心の声  清原なつの『家族八景』
404725018X家族八景 上巻 (1) (KADOKAWA CHARGE COMICS 16-1)
筒井 康隆 清原 なつの
角川書店 2008-03-05

by G-Tools
4047250198家族八景 下巻 (2) (KADOKAWA CHARGE COMICS 16-2)
筒井 康隆 清原 なつの
角川書店 2008-03-08

by G-Tools

 人の心が読める超能力を持つ少女、火田七瀬を主人公にした〈七瀬もの〉3部作は、筒井康隆の作品のなかでも、とくに人気のあるシリーズです。3部作の中では、第2作『七瀬ふたたび』が、飛び抜けて知名度と人気があるようです。超能力者たちを巡るアクション小説の趣のある作品ですが、スピーディな展開といい、面白さは抜群です。ドラマ化された作品で覚えがある方もいらっしゃるでしょう。
 その点、シリーズ第1作である『家族八景』は、『七瀬ふたたび』に比べると、少し地味な作品であることは否めません。ですが、漫画家、清原なつのは、今回、あえてこの作品の漫画化に挑戦しています(清原なつの『家族八景』角川書店 KADOKAWA CHARGE COMICS)。
 原作は、お手伝いとして様々な家庭に入り込んだ七瀬が、ひとびとの心理を見聞きする…というコンセプトの異色心理作品です。あまり展開に動きのある作品ではなく、あくまで人々の心理を七瀬が探る、というものですので、この作品が漫画化されたと聞いたとき、一抹の不安を覚えたのですが、その心配は杞憂に終わりました。
 原作のいちばんの特徴は、七瀬が聞く登場人物たちの「心の声」の表現です。実際に発音された言葉とは別に「心の声」が地の文に混じって表記されるのです。そのため、複数の登場人物たちが同時にしゃべっている場面などでは、それぞれの人物の実際の会話と「心の声」とが混じって表記されるので、かなり読みにくいシーンもあります。
 さて、清原なつのはこの「心の声」をどう表現しているのか?というと、登場人物の背後に、その本音を語るデフォルメされた人物像を配置することによって、この表現を視覚化しています。安易な方法のように思えますが、これが思いのほか効果的。本音を語る人物像に、その本音に見合った表情や態度をとらせることによって、実際の態度と本音が、ひと目で分かるようになっているのです。この点、原作よりも非常に整理されて、わかりやすい印象を受けます。
 かわいらしい絵柄で知られる著者だけに、主人公七瀬のキャラクターは非常に可憐。原作では「強い女」のイメージがあるだけに、少しギャップがあるような気もしますが、これはこれで魅力的です。基本的には、原作のストーリーを忠実に漫画化していますが、時折見られる漫画ならではの表現にハッとさせられる面もあります。
 最初はただ、家族たちの傍観者だった七瀬が、自分の身に危険が及ぶことを察知し、能力を活用して非常に攻撃的なアプローチをするエピソードがいくつかあるのですが、ことに、これらのエピソードに味があります。例えば『水蜜桃』のエピソード。自尊心を回復するために、七瀬を襲おうとした初老の父親に対して、七瀬の精神的な攻撃によって、父親の精神が崩壊してしまう、という場面の表現などは非常にユニークに描かれています。
 全体を通して、いわゆる「いい人間」はほとんど登場しません。どんな人間も一皮剥けば、自尊心と虚栄心のかたまり…。原作は、醜悪な人間心理を暴く、といったトーンが強い作品なのですが、清原なつのの細やかな絵柄で、そのアクの強さがいくぶん和らげられており、一般の方にも読みやすい作品に仕上がっているように思います。原作を知らなくても、もちろん楽しめますし、また原作とは別個の作品としてみても、充分な魅力を備えた作品だといえるでしょう。

テーマ:コミック - ジャンル:本・雑誌

この記事に対するコメント

はじめまして。高校生の頃小説を読みました。この傑作が漫画化されてたんですね。
「ふたたび」は何度もドラマやコミックにもなってましたが、まさか「八景」が!
三部作の中では一番好きな作品です。ぜひ手に入れたいですね。表紙を見たら
清原先生のナナちゃんは私のイメージ通りでしたよ。この可憐な絵であのドロドロ
した世界をどう描いているのか?期待に胸が膨らみます。この流れで「エディプス」
も…なんてね(笑)
【2011/10/06 18:24】 URL | にゃるにゃる #- [ 編集]

>にゃるにゃるさん
にゃるにゃるさん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

ぼくも三部作の中では、『家族八景』がいちばん好きです。一作目と同じスタイルで何巻も書けそうな題材なのに、三部作がそれぞれ違った味わいになっているというのも、考えたらすごいですよね。
清原なつののコミカライズは、すごく洗練されていて、原作とはまた違った魅力がありますよ。オススメです。
【2011/10/06 19:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/295-ec56a728
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する