの後ろの心臓のあるあたりに現れている丸い穴をぽかんとして眺めていた。ワイシャツの繊維は少し煙を出したが、男は弾の衝撃も、自分が死ぬはずだという事実も忘れているように、立ったままであった。

 体に穴を開けられても立ち続ける男の正体とは? この後、強盗たちはまったく予期せぬ結末を迎えるのです。タイトルの「もの言わぬ人質」たちの正体が明かされた後に起こる出来事には、読者も驚かされるはず。人情作家ギャリコにも似合わぬ冷酷な殺人者たちですが、彼らは、まさしく神の配剤とでもいうべき罰を受けます。残酷な悪党たちがのさばる話かと思った方も、ちゃんとハッピーエンドが待っていますので、ご安心を。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
こんちは!
http://jump.sagasu.in/goto/blog-ranking/で取り上げられていたので、見にきました。僕もブログをはじめようカナと思っています。又見に来ますね(^^)ノシ
【2006/03/04 11:57】 URL | 鈴木 #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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