恋の七変化  アンリ・トロワイヤ『ふらんす怪談』
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ふらんす怪談
アンリ トロワイヤ 渋澤 龍彦
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 今日紹介するのは、ロシア生まれのフランス作家アンリ・トロワイヤの『ふらんす怪談』(澁澤龍彦訳 河出文庫)です。
 ところで皆さんは、恋愛に必要なものって何だと思いますか? 情熱? 思いやり? いえいえ、もっと重要なものがあります。人格です。一貫した人格がなければ、人は人を恋せません。そんなの当たり前だろ、と言われるあなたに読んでいただきたいのが、この作品『ふらんす怪談』収録の『恋のカメレオン』です。
 あらゆるものを亡くした孤独な青年アルベール・パンスレは首つりをしようとした直後に、奇妙な小男フォスタン・ヴァントルに自殺を止められます。金銭的な保障と引き替えに、アルベールは、オットー・デュポン教授の人体実験を受けることを勧められ、承諾します。デュポン教授は性格の矯正を研究している学者でした。

 先生はその療養所で、性格を形成したり改造したりするという、先生御自身の発明になるところの療法を用いておられます。気の小さい男がやってきて、《横暴な人間になりたいんですが》と言いますね。注射です。それから十日間の安静です。さてそれが終わりますと、このお人好しはバルコニーで獅子吼する独裁者の気分になって、家へ帰るという寸法ですよ。

 《絶大な自信家》の注射をされたアルベールは、療養所内で可憐な女性ヨランド・ヴァンサンに出会い恋をします。しかし再び出会ったとき、ヨランドは、《思慮深い聡明で勝ち気な女》になっていたのです。アルベールも再び注射を受け、性格を変えられます。以後二人はお互いに惹かれながらも、デュポン教授の実験により性格を様々に変えられ続け、すれ違いを繰り返すのです。同僚たちは、彼らに同情し《恋のカメレオン》と名付けます。二人の恋の行方はどうなるのでしょう…。
 二人の恋人は、性格の一貫性を取り戻そうとするのですが、皮肉な結末が待ちかまえています。恋の対象とは一体何なのか? 人間の恋愛心理を軽妙に切り取った絶妙な作品です。
 本書には他に、妻が新しい恋人を作ったためにあらわれる夫の幽霊を描いた典型的な幽霊話『自転車の怪』、幽霊の死を目撃する男のふしぎな物語『幽霊の死』、必ず当たる死亡統計の謎を描く不気味な話『死亡統計学者』などが収められています。題材は超自然的なものを扱っているのが多いのですが、そのタッチはユーモアをたたえた洒落た作品ばかりです。
 本書も現在絶版ですが、『自転車の怪』は、『怪奇小説傑作集4 フランス編』(澁澤龍彦・青柳瑞穂編訳 創元推理文庫)に入っています。こちらは入手が容易だと思うのでご一読を。この本もいかにもフランス風の洒落た作品が多いのでお勧めです。

この記事に対するコメント
はじめまして
コメントありがとうございます。ご紹介されている本、面白そうな本ばかりで楽しみです。アンリ・トロワイヤって短編集も出てるんですね。…って入手困難なのか。機会があれば読みたいです。
【2006/02/19 23:48】 URL | 眠子 #mZNgjZVc [ 編集]


眠子さん、こんにちは。
トロワイヤは、最近長編もいくつか出たようですね。この人はものすごく小説が上手い人だと思います。『ふらんす怪談』は、遊び心たっぷりの短編集なので、とても楽しいですよ。
【2006/02/20 08:30】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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