ふしぎな人間たち  シオドア・スタージョン『影よ、影よ、影の国』
影よ
影よ、影よ、影の国―怪奇とファンタジーのスタージョン傑作選 (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
シオドア・スタージョン
朝日ソノラマ 1984-01

by G-Tools


 いまや、日本でも根付いた感のあるスタージョン人気。復刊により、代表的な作品もずいぶん読めるようになりましたが、唯一復刊されていない短編集がこれ、『影よ、影よ、影の国』(村上実子訳 ソノラマ文庫)です。
 傑作揃いの『不思議のひと触れ』『輝く断片』などの収録作品に比べると、明らかに「小粒」と言わざるを得ないのですが、それでも中には、スタージョンらしい異様な発想や展開を見せてくれる作品も含まれています。

 『影よ、影よ、影の国』 子供嫌いな継母から、ことあるごとに叱られていた少年ボビー。ある日、おもちゃ遊びを禁じられた彼は、影あそびを始めます。罰を与えているはずなのに、部屋から聞こえる笑い声に継母は激昂しますが…。
 子供の想像力を扱ったダーク・ファンタジーです。こういう孤独な子供を描かせると、スタージョンは上手いですね。

 『秘密嫌いの霊体』 ある日、風変わりな娘マリアに一目惚れしたエディ。しかしマリアには秘密がありました。彼女は「憑衣」体質であるというのです。それは、周りの人々の悪意や憎悪を感じ取り、真実を人々の前にさらけ出してしまうという能力でした。人前に出るのを嫌がるマリアをパーティに連れ出したエディは、彼女の告げ口によって、仕事を失ってしまいます…。
 美人で聡明ながら、秘密をまったく守れない妻。夫が考え出した打開策とは…?
 「霊」が憑くのではなく、「憎悪」が憑いてしまう、という発想は、じつにユニーク。エンタテインメント性の強いアイディア・ストーリーです。

 『金星の水晶』 重要な資源である「金星水晶」を手に入れるため、宇宙船で金星に向かったクルーたち。しかし、技術者や専門家ばかりのクルーの中で、喜劇役者スロープスは、ただ一人場違いな人間でした。何の役にも立たないスロープスを、皆は笑い者にします。やがて到着した金星で、先住民である〈わめき屋〉たちにクルーたちは襲われます。スロープスは一人で彼らに向かっていきますが…。
 人間とは異なる宇宙人の文化と同時に、軽んじられていたスロープスの本当の性質もまた明らかになります。明かされる真実も、じつに諧謔に富んだもの。認識の相対性を描いた、スタージョンらしい佳作です。
 
 『嫉妬深い幽霊』 若く美しい娘アイオラ。しかし、彼女の周辺に近付く男たちには、必ず災難が降りかかるのです。それは彼女に恋慕する「嫉妬深い幽霊」のせいだと考えたガスは、ある対策を考えますが…。
 幽霊を欺く手段が、ちょっと拍子抜けです。軽めのゴースト・ストーリー。

 『超能力の血』 超能力を持つ「ぼく」の血を引いた娘トウィンクは、生まれる前の胎児ながら、父親とのテレパシーを発達させていました。事故の衝撃で、母体ともども傷を負ったトウィンクが瀕死の状態であると思い込んだ「ぼく」は、彼女を生かすべきなのか逡巡します…。
 超能力を持つ親子の絆を語った作品。赤ん坊の原初的な感情に圧倒される父親の苦悩が読みどころです。

 『地球を継ぐもの』 愚かな行為を繰り返し、絶滅の淵に立たされた人類は、自分たちの英知を合金に彫り込み、次代の生命に残そうと考えます…。
 人類を継ぐ種族は、ある動物。この動物の選択がスタージョンならではというべきでしょうか。シリアスなテーマながら、動物のあっけらかんとした様子がユーモアを持って描かれます。

 『死を語る骨』 発明家ドンジーが作り出したのは、骨からその生前の記憶を追体験できるという装置でした。羊や牛の意識を体験した彼は、ふと疑問にとらわれます。一週間前に事故死した女性ユーラの骨を見てみれば、彼女の死因がわかるかもしれない。愛人と駆け落ちをしようとした矢先の事故だと言われているが、彼女はそんな人間ではないはずだ。ユーラをないがしろにしていた夫ケリーに、ユーラの骨で記憶を追体験させようと、ドンジーは考えますが…。
 「骨」の人生を追体験できるという装置をめぐるファンタジー。動物の「骨」を体験するユーモラスな前半部分と、不幸な女性ユーラをめぐるシリアスな後半部分とが、コントラストをなしています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

先ほどコメントしたら、エラーになってしまいました(泣)
ので、もし二重投稿になっていたらスミマセン。

この本ではロマンス風味の「秘密嫌い・・・」「嫉妬深い・・」の2作が気に入りました。
どちらもアイディアが秀逸。
「嫉妬深い」のほうで、アイオラが幽霊を惹きつける要因となる描写に、(日本人だと実感がわかないけど)ありそうと思いました&対処方法が、これで効くのか?とも思いました。

この作品って、もっとユーモアをきかせたらブラウンの作品って感じだと思いますが。
(スタージョンぽくない)
今、ブラウンを読んでいるからかもしれません。
【2008/08/14 15:29】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
そうですね、この短編集は、わりとアイディア・ストーリー中心になっているというか、スタージョンのアクの強さが抑えられているような感じがします。
『秘密嫌いの霊体』なんか、結末のオチといい、まさにブラウン風の作品ですよね。『嫉妬深い幽霊』は、オチがかなり脱力系ではあるんですけど、スタージョンでもこんなのがある、という意味では面白い作品でした。
【2008/08/14 19:21】 URL | kazuou #- [ 編集]


この短編集はソノラマ海外らしく”幻想と怪奇”色の短編を選んで編まれた一冊ですよね。
他にも別な短編が2編ほどソノラマ海外にそれぞれ収録されていました。


私は『金星の水晶』と『死を語る骨』のストーリー性が好みです。
『金星の水晶』はラストの一文がいいですよね。

『影よ、影よ、影の国』はリンドグレーンの『小さいきょうだい』とラストの雰囲気が似ています。
筋も似ているのですが、読後感はスタージョンの場合、ほくそ笑むのに対しリンドグレーンは
寂淋としてきます。未読でしたら是非。
【2008/08/18 21:09】 URL | shen #SgmGMb7Y [ 編集]

>shenさん
やっぱり、叢書の性格上、ホラー寄りの作品が集められてますよね。その分「スタージョンらしさ」が後退している感じはします。
『金星の水晶』と『死を語る骨』は、どちらもスタージョンらしさが出た作品ですね。とくに『金星の水晶』で、軽んじられていた人間のほんとうの姿が明らかになるところなんか、とてもいいです。

リンドグレーンはぜんぜん読んだことないんですよね。機会があったら、ぜひ読んでみたいと思います。
【2008/08/19 19:49】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
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