不可解な結末  梅田正彦編訳『ざくろの実 アメリカ女流作家怪奇小説選』
ざくろの実ざくろの実―アメリカ女流作家怪奇小説選
梅田 正彦
鳥影社 2008-06

by G-Tools

 以前に出版された『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』は、なかなか粒ぞろいのアンソロジーでしたが、今回はそれと対になるような形で、アメリカの女流作家の怪奇小説を集めたアンソロジー、『ざくろの実 アメリカ女流作家怪奇小説選』(梅田正彦編訳 鳥影社)が出版されました。
 順次、紹介していきましょう。
 
 シャーロット・パーキンズ・ギルマン『揺り椅子』 下宿を探していた新聞記者の「おれ」とハアルは、ふと見上げた家の窓から、金髪の魅力的な少女を見かけて、その虜となります。さっそく、その家にかけあい下宿することになった二人でしたが、件の少女とは全く会うことができません。ある日「おれ」は、帰宅途中に、家の窓からハアルと少女とが一緒にいるところを見かけて、煩悶します。親友であったはずの二人の仲はだんだんと険悪になっていくのですが…。
 直接姿を現さない謎の少女、そして互いに抜け駆けをしているのではないかと疑う親友同士、やがて訪れる破局とは…? 
 問題作『黄色い壁紙』で知られるギルマンの作品ですが、この作品でも、登場人物間の心理的なやりとりに精彩があります。

 メアリー・ウィルキンズ・フリーマン『壁にうつる影』 弟エドワードの死を聞いて、久しぶりに集まった三姉妹。死因は病気だというものの、死の直前に長兄ヘンリーがエドワードを怒鳴りつけたことを、姉妹は快く思っていませんでした。
 そしてエドワードの死後、部屋の壁に不可解な影が現れるようになります。その影はどう見ても、部屋の家具の影ではありえないのです。そしてその形はエドワードにそっくりでした…。
 怪奇現象が、皆の目の前で、はっきりと現れるというところが面白い作品ですね。無気味な影を消そうとして、部屋の家具を必死で動かすシーンにはインパクトがあります。
 
 ゾナ・ゲイル『新婚の池』 町一番の金持ちである、初老の男ジェンズ。彼は突如、裁判所に現れて、妻を殺したと宣言します。池に妻を突き落としたというのです。しかし妻のアグナはぴんぴんとしていました。やがてジェンズが妻を殺したと言う池からは、若い夫婦が車に乗ったまま死んだ姿で発見されます…。
 ジェンズの語ることは、事実なのか妄想なのか。妻を殺したという妄想のはしばしから、夫婦生活の倦怠感と、歳をとってしまったことへのやるせなさが滲み出る…といった感じの作品。一般小説としてみても、なかなか味わい深い作品です。

 ウィラ・キャザー『成り行き』 弁護士のイーストマンは、近所に住むカヴェノーという青年と親しくなります。話の最中、ふと自殺者の人生についての話題になり、ふたりは興味深くそれについて論じ合いますが…。
 他人の人生は、結局理解することはできない…。人生の不可知な面について書かれた、これはかなり難解な作品。

 イーリア・ウィルキンソン・ピーティー『なかった家』 年上の夫と結婚した、うら若い妻は、移り住んだ農場のまわりに人気がないのに退屈していました。ふと、視界のはしに小さな家があるのを見つけた妻は夫に問いただします。あそこに住んでいるのはだれ? 隣人とつきあってはいけないの? しかし、夫はあそこには誰も住んでいないと答えます。そもそも、家などあそこには存在しないのだと…。
 「家の幽霊」を扱った、切れ味するどい掌編です。妻が、本格的に怪異に関わり合うのではなく、かすかにすれ違うような、あっさりとした展開が、逆に新鮮です。

 エレン・グラスゴー『幻覚のような』 名医マラディック博士の夫人は、心を病んでいました。お付きの看護婦として派遣されたマーガレットは、家につくなり、小さな女の子と出会います。てっきり夫人の娘だと考えたマーガレットでしたが、娘は二ヶ月前に亡くなっているというのです…。
 夫人とマーガレットにしか見えない娘の姿。それは妄想だと否定するマラディック博士と精神科医。娘の幽霊は、実在するのか妄想なのか? 娘の幽霊が、衆人環視の前で出現するクライマックスは、素晴らしい出来栄え。精神分析的な視点も取り入れた、良質なゴースト・ストーリーです。

 メアリー・ハートウェル・キャザーウッド『青い男』 旅先で「私」が出会った男は、妙に青みがかった皮膚をしていました。その男は、もう数十年も前に姿を消した恋人を待ち続けているというのです。やがて船でやってきた美しい老女は、件の男と出会うのですが…。
 過去の悲恋を巡る幽霊小説です。恋人のどちらかが、すでに死んでいるのではないか? という疑問を抱きながら読み進めると、驚きの結末が。
 なかなか面白い作品なのですが、「青い男」という設定があまり上手く生かされていない気はします。

 イーデス・ウォートン『ざくろの実』 新婚のシャーロットとケネス夫妻。幸せな生活を送る二人のもとに、ある日突然手紙が届きます。夫あてに届けられたその手紙には、差出し人の名前はありません。手紙が届くたびに苦悩を浮かべる夫に対し、シャーロットは、昔の恋人からなのではないかと疑心暗鬼に陥ります。そして夫は突然姿を消してしまいますが…。
 手紙の差出し人はいったい誰なのか? 死んだ前妻の影をちらつかせながらも、あくまで、具体的な情報は最後まではっきりしません。ゴースト・ストーリーなのかどうかすらわからないゴースト・ストーリーという、非常に技巧的な作品です。ちなみに、先年出たウォートンの怪談集『幽霊』に収録されている『柘榴の種』と同じ作品です。

 全体としては、「怪異」の説明や因果関係がはっきりしないものが多い、という印象を受けます。『なかった家』といい、『ざくろの実』といい、捉え方によっては「リドル・ストーリー」と呼んでもいいような類いの作品です。作品の中で「解釈」がはっきり示されす、現象面だけをポンと投げ出されたような印象を受ける作品が多いですね。
 これを「近代的」というのか「精神分析的」といっていいのか、同じ編者の『鼻のある男 イギリス女流作家怪奇小説選』の収録作品と比べると、その味わいの違いがよくわかると思います。その意味で「アメリカ」色がよく出たアンソロジーといえるのではないでしょうか。
この記事に対するコメント

早速のレビュウありがとうございます。 『黄色い壁紙』のギルマンから『あとになって』のウォートン
まで、なかなかの「手練れ」を揃えた感がありますね。

『鼻のある男』掲載作品とは異なって、怪異や因果関係をあいまいにして白日夢を見せるかの如き
作品、言わば「ゴースト・フィーラー」を意識した作品が揃ったように思います。

梅田氏の選集は、作家や作品のセレクトが他の怪奇小説の訳者たちのそれと異なった、ある種の
こだわりや矜持が感じられて、新刊がでるのが楽しみでもあります。
【2008/06/08 15:15】 URL | newt #- [ 編集]

>newtさん
いわゆる、怪奇小説専門ではない作家たちを集めているところが、またユニークなところでしょうか。もとからエンターテインメントを志向した作品でないだけに、読みにくさがあることも事実なのですが、読み終わった後の読後感は捨てがたいものがあります。
『鼻のある男』の収録作品が、物語性が強くて、それ自体で完結した趣があったのに対して、今回のアンソロジーは、読んだ後にも「考えさせられる」という意味で、テーマ性の強い選集になっていたような気がしますね。

正直、訳は硬いのですが、それを差し引いても、梅田氏のアンソロジーには見識が感じられて興味をそそります。ぜひこれからも、怪奇小説の翻訳は続けていただきたいですね。
【2008/06/08 18:20】 URL | kazuou #- [ 編集]


やっと読みました。
人生という意味では「新婚の池」は結構考えさせられる話ではあったりします・・・

今回のアンソロジーで思ったのは、(kazuouさんも「考えさせられる」と書いていらっしゃいますが)、女性の書く怪奇小説は、もしかしたら男性が書く物より曖昧さが強いのだろうか?それとも、それは今回の主旨なんだろうか?です。
まあ「魔物」が出てというパターンでない限り、ある程度曖昧なものではあるんですが、それにしても、何となく・・・・という感じが強いんだなぁと思いました。
【2008/06/30 20:26】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
もともと怪奇小説は「雰囲気」が命ですから、やっぱりそれを尊重していくと、ある程度「曖昧」にはなると思います。とくに「女性作家」だから、というわけでもないんじゃないでしょうか。
今回のアンソロジーでは、その「雰囲気」から派生する「余韻」と同時に、小説の「テーマ」から生まれる「余韻」もあったのではないか、と思います。そういう意味で「考えさせられる」という表現をしたんですよね。
正直、「新婚の池」なんかは、ちょっと「怪奇小説」とはちがうような気もするんですけどね。
【2008/06/30 21:16】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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