避けられない運命  ゼナ・ヘンダースン『ページをめくれば』
4309621880ページをめくれば
ゼナ・ヘンダースン 安野 玲 山田 順子
河出書房新社 2006-02-21

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 今回は、《ピープル》シリーズや名作短編『なんでも箱』で知られるアメリカの作家ゼナ・ヘンダースンの『ページをめくれば』(安野玲、山田順子訳 河出書房新社)です。著者が学校の教師をしていたという経歴からか、子供の感性や想像力をテーマにしたファンタジーが多いのが特徴です。面白かったものを紹介しましょう。
 『光るもの』は、大恐慌時代、貧乏な母子家庭の娘が隣家の風変わりな夫人の家に手伝いに行く話。この老婦人がいつも家中をかき回して「光るもの」を探しているのだが、娘がついにそれを見つける…。導入部のミステリアスさが秀逸です。
 『しーッ!』は、体が弱いが、豊かな想像力を持つ少年が、音を喰う《音喰い》を作り出してしまったことから悲劇が起こる…というホラー風味の作品。唖然とする結末です。
 『先生、知ってる?』は、家庭に問題を抱えているらしい少女が、その内情を教師にことごとに打ち明けるという話。だんだんと事態がエスカレートしているのが教師にはわかるのですが、少女自身はその重大さにまるで気付かないところが怖さを増幅させます。「先生、知ってる?」というリフレインが効果的に使われたミステリ。
 『信じる子』は、あまりにも素直なために、あらゆる話を真実だと思いこんでしまう少女が主人公。お話に出てきた呪文を信じ込んだ少女は、いじめっ子に対して、それを使うが…、という話。想像力が実在を作り出すというテーマの作品です。
 『グランダー』は、病的な嫉妬心を持つ男が、妻にいわれのない嫉妬を抱き続け、夫婦仲が破綻寸前になりますが、信頼の念を手に入れられるという言い伝えのある伝説の魚「グランダー」を求めて釣りに出かける…、という話。「グランダー」の存在はともかく、男が妻に嫉妬を抱くシーンの描写に生彩があります。
 そして巻末に置かれた『鏡にて見るごとく-おぼろげに』。この作品が集中では一番の力作でしょう。
 ある日「わたし」は、現実の風景に重なって別の光景が見えるようになります。ドクター・バーストウに診察してもらっても肉体的な異常は見つかりません。やがてその光景は過去の時代のものなのではないかと「わたし」は考えますが、ある時ドクターの先祖らしき店の風景が見えたことから、その確信を深めます。

 「なら、わたしが見てるのはその時代なんだわ! 世紀の変わり目ごろ!」

 その後「わたし」は一人の女が埋葬される光景に立ち会います。女性はゲイラという名前らしいことを知ります。そして次に見た光景に現れたのは、学校にいる一人の少女。その名はゲイラ! どうやら「わたし」の目は、ゲイラの生涯を過去にたどっているようなのです。やがて「わたし」は、ゲイラの生涯に決定的に関与することになるのですが…。
 過去の人物の生涯を死の時点からたどり直すという視点がユニークです。その生涯の結末を知りながらも、雄々しく生きるゲイラを見つめる「わたし」の思いは非常に複雑です。彼女の運命は既に決定されてしまっており、それを幸福に変えることは「わたし」にもできないのです。結末で「わたし」を諭す夫ピーターの言葉は印象的です。

 「他人の人生の価値を判定する裁判官や陪審員に任命されたなんて、思っちゃいけない。きみはほんのわずかな断片しか知らないんだ。それに、その断片すら、すべて幻覚なんだ」

 しょせん人間の運命を変えることはできないという諦観、それにもかかわらず強く生きる人間への生命の讃歌。安易なハッピーエンドを使わずに現実の苦さをも取り込んだ、実に見事なファンタジーとなっています。
 ヘンダースンの作品は、大抵の場合、子供の無垢やその純粋性を前提にして書かれているので、そのナイーヴさがうまくプロットと絡み合っているときには、素晴らしい作品が生まれます。しかし、あまりにそのナイーヴさが極端になってしまうと、読者を白けさせてしまう恐れがあります。本書で言うと、異星人とのファースト・コンタクト・テーマを扱った「小委員会」や、《ピープル》シリーズに属する「忘れられないこと」、子供のころの想像力を忘れた大人たちへの提言「ページをめくれば」などは、その意味でどうも傑作とはいいがたい面があります。しかし、ほどよくその感性が発揮された作品では、透明感あふれるファンタジーを味わうことができるでしょう。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

こんにちはー。
この前本屋さんでみかけて気になったんですけど、以前読んだ〈ピープルシリーズ〉があんまり合わなくって買うのは見合わせてしまいました。
とりあえず図書館で借りて読んでみようと思いますが、感想を拝見するとやっぱり面白そう。
奇想コレクションの刊行予定ではコニー・ウィリスが一番楽しみなので早く出ないかなーと待ってます(^^)
【2006/02/27 14:25】 URL | nine #RS4k0RpE [ 編集]

たしかに…
実は僕も《ピープル》は、あんまり肌に合わなかったんですよね。ちょっと偽善的に感じじゃったりして。『ページをめくれば』にも《ピープル》の短編が入っているんですけど、それが一番つまらなかったりします。編者の方はボーナスのつもりのようなので、申し訳ないんですけど。すごいっ!っていうほどの作品があるかというとそうでもないんですが、小粒の佳作がちょこちょことあるので、読んで損はないのではないかと思います。
ウィリスはどうやら最終配本のようですよ。個人的に一番楽しみなのはロバート・F・ヤングなんですが。
【2006/02/27 19:13】 URL | kazuou #- [ 編集]


え、え‥おふたりとも”ピープル・シリーズ”だめ?
私はSFマガジンで最初に出会いすっかりまいってしまいました。これの日本版を目指した恩田陸の”常世シリース”゙は失敗していますね。アメリカの中西部の閉鎖的な町だから雰囲気が出るのでしょうか。
ところで、ヤングといえば「タンポポ娘」でしたっけ?
【2006/03/04 20:26】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

悪くはないと思うんですけど…
《ピープル》シリーズは、多分10代のころに読むと、すごく、はまるんじゃないかとは思います。って考えたら僕も読んだの10代じゃん! あまりにも善意にあふれているというか、その辺が魅力だとは思うんですが、僕としては、ちょっと胡散臭く思ってしまったところがあります。こんな超能力を持ってるやつらが、いったい何を考えてるんだ、って感じで。
逆に、恩田陸の「光の帝国」は、結構気に入ったんですけど。

そうです、ヤングは「たんぽぽ娘」ですね。この人の作品もすごく甘ったるいんですけど、それがうまくSFの衣とマッチすると、例えようもなく魅力的な作品が生まれますね。「ジョナサンと宇宙クジラ」は僕の愛読書の一つです。
【2006/03/04 20:51】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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