短篇ファンの福音書  『新・パパイラスの舟』
 1973~1974年ごろに『ミステリマガジン』誌に連載されていた、小鷹信光のエッセイ『新・パパイラスの舟』。このブログでも、以前に言及したことがあると思うのですが、このシリーズが僕はとても好きでした。毎回テーマを決めて、そのテーマに沿った海外短篇をいくつか選んで紹介するというコンセプトの、意欲的なエッセイでした。
 タイトルに「新」とつくのは、それ以前に『パパイラスの舟』というエッセイがあって、それの続編という肩書きだったからですが、旧シリーズの方が単行本化されたのに対して、この「新」の方は雑誌に埋もれたままでした。
 ところが、ここにきて、このエッセイを単行本化するという情報があり、ひじょうに嬉しく思っています。出版元は論創社なのですが、仮タイトルを見てみると『新パパイラスの舟 21の短篇』というものになっています。これはもしかして!と思っていたら、案の定でした。今月号の『ミステリマガジン』で小鷹氏自身が「オマケつき」と書いておられます。詳しいことはまだわかりませんが、どうやら、エッセイ部分に加えて、短篇の「オマケ」がつくようですね。これは本当に好企画。実際の刊行期日はまだ未定のようですが、鶴首して待ちたいと思います。
 さて、この『新・パパイラスの舟』、具体的にどういう内容なのか、ちょっと例を挙げて説明してみたいと思います。
 例えば、1974年3月号に掲載された回の特集は「ドリーム・ファンタジー選『夢見る男たち』」。ジョン・コリア『夢判断』、チャールズ・ボーモント『夢と偶然と』、リチャード・マシスン『人生モンタージュ』などの、異色作家の定番短篇に加えて、アントニー・ギルバート『眠ってはいけない』、C・B・ギルフォード『夢の中の犯罪』など、雑誌に訳載されたマイナー短篇もいくつか紹介しています。
 1974年2月号の特集は「不完全脱獄講座『夢多き男たち』」。シオドア・スタージョン『監房ともだち』、ジャック・フィニィ『独房ファンタジア』、ウィルスン・タッカー『出口あり』、モリス・ハーシュマン『囚人が友を求めるとき』など、「脱獄」に関わる短篇が集められています。
 上に挙げた例からわかると思いますが、狭義の「ミステリ」にこだわらず、いわゆる「異色短篇」や「ファンタジー」も含めて、ひじょうにヴァラエティに富んだセレクションがされているのが、いちばんの特徴です。
 ほかにも「動物奇譚選『十二支殺人事件』」「正論風インタールード『悪魔との契約』」「旅人ファンタジー選『見知らぬ町、ゆきずりの人』」「謎の書簡1『手紙だけでもミステリは書ける』」「精選探偵犬物語『愛犬にご注意』」「契約殺人入門『殺し屋稼業も楽じゃない』」など、毎回趣向を変えて、楽しませてくれています。
 著者の語りも「です・ます」調のやわらかいもので、読みやすく、時折ユーモアも交えていて、とても楽しいものになっています。「手紙」テーマの回では、それこそエッセイというよりは「創作」に近いほどの凝りよう!
 ちなみに、このエッセイの実践編として、大和書房というところから、いくつかのテーマ・アンソロジーが出ていました。出たのは次の五冊。

 『とっておきの特別料理 美食ミステリ傑作集』
 『冷えたギムレットのように 美酒ミステリ傑作集』
 『ラヴレターにご用心 手紙ミステリ傑作集』
 『ブロードウェイの探偵犬 犬ミステリ傑作集』
 『ハリイ・ライムの回想 詐欺師ミステリ傑作集』


 『美食ミステリ傑作集』『美酒ミステリ傑作集』『詐欺師ミステリ傑作集』の3冊に関しては、河出文庫で再刊されています。どれも傑作揃いのアンソロジーなので、興味を持たれた方はぜひ。
 『新・パパイラスの舟』刊行を機に、これらのアンソロジーもぜひ復刊していただきたいですね。
この記事に対するコメント
『新・パパイラスの舟』
こんにちは。
『新・パパイラスの舟』出版、うわあ、待ち遠しいです。いつ頃になるんでしょうね。
アンソロジー好きにはたまりません。
私も“鶴首して”待ちます!

これって、船じゃなくて舟なんですね。
【2008/05/04 14:31】 URL | タツナミソウ #- [ 編集]

>タツナミソウさん
『新・パパイラスの舟』みたいな「短篇ガイド」って、これ以来、未だにほとんどないんですよね。その意味で、今でも貴重な内容だと思います。
短編集ブームのいまこそ、「復活」にふさわしい時期なのかもしれません。

僕もときどき勘違いするんですけど、タイトルは「舟」なんですよね。
【2008/05/04 20:04】 URL | kazuou #- [ 編集]


こんばんは。
文庫になった3冊は持っているんですが、(うろ覚えですが、いま思うとハードカバーの方には、短編だけじゃなくて「一言メモ」みたいなのがついていたような気がします。詐欺の方法で「ミッキー・マウスを大統領に」云々って話がのっていたような。。。

文庫化されたものしか持っていないので、ぜひ、全部出してほしいです。

【2008/05/04 22:19】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
小鷹信光アンソロジーは、5冊ともいい本ですね。文庫になっていない2冊の方も、「犬」の方はともかく、「手紙」の方はすっごく面白かったです(「犬」テーマのアンソロジーは他にもありますしね)。

近年、短編集ブームでいろいろな作家のものが出ていますが、テーマ・アンソロジーはあんまり出ていないような気がします。そういえば、むかしの『ミステリマガジン』の読者欄なんかを読むと「短篇傑作選」を出してほしい、という要望がよく載ってますけど、早川はぜんぜん出してくれないですねえ。『新・パパイラス』も本来なら、早川がやるべき企画なのに…。
【2008/05/04 22:59】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/304-98c44ccb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する