切ない夏  マイクル・コーニイ『ハローサマー、グッドバイ』
4309463088ハローサマー、グッドバイ (河出文庫 コ 4-1)
山岸真
河出書房新社 2008-07-04

by G-Tools

 今はなきサンリオSF文庫から刊行され、SF青春恋愛小説として、カルト的な人気を得ていたマイクル・コーニイの『ハローサマー、グッドバイ』(山岸真訳 河出文庫)が、新訳で刊行されました。
 舞台は太陽系外のどこかの惑星、登場人物は全てが異星人です。ただし、異星人といっても、外見も考え方も、ほとんどが人間とそっくり、という設定であり、つまりは異星を舞台にした人間たちの物語、として読むことができます。
 この星には、二つの大きな国、エルトとアスタがありました。エルトの高官の息子ドローヴは、父親の仕事の関係で、夏の休暇の間、港町パラークシを訪れます。ドローヴは、ほのかな恋心を寄せていた、少女ブラウンアイズとの再会を楽しみにしていました。
 念願のブラウンアイズとの再会を果たしたドローヴでしたが、折しも、隣国アスタとの戦争が勃発し、政情は不安になりつつありました。それに伴い、以前から政府に不信感を抱いていた、パラークシの住人たちと政府との対立も深まっていきます。
 下層階級であるブラウンアイズと、息子がつきあうことを喜ばない両親。ドローヴにほのかな思いを寄せる、パラークシのリーダー的存在ストロングアームの娘リボンとの複雑な関係。やがて惑星規模の陰謀が進められるなか、ドローヴとブラウンアイズも否応なく、巻き込まれていきますが…。
 思春期を迎えた、少年と少女の淡い恋を描いた青春小説。これが序盤を読み進めている間の印象です。その意味で、かなりシンプルな構造の作品ではあります。しかし、二人の中を引き裂く戦争の影や周囲の無理解、そして、それに翻弄される主人公たちの微妙な心の揺れ動きなど、それだけで充分読みごたえがあります。
 加えて、異星の自然や動物たちのみずみずしい描写が、物語に彩りを添えています。異星だけに、その環境も地球とは異なるため、作中でもかなりのページを費やして、描写がされています。そして、それらが結末の伏線にもなっているところが、じつに心憎い。
 きな臭い戦争や、ほのめかされる陰謀を背景に、ゆるやかに進んでいた物語は、後半に至って急展開を迎えます。互いに気持ちを確かめあったドローヴとブラウンアイズはしかし、自分たちだけではどうすることもできない巨大な障害により、引き離されてしまうのです。二人を襲う絶望的なまでの状況と、ほのかに見える希望の光。
 純粋な青春小説、恋愛小説としてみても、充分に魅力的な作品なのですが、舞台を「異星」にした必然性が、最後の最後で明かされるという大仕掛けが待っています。ここに至って、この物語が「SF」であったことがわかるのです。
 作者も序文で語っているように、恋愛小説であり、戦争小説であり、SF小説でもある。多くの要素が渾然一体となった、傑作と呼ぶにふさわしい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
サンリオSF文庫
サンリオSF文庫って入手困難ですよね~。
ネットの古本屋さんでもなかなか見つからない。。
復刊(?)されてよかったです。

kazuouさんの感想を読んだら、おもしろそうなので
がんばってGETしようと思います(^_^)
SFで恋愛小説、たのしみです。
【2008/07/08 22:43】 URL | ユキノ #- [ 編集]

感激です
僕はサンリオ版を高い金出して買ったんですが、復刊がうれしくて買ってしまいました!
この作品が簡単に手に入る日が来るなんて…。
後書きによると売れ行きによっては続編も翻訳してくれるとか。
何とかして続編が出るようになってほしいものです。
【2008/07/09 15:07】 URL | ベネルクス #xWQIkCZA [ 編集]

>ユキノさん
これはオススメですね。
SF部分がなくても充分面白いんですけど、後半の急展開がまたいいんですよね。読んで損はない作品だと思います。

サンリオSF文庫も、いっときほどの高値ではなくなったんですけど、一部のレア作品はぜんぜんといっていいほど見かけないですね。コニイの作品なんか最たるもので、サンリオ版の『ハローサマー、グッドバイ』なんか、見かけたことすらなかったですから。
【2008/07/09 21:43】 URL | kazuou #- [ 編集]

>ベネルクスさん
続編があるなんて情報は、今回はじめて知りました。ここまで来たら、ぜひ実現してほしいですね。
コニイは未訳作品もまだたくさんあるようですし、他の作品も期待したいところです。
【2008/07/09 21:46】 URL | kazuou #- [ 編集]


読みました。
この作品にはSF的におかしい所や、人物像の掘り下げが足りないなど、
たくさんの欠点があります。
でもそんな事は全くどうでもいい。
この作品の描き出す世界に魅了されてしまいました。
続編もぜひ読みたい!
【2008/07/11 22:39】 URL | piaa #- [ 編集]

>piaaさん
たしかに、細かいところを見ていくと、物足りないところもありますけど、それらの欠点を打ち消すぐらい、描かれた世界が素晴らしい作品ですよね。
何と言っても、ヒロインのブラウンアイズがとても魅力的でした。
【2008/07/12 07:41】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/314-a44e64bb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する