永遠の夏  外薗昌也『琉伽といた夏』
琉伽といた夏 1 (1) 琉伽といた夏 2 (2) 琉伽といた夏 3 (3) 琉伽といた夏 4 (4)

 広瀬正『マイナス・ゼロ』、ジャック・フィニィ『愛の手紙』、リチャード・マシスン『ある日どこかで』、そして梶尾真治の諸作など、「タイムトラベル」と「恋愛」をからめた作品は数多く存在します。
 このタイプの作品が多いのは、ラブストーリーの要諦である「障害」を、現実では考えられないぐらい大きくすることができる、という点からも説明することができるかと思います。つまりこのタイプの作品では、恋愛の「障害」は、「年の差」や「身分」ではなく「時間」であるというわけです。それゆえ「タイムトラベル・ラブストーリー」で描かれる「恋愛」は、成就が非常に困難であり、恋人同士が結ばれずに終わる、というかたちのものも多いようです。
 外薗昌也の漫画作品『琉伽といた夏』(集英社 ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)も、そんな「タイムトラベル・ラブストーリー」のひとつですが、ここで描かれる「恋愛」の「障害」は、並大抵ではありません…。
 平凡な日常を送っていた高校生、遠野貴士と弥衣の兄妹。しかしある日、空に現れた閃光の直撃を受けた弥衣は、おかしな言動を見せるようになります。真夜中、弥衣が銃器らしきものをいじっているのを見つけた貴士は、妹を問いつめますが、弥衣の口から出た言葉は驚くべきものでした。
 私は、弥衣ではない、琉伽だ。なんと彼女は、31年後の未来からやってきた人間だというのです。タイムトラベル薬品の服用により、人格データのみがこの時代にジャンプしてきたと話す彼女の目的は、未来から逃亡した凶悪犯を見つけ出し、消却すること。琉伽は、弥衣の多重人格ではないかと疑る貴士も、琉伽の話から、彼女を信じ始めます…。
 未来からの凶悪犯を追ってきた正義の戦士、というと『ターミネーター』もどきの話を想像してしまいますが、この作品の魅力は、そうしたアクション部分にはありません。むしろ、未来からやってきた琉伽と貴士との淡い恋愛こそが主眼です。互いに思いを寄せる二人を阻むのは、琉伽が貴士の実の妹である弥衣の体を借りている、という事実。つまりは、純粋にプラトニックな恋愛にならざるを得ないわけです。琉伽への思いに胸を焦がしながらも、同じく大切に思う妹のために悩む貴士の心理が読みどころといえるでしょう。
 物語が後半になるにしたがって、単なる善対悪に見えていた物語の様相も変わってきます。正義だと思っていた琉伽が必ずしも正義ではなく、敵の側もまた一概に悪とは言い切れないことがわかってくるのです。歴史を変えることは正しいことなのか、しかも未来が暗胆たるものであった場合には?
 より大きなテーマをはらみつつ、物語は、クライマックスを迎えます。そして貴士に与えられた究極の選択、琉伽と弥衣のどちらを救うのか? その選択はまた、世界の未来を決める決断でもあるのです。
 著者の外薗昌也は、根っからのSFファンらしく、各話のタイトルが全て、海外SF作品からとられています。第1話は『夏への扉』、第2話は『人間の手がまだ触れない』、第3話は『人形つかい』など。最終話タイトルは『ハローサマー、グッドバイ』。つい先頃復刊されたマイクル・コーニイの作品からとられています。
 ネタを割るので詳しくは書きませんが、タイトルにもある「夏」もまた、作品の重要なファクターになっており、最終話『ハローサマー、グッドバイ』では、コーニイ作品の内容ともリンクするという、非常に技巧的な手法が使われています。そして、ここでなぜタイトルが『琉伽といた夏』でなければならなかったのか、読者にも得心がいくことでしょう。
 純粋に一個の作品として見た場合にも、ほろ苦い青春ラブストーリーとして充分に魅力的な作品ですが、海外SF好きの方なら、より楽しむことができるでしょう。とくにマイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』(山岸真訳 河出文庫)を読んでおくと、さらに楽しめること請け合いです。
 巻末にはおまけとして、各話タイトルのもとになったSF小説の簡単なガイドもついていますので、興味を持った方はいろいろ読んでみるのも一興かと思います。
この記事に対するコメント
外薗昌也
外薗昌也は、「わたしはあい」しか読んだことないですが、「琉伽といた夏」も面白そうですね。
「ハローサマー、グッドバイ」は読んでないですけど大丈夫でしょうか。
【2008/09/10 10:58】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>タツナミソウさん
「わたしはあい」もなかなか面白い作品でしたね。前半と後半で、ものすごいトーンが変わってしまうのに驚きましたが、あれはあれで面白いです。

最新作の『明日泥棒』もSFだし、外薗昌也は、かなりSF好きなんでしょうね。
『琉伽といた夏』は、作者のSF愛が伝わってくるくらい濃いSF漫画で、その点あんまりSFに興味がないと、逆につらいかもしれません。ただ、SF的な要素を差し引いても、青春ラブストーリーとして楽しめるので、ぜひ読んでいただきたいです。
『ハローサマー、グッドバイ』を読んでなくても、物語を楽しむのには支障はないですよ。
【2008/09/10 22:01】 URL | kazuou #- [ 編集]

人形つかい
各話のタイトルが泣かせます。
『人形つかい』なんか懐かしすぎて…
それぞれ本歌取りの内容なんでしょうね。背中に瘤状のエイリアン?
【2008/09/10 22:23】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
「本歌取り」というほどのものではなくて、その回のテーマに近い雰囲気のタイトルが、フィーリングで使われている、という程度のものですね。ただ、最終回の『ハローサマー、グッドバイ』だけは、かなり内容とリンクした感じになっています。
内容との一致はともかく、SFファンとしては、各話のタイトルだけで嬉しくなってしまいますね。上の記事には挙げませんでしたが、「人間以上」「影が行く」「何かが道をやってくる」「愛はさだめ、さだめは死」など、他にもたくさん名作SFタイトルが並んでいますよ。
【2008/09/11 20:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


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