深夜のショッカー  ロバート・ブロック『夜の恐怖』
夜の恐怖夜の恐怖 (1960年) (世界ミステリシリーズ)
中田 耕治
早川書房 1960

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B0018B7IIMデッド・サイレンス
ライアン・クワンテン, アンバー・ヴァレッタ, ドニー・ウォルバーグ, ボブ・ガントン, ジェームズ・ワン
ジェネオン エンタテインメント 2008-07-09

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 最近、ある映画作品を見て、思うところがありました。具体的なタイトルを挙げさせてもらうと、ジェームズ・ワン監督のホラー映画『デッド・サイレンス』なのですが、結末を見終えて思いました。これってロバート・ブロックじゃない?
 刺激的なストーリー、悪趣味すれすれのブラック・ユーモア。ホラー小説を書き続けてきた、ロバート・ブロック風の味がそこにはありました。その意味で、ブロック作品は、いまだにアメリカの映画や小説に影響を与え続けているんだなあ、と嬉しくなりました。
 現在でも、サービス精神にあふれたロバート・ブロックの作品は、楽しく読むことができます。ホラーといっても、例えばスティーヴン・キングのように、リアルで身につまされるような類いのものとは異なります。ブロックの作品は、ある種「フィクション」であることを意識しつつ楽しむ、というタイプの作品なのです。
 今回は、そんなブロックの短篇を集めた『夜の恐怖』(中田耕治他訳 ハヤカワ・ミステリ)です。

 『夜の恐怖』 深夜に玄関のドアの音で眼をさました、ボブと妻のバーバラ。そこに立っていたのは友人のマージョリイでした。彼女はたしか、神経障害で精神病院に入院していたはず。病院から逃げ出してきたというマージョリイは、夫が、自分を病院に閉じ込めたというのですが…。
 深夜に精神病院から脱走してきた女性の告白。彼女の言っていることは本当なのか、妄想なのか? すべてが妄想だと思わせてじつは…というストーリーは、予測がつきやすいものの、結末の処理は非常に巧妙です。

 『湖畔』 刑務所で知り合った男から、隠してあるという大金の情報を手に入れたラスティは、金を手に入れるため、男の未亡人ヘレンに近付きます。男の話とはまるで違うヘレンの容姿に失望しながらも、ラスティは金を手に入れるために、ヘレンに惚れたふりをよそおいますが…。
 大金を横取りしようという男の犯罪計画。しかしそこには落とし穴が…。単純なクライム・ストーリーかと思いきや、終盤のどんでん返しには驚かされます。

 『心の友』 包容力のある母性的な妻を持つジョージ。何の不満も感じずに過ごしていたジョージのもとに、ふとしたことから、大金が転がり込みます。友人のロデリックは、妻を始末して人生を楽しむべきだ、とジョージをそそのかしますが…。
 悪魔的な友人ロデリック。彼の言うことに心を惹かれながらも、誘惑をはねのけるジョージでしたが…。ブロックの技が冴えるサイコ・サスペンス作品。

 『みごとな想像力』 手伝いの青年と妻との不倫に気づいたローガンは、ある計画をたてます。ただ殺すだけでは能がない。彼の計画は着々と進みますが…。
 「想像力」を駆使した犯罪の結果とは…。ポーの作品に触発されたと思しい犯罪小説です。

 『趣味をもつ男』 ボーリング大会で盛り上がっているある街。酒場には、ボールを入れたバッグを持った男たちがたむろしていました。そこで「ぼく」は、スポーツを馬鹿にする、傲慢な男と出会います。やがて男は「人切り魔」の話を始めますが…。
 殺人を匂わせる不穏な男。彼は殺人鬼なのだろうか? ブロックらしいオチが楽しめる、鮮やかな作品。

 『幸運の女』 ツキに見放され、アル中寸前になっていた青年フランキーは、ある夜、赤いドレスの黒髪の美女に出会います。彼女の指し示す通りに行った賭けも行動も、すべてが上手くいくのです。しかも、彼女の姿は自分以外には見えないらしいのです。彼女は幸運の女神に違いない。しかし調子にのった彼は、彼女を邪慳に扱ってしまいます…。
 「幸運の女神」をめぐるファンタジー、なのですが、作者がブロックだけに、結末はホラーのそれになっています。

 『真珠の頸飾り』 東洋から来たという美しい王妃。彼女の持つ真珠の頸飾りに眼を奪われた、詐欺師の二人組は、頸飾りを盗み出そうと画策します。相棒のウィリアムは、王妃を口説いたとジェリーに自慢しますが、その直後に姿を消してしまいます。相棒の行方を知っているという王妃に誘われ、彼女のもとを訪れたジェリーでしたが…。
 近付く男たちが次々と失踪してしまうという、謎の王妃。彼女の正体とは…? 結末の強烈なブラック・ユーモアが読みどころです。

 さて、上記でふれた『デッド・サイレンス』ですが、簡単に紹介しておきましょう。
 ジェイミーとリサの若夫婦のもとに、ある日、腹話術の人形が送られてきます。人形と妻を部屋に残したまま、ジェイミーは外出しますが、帰宅すると妻は殺されていました。しかも舌を切り取られて。
 警察に容疑者扱いされたジェイミーは、妻の死は腹話術人形と関係があるのではないかと考えます。謎を解くために、その人形を作った腹話術師の住んでいた町、そして彼自身の故郷でもある、レイブンズ・フェアに向かいます…。
 この『デッド・サイレンス』の結末なのですが、これ、人によっては受け入れがたいものかもしれません。つまり、あまりに大げさで、ある意味「馬鹿らしい」からです。
 そしてそれは、ブロックの『夜の恐怖』の収録作品で言うと、『趣味をもつ男』『真珠の頸飾り』などの味に、非常に似ています。これらの結末を「ブラック・ユーモア」として、受け入れられるかどうかで、「B級ホラー」を楽しめるかどうかが、決まるように思います。逆に言うと、ロバート・ブロックの作品が好きな方は、『デッド・サイレンス』も楽しめるでしょう。
 興味を持たれた方は、『デッド・サイレンス』を見て、感想でも聞かせていただくと、嬉しいです。

この記事に対するコメント

こんばんは。
この記事をみて早速図書館でブロックさがしましたが「サイコ」ばかりで、「夜の恐怖」は探して貰わないと・・・になります。

いつもながら、kazuouさんは映像から本から幅が広いですねぇ。
私は、映画はとんとご無沙汰してます。
なかなか録り溜めた番組すらみていない状態です。

「夜の恐怖」はトライしてみます。
【2008/08/06 22:12】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ブロックの「夜の恐怖」は、たしかにあんまり見かけない本ですね。
ただ、正直ブロックの作品って、どれを読んでも同じような味のものが多いので、別段「夜の恐怖」でなくて、他の短編集でもいいような気がします(個人的には、その「味」が好きなんですが)。

映画も小説も好きですけど、僕も映画よりは、自分のペースで読める本のほうが好きですね。
【2008/08/07 19:42】 URL | kazuou #- [ 編集]


 ブロックの作品は「よくもまあこんな『いやあな』話を『いやあな』風に書けるものだ」と、おもわず感心してしまいますが(笑)、そこには彼の「異常」なまでの「過剰」な「サービス精神」に、大きな「こだわり」がプラスされたものなのでしょうね。今の世の「オタク」に通じるものがあるというか……(そういえば、現実に最近「趣味をもつ男」と同じような事件が起こったみたいですね)。
 そんなブロックが私も大好きなので(笑)、「デッド・サイレンス」もぜひ今度見てみたいと思います。
【2008/08/09 19:32】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]

>げしさん
ブロック作品は、作者が楽しみながら書いたような、いい意味での「サービス精神」がありますよね。例え、凡作であっても、そこにいい意味での「稚気」があるところに、好感を感じます。
「いやあな」話ばっかりなんだけれど、なぜかあんまり陰惨さを感じなくて、後味が比較的すっきりしているのも、エンタテインメント志向の強い、この作家の特質といっていいのかもしれません。

「デッド・サイレンス」は、大駄作だと言う人もいると思うんですが、ブロック流の「稚気」を愛する人にはとても楽しめる映画だと思いますので、ぜひ。
【2008/08/09 20:46】 URL | kazuou #- [ 編集]


俺もブロック作品は大好きです。
グロテスクになるぎりぎりでさっと引くみたいなところが好きです。
他にもフレデリックブラウンが好きだな。
【2008/08/10 21:55】 URL | hitosi #mQop/nM. [ 編集]

>hitosiさん
はじめまして、コメントありがとうございます。
ブロックは、ほんとうに不快になる一歩手前で抑えているところが、職人芸ですよね。いい意味で「楽しめる」ホラーを書く作家だと思います。
【2008/08/11 20:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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