ロマンチック志向  風見潤編『見えない友だち34人+1』
見えない友
見えない友だち34人+1―海外ロマンチックSF傑作選3 (1980年)
集英社 1980-09

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 少女小説で知られる「コバルト・シリーズ」から、何冊かSF関係のアンソロジーが出ていたことは、今となっては、あまり知られていない事実です。レーベルがレーベルだけに、難解なハードSFなどとは無縁、主に、恋愛やロマンチックな題材を扱った、どちらかというと、ファンタジー寄りの作品が多く選ばれているのが特徴です。
 そのなかでも、さらにロマンチック路線を突き詰めたのが〈海外ロマンチックSF傑作選〉シリーズです。『魔女も恋をする』『たんぽぽ娘』『見えない友だち34人+1』と、全3巻のこのシリーズ、いまでもわりと人気があるようです。梶尾真治の本でよく言及されていることもあって、ロバート・F・ヤングの名作『たんぽぽ娘』が収録された『たんぽぽ娘』などは、古書でも引っぱりだこのようですね。
 さて、最初の2巻、『魔女も恋をする』『たんぽぽ娘』が、主に既訳のあるものを編集したのに対して、最終巻『見えない友だち34人+1』(風見潤編 浅倉久志他訳 集英社文庫コバルト・シリーズ)は、全編初訳の作品を収めています。今でもこれ以外の本では、読めない作品が多いのではないでしょうか。
 今回は、このアンソロジーから紹介しましょう。

 ゼナ・ヘンダースン『見えない友だち34人+1』 転校生のマーシャが、学校に連れてきたのは、空想上の友だち「ル-・リー」。男か女かもわからず、マーシャ以外の目には見えないル-・リーに、クラスメイトたちは不審の念を抱きますが、やがてマーシャの思いに感化された彼らは、ル-・リーの存在を受け入れるようになります。そんな様子を見守っていた担任教師の「わたし」は、ある日、ルー・リーの声が耳に入るのを感じ、驚きますが…。
 ゼナ・ヘンダースンお得意の、ナイーヴな子供を扱ったファンタジーです。結末も予想がつくものの、やさしい筆致で描かれた物語は、読んでいて心地のよいものです。

 ロバート・F・ヤング『時を止めた少女』 公園でひょんなことから、長身のブルネット美女ベッキイと知り合いになった青年ロジャーは、彼女に一目惚れをしていまいます。ベッキイに会いたさに、再び公園を訪れたロジャーは、そこで発音のおかしい、可憐な少女エレインに出会います。アルタイルから宇宙船でやってきたというエレインの素っ頓狂な話に、適当に相づちを打つロジャーに対し、エレインはなぜかロジャーに積極的に迫ります。しかしすでにベッキイに心を奪われているロジャーは、相手にしようとしません…。
 二人の美女の間で揺れ動く青年、しかも相手役の女性はブルネットとブロンド。かなりステレオタイプなラブストーリーなのですが、わかっていても最後まで読まされてしまうところが、ロマンチックSFの巨匠ヤングの力業というべきでしょうか。

 アーサー・セリングス『地球ってなあに』 「ネコ」や「木」について、子どもたちから質問されたエムは困惑していました。ロボットであるエムには、質問にどう答えていいかがよくわからないのです。しかも、この場には存在しないものに対して、どう説明すればいいのか。人間の大人はひとりも存在せず、頼れるのは同じロボットのパートナーであるジェイだけ。やがて好奇心に捕らえられた子どもたちは、真実を知りたがりますが…。
 「ネコ」や「木」は存在せず、大人もひとりもいない。子どもたちを養育するのは、二体のロボットのみ。この世界には何か秘密があるに違いない…。SF慣れした人なら、すぐわかるテーマではあります。ただ、真実を知った子どもたちが、希望を失わないところに、ポジティブな未来志向が感じられます。

 ジェイムズ・ガン『魔術師』 謎の老婦人ピーボディ夫人から、奇妙な依頼を受けた私立探偵ケイシィ。その依頼とは、ある男の本名を探りだしてほしいというもの。しかもその男は、たびたび姿を変えるかもしれない、というのです。捜査に乗り出したケイシィは、その男がいるらしい会合に紛れ込むことに成功します。しかしそれは、魔術師たちの会合だったのです。「エリアル」と名乗る娘と出会ったケイシィは、協力して男を探そうとしますが…。
 アンソロジーの半分近くを占める中編作品です。私立探偵が、魔術師たちの争いに巻き込まれるという、完全なファンタジー作品。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ヤング、好きです
こんにちは。

いま『ライト』を読んでいます。
最初のほう、状況がつかみにくく、どうなることかと思いました。
そのわりに絵が浮かびやすく、先を読む気にさせてもくれます。
ただ、なかなかスピードがあがらないんですけどね。

ヤングはしばらく読んでませんが、いまだに好きです。
『たんぽぽ娘』の邦題は、たしか直訳だと思いますが、
これ以外は考えられない気がします。
【2008/09/02 12:30】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

>kennさん
『ライト』は、僕も購入しましたが、さっそく積読です(笑)。

ヤングの『たんぽぽ娘』の邦題は、改めて考えると、絶妙なタイトルですよね。河出書房の〈奇想コレクション〉シリーズから、『たんぽぽ娘』を冠した短編集が出る予定だそうですけど、まだまだ刊行は先のようです。
【2008/09/02 20:43】 URL | kazuou #- [ 編集]


ヤングの短編集ですか。
楽しみです。
【2008/09/03 12:32】 URL | kenn #NV6rn1uo [ 編集]

う~ん、ロマンチック…
新古書店めぐりでも「コバルト・シリーズ」まではさすがにチェックしていませんでした。
いかにも、らしくていいですね。
非常に気になるラインナップです。
【2008/09/03 22:32】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

>迷跡さん
このシリーズ、中身はけっこう本格派なんですよね。翻訳も浅倉久志とか、ちゃんとしたプロの人たちのものだし。
ロマンチックなファンタジー中心ゆえ、意外に古びていないこともあって(メロドラマ自体が古くさいと言われればそれまでなのですが)、いま復刊しても、けっこう受けるんじゃないでしょうか。
【2008/09/04 19:57】 URL | kazuou #- [ 編集]

コバルト
そういえば、後に続く『天使の卵』や『ロボット貯金箱』も『天使の卵』中の「我家の異星問題」
(キャロル・カー)以外はここでしか読めない、というのばかりでしたよね。
他の推理ものやSF,ホラーものもオーソドックスなもので広く受け入れられそうな作品が
多かったような。

でも、なんといっても’80のコバルトの注目は山尾悠子『オットーと魔術師』でしょう。
ここから著書が出た!というのがびっくりです。
【2008/09/05 01:09】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

>shenさん
コバルトの海外シリーズは、わりとマイナーながらも、とっつきやすいものが多く収められていて、とてもいいセレクションでしたね。
〈海外ロマンチックSF傑作選〉はともかく、『天使の卵』や『ロボット貯金箱』まで来ると、かなり本格的なSFアンソロジーになっていると思います。
今考えると、山尾悠子とコバルト、というのは、ものすごく違和感があるんだけれど、かってのソノラマといい、コバルトといい、むかしのヤングアダルト文庫は意外に間口が広いなあ、と思わされますね。
【2008/09/05 20:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


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