死を呼ぶ女  アントニー・ギルバート『つきまとう死』
4846006549つきまとう死 (論創海外ミステリ)
Anthony Gilbert 佐竹 寿美子
論創社 2006-01

by G-Tools

 莫大な財産を背景に、一族を支配する尊大で専制的な老母。財産目当てに母親に取り入る子どもたち。愛憎が渦巻く人間関係のさなかに殺人事件が…。
 ミステリではある種お馴染みになった、いわゆる「一族もの」作品。そんな使い古された形式ながら、人間ドラマの上手さで読ませるのが、アントニー・ギルバートのミステリ『つきまとう死』(佐竹寿美子訳 論創社)です。
 高齢の女性レディ・ディングルは、亡き夫から莫大な財産を引き継いでいました。彼女は財産を後ろ楯に、子どもたちを精神的に支配していたのです。借金をかかえるロジャー、融資を欲しがるセシル、息子やその妻たちは、それぞれの事情から、母親を嫌いながらも、その莫大な財産のおこぼれにあずかるべく、恭しく接していました。
 そんなおり、レディ・ディングルの新たな「話し相手」として雇われた、美しい未亡人ルース・アップルヤードは、家族の予想に反して、レディ・ディングルのお気に入りとなります。気まぐれなレディ・ディングルは、遺言書を書き換え、ルースに大部分の財産を遺すと言い出したのです。発作を起こして寝込んでいたレディ・ディングルは亡くなりますが、死因は人為的なものであることが明らかになります。
 最も動機の強い人物として、ルースは逮捕されてしまいます。彼女には、無罪になったものの、かって父親を毒殺しようとした容疑、そして夫を謀殺した容疑がかけられていました。過去の事情も手伝って、ルースは追いつめられます。彼女に惹かれていた、一家の客フランクは、知り合いの有能な弁護士クルックを呼び寄せますが…。
 本書は、アントニー・ギルバートのシリーズ・キャラクターであるクルック弁護士が登場する作品なのですが、クルックが登場するのは序盤少しだけ。あとは、物語も相当後半になるまで登場しません。主に描かれるのは、ルースの過去の因縁、そして一族の人間たちの愛憎あふれる人間ドラマです。
 殺人が起きるのも、かなり後半なのですが、それまでの人間ドラマが濃密なので、退屈はしません。とくに、気弱な性格から、母親に虐げられてきた次男セシルと、かってセシルとの仲を引き裂かれた後も、レディ・ディングルに数十年間も家政婦として仕え続けてきたケイトのキャラクターは秀逸です。やがてセシルが若い娘ヴァイオレットと結婚することになり、ケイトは複雑な立場に置かれるのも興味深いところです。
 加えて「話し相手」として一家に入り込んで若き未亡人ルースの存在が、物語を複雑かつ読みごたえのあるものにしています。過去に二件も殺人容疑をかけられた彼女は、ほんとうに殺人者なのか。そして今回の殺人も彼女の仕業なのか。容疑者が入り乱れ、サスペンスは途切れることがありません。
 探偵役のクルックが、序盤と終盤それぞれ少しづつしか登場しないこともあって、長々と調査をしたり尋問をしたりという、この手の作品につきものの退屈さとは無縁です。ただそれゆえ、トリックであるとかアリバイであるとかいった「本格ミステリ」的な要素はかなり控え目になっています。
 細やかな人物描写、そして登場人物たちのからみを丁寧に描いているため、殺人の「動機」という点では、非常に納得のゆく結末となっています。
 発表年は1956年の作品ですが「推理パズル」的な興味よりも、「人間ドラマ」部分を重視したつくりは、現在でも充分通用する面白さです。
この記事に対するコメント

こんばんは。
この本は新刊で読んだはずなのですが、記憶が・・・・・

kazuouさんの紹介文を読んで、「こんなに面白そうな本だっけ?」と
再読せねばと思うのでした。

ちゃんと読んでいない自分を反省。
【2008/09/30 20:34】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
派手さはないけれど、読み進めるうちにじわじわと面白くなる…という、イギリス作品にはよくあるタイプの作品です。
ギルバートは以前読んだ『薪小屋の秘密』のときもそうでしたが、トリックであるとかミステリ的な結構よりも、人物とか物語自体に魅力がありますね。
【2008/10/01 20:38】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/328-19ca5697
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する