乱歩大正浪漫  東 元『江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋』
赤い部屋江戸川乱歩怪奇短編集~赤い部屋 (ヤングジャンプコミックス)
東 元
集英社 2008-07-18

by G-Tools

 現在でも人気のある江戸川乱歩作品。映像化作品をはじめ、漫画化作品も数多く出版されてきました。ですが、私見によれば、今までの漫画化作品は、乱歩作品の怪奇性・官能性を強調したタイプの作品が多かったように思います。最近の作品から挙げると、丸尾末広 『パノラマ島綺譚』(BEAM COMIX エンターブレイン)などは、その最たるものといえるでしょう。
 もともとの乱歩作品自体に、そういう要素が強いのは事実なので、それはそれでひとつの方向性だとはいえます。
 今回、乱歩作品の漫画化を担当したのは、東 元。大正時代を舞台にした作品には定評のある作者です。たおやかな描線で描かれた、今回の漫画化作品『江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋』(ヤングジャンプコミックスBJ 集英社)は、今までの漫画化作品よりも、より繊細で、ロマン性の高まった作品集に仕上がっています。
 原作として取り上げられているのは、主に初期短篇です。収録作品のタイトルを挙げておきましょう。

 『百面相役者』
 『双生児』
 『人間椅子』
 『鏡地獄』
 『人でなしの恋』
 『赤い部屋』

 基本的には、原作に忠実な漫画化となっていますが、いちばんの特色としては、全体が枠物語のかたちになっているところでしょうか。この世の快楽に倦み果てた会員たちが集う、秘密倶楽部「赤い部屋」を舞台に、毎回ゲスト会員たちが、自身の物語を語る、という構成の連作短編集となっています。
 もちろん乱歩作品であるので、猟奇的な事件が起こるわけですが、それらの事件よりも、より印象に残るのは、たおやかな女性像です。『人間椅子』に登場する女性作家、『鏡地獄』のお手伝いの女性、そして『人でなしの恋』の人妻…。「妖艶」というよりは「清楚」といった方がふさわしい女性たちには、とても魅力があります。
 その点でより魅力的なのは、冒頭に置かれた作品『百面相役者』でしょう。まるで本物としか思えない、複数の人物に化ける、美貌の女役者を描いたこの作品、女役者のみならず、作中で描かれる芝居の雰囲気も巧みで、見事な出来になっています。
 そう、作品を通して、大正時代の雰囲気が上手く醸成されているのにも感心しました。そしてそれがいちばんよく出ているのが、最後に置かれた『赤い部屋』です。絶対に捕まらない「プロバビリティー(可能性)の犯罪」を追求した青年が、最後に選んだ犠牲者とは…。
 夜の都会を背景に、秘密倶楽部の終焉を描いたこの作品、結末の付け方も絶妙なのですが、最後から1ページ前、見開きで描かれる夜の風景の美しさは絶品!
 上記でもふれたように、この作品集、猟奇性はあまり強くありません。それゆえ、乱歩独特のどろどろとした情念はあまり感じられないのですが、そのかわり、透明感のあふれるロマン性の強い作品集になっています。
 初期短篇を中心に集めたのも、「大正浪漫」という、この作品集のテーマにマッチするがゆえでしょうか。乱歩作品の新たな魅力を描き出した、という点でも、出色の作品といえるでしょう。ぜひ、続きのシリーズも描いていただきたいですね。
 参考に、著者のホームページアドレスを貼っておきます。画風を見てみたい方はどうぞ。
http://www3.ocn.ne.jp/~azumagen/

この記事に対するコメント
これは…!!
これはおもしろそう。
 『赤い部屋』で枠物語とはいかにも考えそうですが、そこにどのような物語を配するかが腕のみせどころ。
中4篇はなるほどそれなりにわかるセレクトですが、冒頭に『百面相役者』をもってきましたか!! 
原作は、ちょっとなあ…、という感じのものですが、このような処理をするとあら不思議、大正浪漫の香りが…というわけですね。
書店にいったら探してみます。


【2008/07/26 14:55】 URL | 迷跡 #8Vfzr.cc [ 編集]

乱歩漫画
荒俣先生の推薦文が効いてますね(笑
実は、丸尾末広「パノラマ島綺譚」の評判が良かったので購入して読んだのですが、私にはちょっと・・・だったんです。

こちらは清楚な女性像ということで、読んでみたいです。
私も書店で探してみます。
【2008/07/26 20:01】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>迷跡さん
定番作品はともかく、『百面相役者』と『赤い部屋』が、かなり印象的でした。
今までの乱歩の漫画化作品って、カルト系の漫画家が手掛けているものが多いこともあって、「どろどろした」イメージが強いんですけど、今回の東元作品は、「すっきり」といっては変ですけど、綺麗にまとまっていて良質な作品だと思います。
【2008/07/26 22:22】 URL | kazuou #- [ 編集]

>タツナミソウさん
丸尾末広「パノラマ島綺譚」もお読みでしたか。これ、傑作だとは思うんですけど、やっぱり「怪奇性・官能性を強調したタイプ」の極致ですよね。その点、あんまり一般向けではないかな、と思います。
東元作品は、やっぱり女性像が魅力的です。「官能的」なシーンもわりとあるんですけど、いやみにならずに「綺麗」なんですよね。その意味でも、一般にもオススメできる良品だと思います。

この東元という人の作品、他にも読んでみたいんですけど、全部絶版らしいんですよね。乱歩に限らず「探偵もの」をやると、すごく面白そうな感じがするんですけど。
【2008/07/26 22:27】 URL | kazuou #- [ 編集]

はじめまして!!
時々、のぞかせていただいてます、たちばなです。

江戸川乱歩作品の漫画化ということで、とても興味を惹かれました。
是非、読んでみたいです。

ミステリ小説の情報は、なんとかなるのですが、コミック関係は、ほんとんど興味がないため、こういう情報も知らないままのことが多いです。

乱歩と大正浪漫、いいですよね!!
【2008/07/26 22:35】 URL | たちばな ますみ #- [ 編集]

>たちばな ますみさん
はじめまして、コメントありがとうございます。

僕もコミックを全部チェックしているわけではないのですが、原作付きのものは気になるので、なるべくチェックするようにしています。
乱歩作品の漫画化ということでは、今まであまりなかったアプローチの作品かと思います。ほんとうに、オススメの作品ですね。
記事中でもふれた、丸尾末広 『パノラマ島綺譚』も方向性は違うものの、傑作だと思うので、こちらも機会があったらぜひ。
【2008/07/27 07:47】 URL | kazuou #- [ 編集]

乱歩、乱歩!!
乱歩って、時代が変わっても、ほんとに魅力的で、刺激的ですね。

ところで、丸尾末広「パノラマ島綺譚」は既読なんです。しかも、どーしても読みたくて、本を買ってしまいました・・・
(コミックスは図書館にはないので、仕方なく。それに、どんどん増えるので、基本的に本は買いません。小説もです)

でも、この〝赤い部屋〟は読みたいので、買うことにします。
夏休み(そんなもの、ありませんが・・・)のお楽しみのひとつとして。ワクワクです!!
【2008/07/27 23:44】 URL | たちばな ますみ #- [ 編集]


僕も、積読本がたまっているのですが、やっぱり好きな本は持っていたい、というのがあるので、本は買ってしまいますね。

丸尾末広「パノラマ島綺譚」は、お読みでしたか。これも持っていても損のない作品だと思います。
乱歩の漫画作品もいろいろ読みましたが、『赤い部屋』は、個人的にはベストだと思ってます。
【2008/07/28 20:34】 URL | kazuou #- [ 編集]

うつし世は夢
やっと本屋で見つけて読めました。
荒俣先生の、「平成の乱歩ができあがったな」の言葉は本当でしたね(笑

各作品、ちょっとずつ原作を換骨奪胎してあるのも含めて愉しめました。
とくに「人間椅子」では、女性作家側の事情を、東元氏が創作していますよね。
これは、なかなかいいなあと感心しました。

kazuouさん絶賛の、最後のページの夜の風景、あれは本当に素敵ですね。
【2008/08/29 15:59】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>タツナミソウさん
そうなんですよね、細かいところが、さりげなく現代風にアレンジされているところにも、上手さを感じました。そういう意味で、まさに「平成の乱歩」といえるかもしれません。
やっぱり、最後のページの夜の風景は素晴らしいですよね。
【2008/08/30 08:35】 URL | kazuou #- [ 編集]


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「江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋」江戸川乱歩×東元(あずま・げん)

~現世は夢、夜の夢こそまこと~ 江戸川乱歩の名前が出ると、つい読んでしまいます。 「人間椅子」「鏡地獄」などをはじめとした、乱歩の代表作を、「赤い部屋」でひと括りにしたコミック短編集。 たちばな屋・ミステリ分科会【2008/08/19 11:08】

プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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