不思議の国のミステリ  ジェイムズ・パウエル『道化の町』
4309801080道化の町 (KAWADE MYSTERY)
ジェイムズ・パウエル 森 英俊 白須 清美
河出書房新社 2008-03

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 ジェイムズ・パウエルは、ジャンルで言えば「ミステリ作家」に分類されるであろう作家です。しかし、彼の作品集『道化の町』(森英俊編 白須清美訳 河出書房)を読めば、そのバラエティに驚かされることでしょう。ミステリ、SF、ファンタジー。ミステリ作品にしても、オーソドックスなミステリなどはありません。この作家ならではの、工夫をこらした作品が楽しめます。以下、面白かったものを紹介します。

 『最近のニュース』 ジョージは、空想癖のある妻ドロシーから、おかしな話を聞かされます。管理人は国際的なゴミ箱の蓋窃盗団の首領で、エレベーターのボーイは、マウマウ団員、そして隣人の作家ベンスンは自分に惚れており、タイプライターでメッセージを送ってきている、と。いつもの妄想癖だと考えるジョージでしたが…。
 想像力豊かな妻の妄想がじつは…という奇妙な味の作品。筋はそう珍しくもないものの、妻の妄想の突拍子のなさに面白みがあります。

 『ミスター・ニュージェントへの遺産』 猜疑心の強い老女、ミセス・ボウルズのもとに訪問を続ける青年ニュージェント。遺産目当ではないかと考えたミセス・ボウルズは、彼に遺産相続の見込みのないことを告げます。しかし、彼は態度を変えず、彼女のもとを訪問し続けるのです。彼は純粋に善意から訪問してくれるのだろうか? 疑問に思いながらも、ミセス・ボウルズはニュージェントに好意を抱くようになっていきますが…。
 孤独な老女を訪れる青年の思惑とは…? 思わぬ「善意」と「悪意」が明らかになるラストには、何とも言えない趣があります。

 『プードルの暗号』 おばのフローラが全財産をペットの犬ピーチズに遺し、家政婦のライダを後見人にしたことに対して、おいのトビーは遺言状の無効を申し立てようとします。フローラは晩年、ピーチズが暗号でメッセージを送っていると考えていたのです。しかし、ピーチズに初めて会ったトビーは、犬が自分に何かメッセージを送っているように思えてしょうがないのです…。
 犬がメッセージを伝える、これが何かのトリックなのかと思いきや、後半の展開は驚きです。犬の目的とはいったい何なのか…? ある種ホラーとしても読める無気味な作品です。

 『オランウータンの王』 何とか生計を立てることに成功しつつあった絵本作家の「わたし」は、ふと自分の成功の原因に思い当たります。動物園のオランウータン、イグナティウスが自分に成功を約束してくれたからにちがいない。動物園の彼の檻の前には、なぜか列を作って人々が並んでいました。まるで「請願者」のように。「わたし」はひそかに彼を「オランウータンの王」と呼んでいました。しかし、突如イグナティウスが死んだあと、彼の後継者ミスター・イグナッツは「わたし」のことを嫌っているようなのです…。
 成功を約束してくれる「オランウータンの王」を巡るファンタスティックなクライム・ストーリー。イグナティウスが登場するあたりから、全く予想のつかないストーリーが展開していきます。不自然な設定ながら、不自然さを感じさせないのは作者の手腕でしょうか。「わたし」がイグナティウスに寄せる親愛の情は、妙な味を出しています。

 『詩人とロバ』 ロバに言葉を教えることに成功すれば、莫大な褒美がもらえる…。まったく目算もなく、その仕事を引き受けた詩人のアブ・ネスラディンは、約束の十年間を遊んで暮らします。その間に、奇跡が起こるかもしれないし、王が死ぬかもしれない。しかし約束の期日が迫ってもロバは話す気配すらありません。詩人はなんとか王を煙に巻く手段を考えようとしますが…。
 詩人の考えた奇策とは…? 機智のあふれるファンタジー作品です。

 『時間の鍵穴』 ある日、ホガースの家を訪れた二人の男女。彼らは未来人だと名乗り、驚くべきことを告げます。ホガースが、いとこのエドガーをすぐに殺さなければ、悲惨な未来が待っている、と。二人にそそのかされて殺人を犯してしまったホガースは、やがて未来につながる「時間の鍵穴」を発見します…。
 これはなんと、タイムトラベルを扱ったSF作品。殺人によって未来の崩壊は防がれたはずが…。変質者的な主人公の行動を暗示する結末が、ひじょうに無気味な余韻を残します。

 『アルトドルフ症候群』 ヘリコプターに乗り込んだ、蒸留所の営業部長フィリップ・マグラスは、いつの間にか、同乗者がいたのに気づき驚きます。彼は突拍子もないことを話し出します。自分は1725年からずっと旅をしている、アルトドルフ城の公爵のダイヤモンドを盗んだ犯人を突き止めない限り、永遠にさまよう運命なのだ、そしてその謎を解いてくれなければ、あなたを殺す…。
 設定はファンタジーながら、作品の中身は純粋なパズラー、といった趣の作品です。謎解きそのものは、よくできているのですが、あくまで現実の論理で解決されてしまうのが、少々物足りないところではあります。「アルトドルフ症候群」のネーミングの由来は秀逸。

 『愚か者のバス』 各国のスパイ組織が、組織の役立たずの人材を一挙に始末してしまおうと考えます。任務だと偽り、バスに乗り込まされたスパイたちでしたが、なぜか次々と乗客たちが殺されてしまいます…。
 つぎつぎと、登場人物たちが殺されてしまうという設定ですが、タッチはあくまでコメディ。いちおう犯人探しがあるのですが、それがどうでもよくなってしまうほどの楽しさです。トンネルをくぐるたびことに、何人も「瞬殺」されてしまうというのが笑えます。

 『道化の町』 「道化」ばかりが住む町クラウンタウンで、殺人事件が起きます。殺されたのは、詐欺師でありギャンブラーでもあるバンコでした。彼はバイ投げで食らったパイで毒殺されたというのです。ボゾ警部はパイに毒を入れた犯人を捜しますが…。
 「道化」ばかりの町という、ファンタスティックな設定を上手く生かしています。町の描写や、被害者の殺され方などの表面的な部分のみならず、犯罪が起きた理由やその手段までもが、物語の背景と密接に結びついているという、じつによくできた作品です。
 「マイム」たちに人気を奪われつつある「道化」という設定も秀逸。この世界ならではの展開と結末といい、傑作と呼ぶに値する作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

図書館で順番まっているので楽しみにしている本です。
なので、kazuouさんの解説は今はちゃんとは読んでいません。
本読んだら、またコメント書かせて頂きます。

メーラーがおかしくなり、過去のメールはあるものの、メーラー入れ替えなどですっかり時間がとられてしまいご無沙汰しておりました。
PCに支配されている生活・・・って感じです。
【2008/03/26 17:37】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
期待していたのとはちょっと毛色が違ったんですが、充分満足のゆく作品集でしたよ。
ここまで「変」な作品(いい意味で)を書く作家とは、驚きでした。
個人的には、『詩人とロバ』とか『時間の鍵穴』などの、ファンタジーがかった作品がよかったです。
【2008/03/26 19:08】 URL | kazuou #- [ 編集]


十分楽しめましたが、かなりヘンで、合わない作品もいくつもありました。
好みなのは「最新のニュース」「プードルの暗号」「ミスター・ニュージェントへの遺産」のあたりですね。
「アルトドルフ症候群」の時間の旅人(?)の設定も、ありそうで、ないような感じでした。
【2008/03/31 20:09】 URL | fontanka #- [ 編集]

ヘンですよね
僕は「ヘン」な話が好きなんですけど、たしかに『オランウータンの王』あたりなんかは、ちょっと「ヘン」すぎて、ふつうの趣味の人には合わないかもしれませんね。
「アルトドルフ症候群」みたいな設定も、たぶん探せばあると思います。でもなんか雰囲気が独特なんですよね。
パウエルは、すごく面白かった!という感じではないんだけど、病み付きになるタイプの作品を書く作家だと思います。
【2008/03/31 22:23】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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