鳥の飛ばない世界 フジモトマサル『二週間の休暇』
4062140659二週間の休暇 (MouRa)
フジモト マサル
講談社 2007-10-26

by G-Tools

 フジモトマサルは、暖かみのある絵と、どこかシュールなユーモアセンスとを持った、ユニークな漫画家兼イラストレーター。主に、擬人化された動物たちを主人公にした、四コマ漫画や短篇漫画を得意としていますが、今回の『二週間の休暇』は、初めての長編作品です。
 若い一人暮らしの女性、日菜子は、目覚めると何事もなかったかのように、フライパンを洗い、買い物に出かけます。町に出ると、通りすがるのは、二本足で歩く大きな鳥たち。しかし日菜子は、それらを不思議とも感じません。
 夕食を食べている最中に、突如鳴り響いたサイレンに驚いた日菜子は、それを機に、同じアパートに住む住人たちと知り合います。アパートの最古の住人である「長老」、発掘をしている「ロンゴ」、フリーペーパーを編集している「よもぎ」。仕事を尋ねられた日菜子は、しかし自分が何をしていたのか、どういう素性なのかも、まったく思い出せないことに気づきます。記憶があるのは、昨日のことだけなのです。
 同情した「よもぎ」から、雑誌編集を手伝わないかと誘いを受けた日菜子は、その申し出を受けます。彼女は、記憶を失いながらも、その町の生活にどこか充実感を覚えつつありました。そんな折り、突然、日菜子の部屋に怪しい二人組がたずねてきます。二人組は、日菜子に「記憶の紅茶」セットを持ってきたと告げます。

 丸いラベルの紅茶を飲むと失った記憶がよみがえります。
 四角いラベルの紅茶を飲むとそれまでの記憶が消えます。
 もし過去が知りたくなったら試してください。
 熱湯で3分。


 不審に思いながらも、好奇心に囚われた日菜子のとった行動とは? 彼女の過去の秘密とは? そして徐々にこの世界の秘密が明らかになっていきますが…。
 二本足で歩き、人間の言葉を話す鳥たちが住む世界。そして、その世界を当たり前のように歩く日菜子。そうか、これは、鳥たちと人間たちが同居する世界なんだな、と読者が納得しかけた矢先に判明する、日菜子の記憶喪失。そういえば、日菜子以外に、この世界には「人間」は登場していない…。
 この世界自体、そして日菜子の過去に何か秘密がある、ということが明らかになっていくプロセスはとても刺激的です。しかしそんなサスペンスフルな展開にもかかわらず、物語の流れ方は、飽くまで落ち着いています。それは、この世界では、時間はゆったりと流れ、あくせくする「人間たち」はいないからです。そして主人公の日菜子もまた、記憶喪失という状態にありながらも、その状況を受け入れ、楽しみさえしているのです。
 町の住人たちや、その生活の描写にも魅力があふれています。年がら年中、発掘の仕事を続ける「ロンゴ」、雑誌編集に生き甲斐を見いだす「よもぎ」、自分で書いた膨大な本だけを売る「ニライ書房」の主人など、こまごました部分も丁寧に描かれています。
 後半、「ロンゴ」が発掘現場から掘り出した謎の品物たち。それらを見た日菜子は、世界の成り立ちを知ります。そして、結末に至って読者は、「二週間の休暇」の意味を知ることになるのです。
 素朴な絵柄、全編手書きのセリフ文字、レトロな町並み、落ち着いた雰囲気の物語は、読者を癒してくれるはず。単なる「動物擬人化」ファンタジーだと侮るなかれ。 
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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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